第354話 ウミユ その21
「ん~~~!よく寝たぁ」
「おはよう、よく眠れたようで良かった。食事にするか?」
久しぶりのお昼寝は ダンジョンという場所にもかかわらず 非常によく眠れました。
これもお父さんたちが側にいてくれるという安心感があるからでしょう。
今日は野営もここでするから テーブルや火台もセット済み。テントも3つ並んでいる。
お腹は空いていると言えば空いているけど、今しっかり食べると確実に夕飯が食べられないだろう。
「量が心配じゃったらパンケーキにするか? ココッコの卵に カウカウのミルクもあるから作れるぞ」
ウ~ンと悩んでいたら お父さんから素敵な提案が。
お父さんのパンケーキは 粉をミルクで溶くんだよね。フワフワで美味しくて 家に帰ってから食べるのが楽しみなデザートパンケーキ。
大喜びしてたら嬉しそうに準備をしてくれる。
「うわぁ、良い匂い~」
『駄目よシエナ、このダンジョンに来てから明らかに食べ過ぎだもの。美味しそうだけど さっきだってお昼にあんなにしっかり食べたもの、我慢よシエナ』
1枚だけなので フライパンを使って焼いてくれているけど ふんわり優しい良い匂いがしてくる。バターとミルク、お砂糖はそんなに入れてないけど ふんわり甘い香り。
トンガお兄ちゃんは お父さんの周りをクルクルしはじめて 邪魔だと怒られているし、シエナさんは テーブルから離れてセフティーゾーンギリギリのところで外を向いて何やらブツブツ唱えいる。
「父さん 俺も食いたい」
「え、ルンガずるい!父さんそれなら僕も食べたい!」
「お前らはさっき昼飯を食っておるじゃろうが。食いたいならクルトに作ってもらえ。クルト、そのタネは使ってしもうてええぞ」
クルトさんはお父さんの隣でレシピをメモしてたからね。
ワクワクさんのお兄ちゃんたち二人をあしらいながら パンケーキを焼いている。なんだかんだ面倒見が良いんだよね。
「ほれ、1枚だけにした分 フルーツをたっぷりにしておいたぞ」
お父さんが持ってきてくれたお皿には フワフワのパンケーキに溶けたバター、パンケーキを囲むように 賽の目切りにされた色とりどりのフルーツ。
この短時間に作ったとは思えないクオリティー、凄く美味しそうだ。
「わぁ、フルーツも沢山ある! お父さんありがとう、いただきます」
ナイフで切って一口大にしたパンケーキだけをまずは一口。
ふわっとした柔らかさ、口の中に広がる ミルクとバターの香り、幸せの味がブワッと広がってくる。
次はフルーツを乗せて一緒にパクリ。
フルーツの甘さがミックスされて これまた美味しい。
酸味のあるフルーツ、甘みが強いフルーツ、色んな種類を混ぜてくれてるから 飽きることなく1枚をペロリと完食してしまった。
「美味しかったぁ~、お家に帰るまでは食べれないと思ってたのに 幸せ。
お父さん美味しかったです、ごちそうさまでした」
「うん、喜んでもらえて良かった」
お父さんもニコニコ、私もニコニコ、お兄ちゃんたちもニコニコ、シエナさんだけは ウグウグしているけど 食べないのかな?
「乙女の究極の選択だそうだから まあ放置しておいてやってくれ。
アルクさん、もしまたパンケーキを作ることがあれば 俺も教えてもらっていいですか?」
乙女の選択なら仕方ないよね。
まああれだけ動いている人たちなんだから そんなに気にしないでも消費できると思うんだけど、そういう問題ではないんだろう。
でもレスさんが作れるようになれば、いつでもお家で食べれるようになるし良いね。
お腹がいっぱいになったところで 森の雰囲気が少し変わった事に気付く。
到着したばかりの時は サンサンと降り注ぐ太陽って感じだったのに 今は少日が傾いている感じ?真昼って感じの明るさではない。
「そういえば今何時くらいなんだろう。このお空の色は 外と同じなのかな」
「ダンジョン内の昼夜が外と同じかは分からんが、大体今の時間は15時頃じゃな。
ヴィオが昼寝をしてから2時間っちゅうところじゃろ。
年末じゃし 大分日が落ちる時間が早くなっておることを考えたら 後2時間もすれば日が落ちる筈じゃ」
季節によって日照時間が違うのは日本と似ているけど、まさかダンジョンも季節によって違うのか。
いや、昼夜がないダンジョンも多いし、偶々かもしれないね。
それよりも2時間も寝てたのか。そりゃスッキリしている筈だ。
流石に2時間も経過していれば 襲撃者たちも11階に到着しているだろうと思い マップを確認してみる。
「ん?いない……?」
階段付近から 二つ目のセフティーゾーンまでを満遍なく見ても 気配隠蔽をしているような薄っすらした印すら見つからない。
「お父さん、破落戸ってもう来た?」
「いや、まだ来ておらんし 多分まだ下りてきておらん」
私が寝ている間に終わらせたという事ではなかったようで安心したけど、まだボス戦中って事?
このセフティーゾーンに来るまでの移動時間を含めたら それなりに良い時間だけど、奴らは9階でそんなにゆっくりしていたのだろうか。
まあ、夜闇に乗じてって事なら 急ぐ必要もないし あえてゆっくりしているのかもね。
「とりあえ明日の朝までは様子見かな。あの人数だから 僕たちと同じだけのボスと対戦している可能性を考えれば もしかしたら来ないかもしれないけどね」
トンガお兄ちゃんの言葉に そういえば私も同じことを寝る前に考えていた事を思い出した。
どう考えても 5人組くらいしかナイトに立ち向かえそうになかったよね。
いや、弱く見えても魔法使いが良い感じに盾を使って隔離している可能性もあるか? あの集団に魔法使いがいたかどうかは不明だけど。
とりあえず まだ来ていないのだから このまま待っているだけでも仕方がない。
お父さんは 待ち時間の間にお願いしていた大皿や深いスープ皿などを作ってくれていたらしく、それらは既にレスさんに販売 引き渡し済みとの事。
だったら 小麦の製粉を、と思ったのに これもお兄ちゃん二人によって 既にされていた。
仕方がないので 製粉された粉でパン作り。
これはレスさんとシエナさんも一緒になってやってくれたから 大量に出来た。
数日分の料理の下拵えもしておく。野菜の皮むき、切りかたや大きさを変えて種類ごとに木のボウルに入れておく。
こうしておけば料理の時に使いやすい。時間停止のマジックバックがあるからこそできることだね。
大量の油袋もゲットしたので から揚げ、ボアカツ、ラビカツなど 揚げものも作っていく。
お皿が足りなくなりそうだったけど、ルンガお兄ちゃんとトンガお兄ちゃんの二人で 大きなボウルというか トレイに近いものを作ってくれたので、私とお父さん、クルトさんの三人は どんどん作っていくだけだ。
揚げ物はお父さんとクルトさん、それ以外を私が作ってる現在。
災害時の炊き出しですか?のレベルで作っているけど、何日分になるのだろうか。しばらく作らないで良いかもしれないね。
休憩を挟みながらも 肉の殆どを消費したところで 調理は終了。
熱々の状態でマジックバックに入れているから いつでも出来立ての熱々で食べられる。
パンケーキを食べてから4時間。
すっかり日は落ち、野営地も火台の火が煌々と輝いているだけで 辺りは真っ暗だ。
ホウホウと 鳥の鳴き声も聞こえるし、夜の森って感じで ちょっとウキウキしてしまう。
夕食の時間は過ぎているけど、皆 調理をしながらつまみ食いをしていたので空腹の人はいないと思う。
一応夜食としてピタパンサンドは作って 各自2つずつ渡しているけど いつ食べるかな?
そんな時間であるにもかかわらず まだ彼らの魔力は11階に到着していない。
もしかしたらボス戦で疲弊しすぎて1階に戻っているのかもしれないけど、依頼主がそれで納得するのかは微妙なところだよね。
お昼寝をしたのに 22時頃には段々眠くなってくる子供の身体。
お兄ちゃんたちも 交代で仮眠をとっているんだけど、お父さんが仮眠中の今 私はトンガお兄ちゃんの胡坐の間に座ってます。
前もこの状態で寝たことがあるから 一人で座ってた方が良いんだけど、さっき小さなお父さん達3人にコサックダンスを躍らせていたら ウトウトしてて 後ろに倒れそうになったんだよね。
魔力切れじゃなくて ただ眠いだけなのが分かるのは お父さん達がブレてないから。
魔力切れになってくると 形が保てなくなるからね。
お父さんが仮眠から出てきた時には とりあえず来たら起こすからと言われ 渋々テントに戻り眠ることになってしまった。
徹夜が出来ない身体が悔しいね。
でも 来たら絶対に起こしてね!
お水で出来たミニお父さんがコサックダンスを踊れるほど魔力操作が上達しました




