第334話 ウミユ その1
ロイド隊長が到着した翌朝、先生たちは 首都に向けて出発した。
再会した騎士さん達からも 「踏破したら また手合せしましょう」とお父さんが誘われてたよ。
私は赤いメダルをタグにつけ、馬車で一度通った道を 今度は歩いて向かう。
〔土竜の盾〕のメンバーは ドゥーア先生の勧めで お屋敷の人たちと同じ ”私が見せる全ては他言無用” の誓約魔法に署名してた。
多分 付きまといの冒険者が居るから、下手に 能力を隠そうと制御した方が危険にさらされる可能性があるから、それなら他言無用の誓約をしておけば 知らない冒険者相手に注意をするだけでよくなるだろうとの事だった。
〔土竜の盾〕のメンバーは それに対して誰も反対することなく 速攻で署名してたから驚きだよね。
まあ誰に言うねんって感じだけど 何か誓約で縛られるとか 不安じゃないのかな。
「これを書くだけで ヴィオの安全性が担保されるなら問題ない」
「ええ、ダンジョンで長期間一緒にいる相手に ずっと気を使い続けるのは大変だもの。
既に色々驚いているから 更に驚くことが出るのかしらっていう 心の準備は必要だけど大丈夫よ」
この夫婦 素敵だよね。
アンさんがパチンとウインクしてくれるのも様になっていて とっても格好良い。
私もこんなお姐さんに成長できるといいな。
「あ~、え~、ヴィオは目指すなら ネリア方面の方が……」
「あら、テリューったら 妻である私に何かご不満が?」
「ええ、ネリア一択という意味も聞きたいわ?」
ジリジリと美女二人に迫られていますが、誰も助けないのはよくあることだからなのでしょうか。
「美人に迫られてんのに羨ましいと思えねえのは ある意味すげえよな」
この状況でその発言が出来ちゃうクルトさんも凄いと思いますよ?
「あら、クルト君もオハナシアイが必要かしら」
ほら、矛先がこっちにも向いたよ。
そして 受ける被害が半分になると テリューさんも助けない。
何だこのカオスな空間。
「お父さん、これから上級ダンジョンに入るのでも緊張感がないのは 流石上級パーティーって感じだね」
「そうじゃな、20年と言えば大ベテランじゃからな。
ヴィオはちゃんと緊張感を持っておくんじゃぞ」
もちろんですよ。
いつだって緊張感をもってますよ。
今だって 宿から付いて来ている人たちに マーキングしたし、ってか増えてるし。
この人たちがどうするつもりなのかは分からないけど、今回は 私も寝ずに参加するからね。
緊張感のない団体は 同じく 1~2階層での素材採集に通い慣れている一般町民たちと同じくらい和気藹々と楽し気に歩いています。
1時間ほどでダンジョン入口に到着、流石に朝の早い時間だから 町民の方々も多く、木札確認用の受付が別に用意されているくらい混んでいる。
「3パーティー合同で入る。これは銅ランクのこの子用の許可証じゃ、確認してくれ」
「拝見します。一人を除き全員が銀の上級……、まあそれなら大丈夫でしょう。
今回20階層以上は あまり入る人もいないですから 工程表の日時を一定期間過ぎても 捜索隊は20階層までしか入りませんからご理解ください。
無理はせず、20階で戻られることを勧めますよ」
「そうか、分かった」
おお、このダンジョンは捜索が20階までなんだね。
図書館の司書さんも アンテッドが出るから不人気だって言ってたもんね。あの人たちはどこまで付いてくるだろうね。
高原だと 遮るものがないから他の冒険者に見つかる可能性もあるもんね。10階までは襲ってこないかな?
実力があるなら 安全な20階以降で襲って来るかな?そっちの方が探しに来てもらえないもんね。
今回は許可証を先に貰っていた事もあるけど 銀の上級がこれだけの人数要るから 少しの注意喚起をされただけで許可が出たらしい。
手続きが終わっても ダンジョンに入る前のところで 荷物の確認をしている人もいるけど 私たちはそのまま真っすぐダンジョンへ。
暗い穴を抜ければ見渡す限りの草原で 既に採集を始めている人もチラホラ見える。
あの人たちは 昼から屋台を出すような人たちなんだって。
「魔獣は別として 素材採集は 時間帯によって場所が決められているらしいぞ」
前回はあまり何も思わなかったけど、この時間 人がそんなにいないにも関わらず 採集作業をしている人は 左端に固まっているのが不思議で じ~っと見てしまっていたら テリューさんが教えてくれた。
24時間リポップのこのダンジョン、朝は左側、昼は右側、夜は中央って棲み分けしているんだって。
夜に潜る人は少ないけど、早朝から屋台を出す人は夜の間に採集しに来るから 下まで行く冒険者の邪魔にならない中央部分を 夜の人たちが採集できるようにしているんだって。
「そっか、そうやって分けてれば ちゃんと素材が復活するって事なんだね」
魔獣はアチコチ移動するから 棲み分けはしていないようだけど、冒険者になりたての子供達が殆どだから 足りなくなるような数が狩られるという事はないみたい。
海の神様の石像を通り過ぎ、真っすぐ2階の階段を目指して歩いている。
中央部分は あまり魔獣が来ないのか 寄ってこないので こちらからも倒しには行かない。
豊作ダンジョンは肉を落としてくれる可能性が高いから 倒したらちゃんとドロップアイテムを取りに行く必要があるからね。
いつもみたいに魔法で倒しっぱなしにしての放置はできないのだ。
「つーか、こないだの石像探しんときも思ったけど、全然迷いなく歩くのな」
「ああ、僕たち 索敵してるからね」
テリューさんの質問に トンガお兄ちゃんがさらりと答えたけど、索敵って内緒にする魔法じゃなかった?誓約しているからいいの?そんなに信用していいの?
「索敵って 風のか?」
「僕は水かな。生成魔法と同じだね、あれよりも更に細かい霧になるように意識して 薄く足元だけ這うように展開すれば 階段の位置は分かるよ。敵は目視で充分だしね」
「そうなのか!?そんな使い方考えたことなかったぞ。トンガ 休憩中でも良いから俺とネリアにそれ教えてくれないか?」
「うん!私とレスは水魔法が得意だから使えるようになりたい!」
魔法使いの二人組は水魔法が得意なんですね。
お兄ちゃんの索敵情報の伝え方が上手い。この使い方は秘匿情報だと伝えているので この人たちなら気を付けてくれるとは思う。
それでも誰でも使えるとは言わず 属性を固定することで二人だけが学ぶ事にしたみたい。
こういうことは私では思いつかないから 凄いなって思います。




