第353話 ウミユ その20
ボス部屋に入れば 外の状況は全く分からない。
なので 後は連中が11階に来ないと全ては動き出さないのだ。
ボス戦を終えた私たちは 隣のお部屋に移動、小部屋にある転移陣にテリューさんたち4名が乗るのを見送ることにした。
「んじゃ 行ってくる。明日にはダンジョンに戻ってくるけど 早くても4日はかかると思う。11階に到着したら 伝達魔法を飛ばす」
「そうね、12階には行かずに待っておくわ。もしあれなら9階のポアレス採集を周回しても良いしね」
そう言って行ってらっしゃいをしようとしたけど、4人の足元の転移陣は動かない。
「もしかして この部屋にいる全員が移動するか否かだから動かないのか?」
「ああ、それはあるかもしれんな。移動せん奴らが 11階に行ってしまえば動くかもしれんが 一緒に居るなら 乗るのを待っとる可能性は考えられるな」
普通はボス部屋から別行動なんてあり得ないもんね。
という事で 一度私たちは11階に移動してみることにした。もし移動した後に転移陣が動けば、その場にいる人たちが全員乗る必要があることが検証されるね。
11階に一度下り、再び階段を上った先には 光の残差が残るだけで 4人の姿は消えていた。
ふむふむ、やはりその場にいる生きている人は全員乗る必要があるって事なんだね。
納得できたところで再び11階へ。
索敵をすれば 4階層までと同じくらいの広さの森だった。
全部が鬱蒼としている訳ではないので、見晴らしの良い木が生えていない場所を通って行くのが正規ルートなのかもしれない。
だけど私たちは 目的地が分かっている状態で進む人たちなので 歩きやすいとか関係なくズンズン進む。
この階からは オーク、ゴブリンナイトが出てくるようになる。勿論ゴブリンナイトが出るという事は それ以下のゴブリン系列は全員出る訳で、ナイトがリーダーとなって ちょっとした団体で襲ってきたりする。
「ヴィオ盾!」
「【エアウォール】」
トンガお兄ちゃんの指示で 即座にゴブリン軍団全部を包み込むように風の盾を張る。
ぱっと見で分かるのは服を着ているかどうかだけど、森の木々の間を縫って出てこられると 纏めて包んだ方が手っ取り早い。
その後に 風の盾の中にいるナイト、メイジだけを水の盾で囲んでから 風の盾を解除すれば 安全に対応が出来るという訳。
オークナイトと比べると 少し知能が低いゴブリンナイト、水の盾を粘着性にしているから叩きつけた武器が張り付いたにもかかわらず 自ら突進したせいで ネズミ状態になってます。
サクサク討伐しながら 第一セフティーゾーンを目指しています。
既に醤油と味噌、当たりの油袋(緑:オリーブオイル、黄:花油)も見つけて採集しているし、果実もいくつか採集しています。
流石は上級の豊作ダンジョン。本当に沢山色々生ってますよ。
ウルフのノーマルは姿を消し グレーが登場、夕方以降はブラックウルフも出るらしいので 夜だけの魔獣や魔草も見れるかもしれないね。
ココッコや カウカウは 木々が覆い茂っているところにはおらず、歩きやすい草むらゾーンにいるようだけど、まあ この階にはしばらく居ることになるから今は放置です。
30分くらい歩いたところで セフティーゾーンに到着。
「こんなに早く見つけられるとは その【索敵】は凄いな。
俺は魔力操作の訓練が足りないんだろうな、まだセフティーゾーンだって 確信できるほどの精度はないぞ」
レスさんが 道案内役をしていたトンガお兄ちゃんを絶賛しているけれど、使っているのは水魔法の索敵ではなく 無属性のだから 根本が違うんだよね。
お兄ちゃんたちはまだ その事実を伝えるつもりは無いようなので 私も伝えないけどね。
「さて、では テントの準備をするか。
ヴィオは軽食だけ食ってから昼寝するか?」
「ん~、スープだけでいいかな。 起きてからしっかり食べる」
朝食後 そんなに大して運動してないしね。ボス戦も盾役だけだったし、皆がサクっと倒してくれたから魔力もたいして減らなかったので空腹感はない。
お兄ちゃんたちは昼食後に 周辺の採集をしながら時間を潰すと言っていた。
この数時間後には 確実に襲撃してくる人たちがいるというのに 誰も緊張していないのはある意味凄いと思う。
眠い訳じゃなかったけど テントに入って毛布をかぶり お父さんにトントンされたら瞼が勝手に落ちてくる。
「そういえば あの人たち10人で入ったら 私たちと同じくらいのボスになるけど いけるのかね」
「あ~、そうじゃな。各パーティーに分かれて入れば 大丈夫かもしれんが、王都の連中は無理そうじゃなぁ」
「けど人数にカウントされちゃうんじゃ、5人組の人たちでもきつそうだね」
「確かにな。まあ あいつらが来るのはまだまだ先じゃ。ヴィオは気にせんとゆっくり寝たらええ」
もし相手が早く来るなら 絶対起こしてねと言えただろうか。
お昼寝1時間くらいだったら大丈夫かな。
「父さん、ヴィオは寝た?」
「ああ、枕を抱えてぐっすりじゃ。寝つきが良いのはヴィオの長所じゃな」
テントを出たら 5人が車座になっていた。
アルクは寝る前にヴィオが心配していた内容を告げる。
「……確かに。考えてもなかったけど それはそうね。
ウミユの連中は10階までを複数回入っているって言ってたけど あの3人だけだったら ナイトとメイジが1匹、もしくは ナイトが1匹、ハイが2匹だった可能性の方が高いわ。
王都の二人はナイトと対戦したことはあるだろうけど、あの数に対応できるかは微妙でしょうね。
そうなれば5人組に負担がかかるだろうけど……」
「あいつら11階に来れるのか?って話だな」
全員が 襲撃はもしかしたらないのかもしれないと思い始めたところでクルトが「そういえば」と思い出したように発言した。
「ん? けど監視役って奴らは? そいつらが手伝いに入ればいけんじゃねえの?」
「あー、それはもう処分済みだからいないよ」
「「「は?」」」
「私たちが殺ったというよりは あいつらから願われて殺ったって感じだけどね」
「シエナ、それはどういう意味?」
そこで聞かされたのは 全員の顔が思わず歪むような 胸糞悪くなる話だった。そして依頼主の背後に誰がいたのかも判明した。
「って事は 破落戸共も それを身に着けてるって事か」
「ええ、そうだと思うわ。
護身具だとか何とか言って配布されたらしいから 鑑定眼鏡を持ってなければ 調べようもないでしょう?」
「まあ 監視役の奴らに関しては 本当巻き込まれ事故だなって同情するところがあったけど、今追いかけてきている奴らは別でしょ?
確かに 隷属の指輪に関しては同情するけど、そもそも後ろ暗い仕事を受けている時点で いつかはこうなることも覚悟はしている筈でしょ?」
トンガの言葉に全員が頷く。
今10階のボス戦をしている筈の襲撃者が いったい何人来れるのか、それは分からないが 10人が揃っていることはなさそうだと全員が思っている。
優先すべき第一は ヴィオの安全、第二は全員の殲滅、思わぬ形で依頼主の情報を得られたのは僥倖だっただろう。
テリューたちは今頃オトマンから同じ情報を聞かされているだろう。
襲撃者が何人無事にここに来るかは不明だが、自分たちがやるべきことは同じである。
全員が武器の手入れや魔力操作の訓練を自主的に始めた。
さて、いつ頃現れるのだろうか……。




