第347話 ウミユ その14
〔土竜の盾〕黒豹獣人 オトマン視点
二日目の夜、ヴィオが眠りについた後 大人たちで話し合った結果、闇魔法で気配を消せる俺と トンガ君で例の依頼主を知っていそうな奴らに尋問をすることになった。
方法としては 今までのゆっくりな移動ではなく、最初くらいの速度で移動し 奴らを分断するという事。
非効率的ではあるが、第一に ヴィオに悟らせない事が目的だからこその方法である。
朝になって予定を伝えた時も 昼食の心配をしたくらいで、3人だけで行動することに関しては何の心配もしていなかったヴィオ、それだけトンガ君の事を信頼しているという事なんだろう。
俺とネリアは テリューたちのように アイリスとフィルとダンジョンに潜ってはいない。テリュー達が彼らと過ごしたことで 俺たちの加入を決めたのだから当然なんだけど。
だから 彼ら夫婦と俺の関わりは ヘイジョーに来てからの数年だ。
ネリアは 回復術師の先輩として、魔術具や薬師としての知識を学びたいと アイリスの元に弟子入りをしていたから 俺よりも関わりは深い。
だからこそ アイリスの事もヴィオの事もかなり心配していたし、今回の捜索にも一番気合が入っていた。
いつもは夫婦コンビで動くところをシエナに変更したのも それが理由ではある。
昨日ヴィオの話を聞いて 直ぐにでもついて来ている奴らを消し炭にしたいと言っていたのはネリアだ。
回復を使いながらの尋問をするにはネリアの聖魔法がある方が良いけど、多分前回の暗殺者の時以上にやり過ぎるだろうと判断されて 組み分けを変更したくらいだ。
回復魔法が無くても 回復薬があれば何とでもなるしな。
2組と別れたところで早速気配隠蔽の魔法をかける。
「トンガ君は驚かないんだね。この魔法を使われたことがあった?」
「ええ 過去に一度。これで あいつらの動きを確認しやすくなるね」
得意属性じゃなくても 闇属性を持っている人はそれなりにいる。
だけどそれを使えるようになるのは難しい。まず教えてもらえるところがないからというのが一つ、学園で学ぶことが出来たのは僥倖だったが 普通の人たちは機会がないだろう。
彼らは若いのに既に全員が銀の上級だけあって かなり色々な経験をしてきたんだろう。
学園卒の俺たちよりも スタートが早い分 苦労もしてきている筈だし。
テリューたちが4階に下りてしばらくしてから やっと奴らが起きてきた。
昨日までの動きを思えば ゆっくりでいいと思ったのか、随分緩い奴らだな。
「おいっ、あいつらいねえぞ」
「は? まだこの時間だったら3階をウロウロしながら採集してるはずだろ!?」
「おい、起きろ、対象が居ねえ、行くぞ」
流石にテントはなかったものの あれだけ無防備に寝込けるとは凄すぎる。
5人組はさっさと身なりを整え 未だ寝惚けている奴らを蹴り起こしてセフティーゾーンを出た。残り2組のうちの1組も慌てて準備を整えて 水を飲みながら5人組を追いかけていく。
残りの3人は体力がない連中だろう、リュックから保存食を取り出して ゆっくり食べ始める。
「つーかさ、多少急いだとしても どうせまた美味い飯作って休憩時間長めにとるんだろ?
そしたらそこで追いつけるんだし、俺たちまで急ぐ必要なくね?」
「つーかさ、もうこのまま帰っても良くね? 昨日の見ただろ? あいつら全員バケモンだぞ?
あんなデカさのフライングラビットを 全員が一撃だぞ?
そんな奴らを掻い潜って あのガキを攫うとか無理だろ」
3人だけしかいないという安心感なのか 奴らは他の8人に対しての愚痴も声を落とすことなく喋り出す。盗聴魔法をせずとも聞こえるのは有難いが、そろそろ行くか?
『ちょっと待って、何か来る』
周辺には人もいないし 奴らがこいつらを迎えに戻ってくることもなさそうだと 動こうとした時、トンガ君から止められる。例の索敵はかなり性能が良いのだろう。
しばらく待てば 確かに何者かの気配が近づいてきた。
「おい、何故お前たちしかいない?」
「はぁ?って、お前ら……」
「対象が下の階に行ったからって全員が早々に追いかけてったんだよ。どうせあいつらは昼と夜にゆっくり休憩すんのは分かってっからな。俺たちは急がずゆっくりで良いだろうってことで 朝飯食ってんだよ。お前らも 昨日消えてんだから一緒だろ?」
現れた3人組を見て 食事中の奴らは少々驚いたようだったが 仲間なのか?違うのか?
『あいつら 初日にかなり離れた所にいた奴らだ。やっぱり仲間だったんだな』
そういえばヴィオも まだ仲間がいるかもって言ってたな。
相当性能がいい索敵だよな。俺もこの一件が落ち着いたら教えてもらえるかな。
「屑はどこまでいっても屑だな」
「なんかぺっ」
様子を見ていたら まさかの出来事が起きた。
後から来た3人組のうちの一人が 残っていた奴らのリーダーらしき男の顔を 剣で真横に斬り飛ばした。
一瞬の静寂の後、吹き出す血を見て 残った奴らが叫ぶ寸前に 他の二名によって それは遮られた。
「この依頼の失敗はお前らだけじゃない、全員の死を意味するんだ。
俺たちがいなかったのは 依頼主に状況報告をするため、流石に3階より下に行ってからは 戻れないから 奴らの戦闘力を伝えに行っていた分かるか?
その上で この依頼は続行とのお達しだ。抜ける?出来る訳がないだろう?それが希望なら先に俺たちが消してやるだけだ」
首筋に短剣を当てられたままコクコクと頷くしか出来ない二人を見ても 同情の余地はない。
だけど 良い情報を得ることは出来た。
こっちの体力も無さ過ぎるだけの破落戸を締め上げるより、後から来た方を締め上げた方が直接依頼主の事が分かりそうだ。
シエナとトンガ君も同じことを思ったようで 頷いてくれているし もう少し様子見かな。




