第34話 採集と魔法
「じゃあな~」
「また明日ね、バイバイ」
授業が終わり、今日は後半 良い所が作れなかったレン君が、お父さんを呼びに行ってくれた。
迎えに来てくれたお父さんに抱っこされたまま、レン君に手を振る。
んで お父さんの隣にはナチ君とトニー君とルン君とケーテさん。さっきの魔法組だね。
ケーテさんは木と水が得意属性って自己紹介してたから、木魔法を使いこなしたいんだろう。
「俺、一番得意が木魔法なんだけど 攻撃魔法を書いたのが見つけられなくて、火魔法を伸ばそうとしているんです。アルクさんは冒険者の時、どうしてたか教えて欲しくて。」
「私も木と水が得意なんです。両方あまり攻撃としての使い道がないと言われているので、武術を伸ばすようにしているんですが、もしこの呪文は覚えておいた方が良い。というのがあれば教えてくださいませんか?」
水魔法とか、水だけで成り上がったヤッバイ冒険者を描いたラノベを読んだことがある私からすれば、敵にしたくない相手のトップ3に入るけどね。
まぁ、あの人は水のスペシャリストすぎて、人体の構造とかも詳しいからこそ あの回復までできちゃうチートっぷりだったとは思うけど、それにしたって、呼吸をする敵なら 口と鼻を水球で包めば溺死するし、 飲み水にはできないけど 生活に利用できるから凄く重宝されるよね。
素材確保のためには、火魔法って結構使い勝手が悪そうだけど、溺死なら全部使えそうだから 冒険者になるなら水属性!って感じだけどね。
そんな事を考えながら、お父さんが何と答えるのかジッと見上げてみる。
ん?と少し眉を上げたお父さんが 左手でポンポンと頭を撫でてくれる。
まさか、撫で待ちだと思われた? 皆も微笑ましい~って顔で見ないで頂きたいんですけど?
「そうじゃな。一番よく使っておったのは 敵の足止めとして 木の根や草の蔓を出す魔法じゃな。敵さんの数が多い時なんかにある程度を動けなくすることで、確実に数を減らすことが出来る。
後は ウッドランスは森林エリアなんかじゃとよく使ったなぁ。」
おぉ!ウッドランスと言えば地面や近くの樹木から尖った木がメキメキ生えてくるあれですね?
「攻撃呪文はミミーに尋ねてみればええ。誰でも読める資料には 攻撃呪文が載ってるものは置いてない筈じゃ。別で置いてあるはずじゃからな。」
「「「「ありがとうございます!」」」」
お父さんの言葉に、4人が頭を下げてダッシュで2階に行ってしまった。
「さて、帰るかの。今日は採集を頑張るんじゃな? 」
「うん、今日はお昼寝短くして? 1時間で起こしてね。」
「ははっ、わかった わかった。1時間じゃな。」
採収前に疲れたらお昼寝で寝すぎるから、ここから家まではお父さんの抱っこで帰る。
採集後にギルドに提出するときは もう予定がその後に無いから歩くことにしたんだ。朝のうちにお父さんにはそうお願いしてたから、お父さんもご機嫌で いつもより速足だった気がする。
◆◇◆◇◆◇
約束通り1時間で起こしてくれたので、採集セットのナイフと籠をもち、鞄に詰めて手袋をつける。
2日前に採集したはずの薬草たちは、どこを採集したかと思うほどに 生えそろっている。
「お父さん、この辺りの薬草採ったよね?」
「あぁ、この辺りは魔素が多いからな。カイフク草やマリキ草なら 1日休めば 再生しておるぞ。」
なんと!稼ぎ放題じゃないか!
乱獲しすぎたら 今後が困るだろうと 遠慮しなくても良かったなんて。安心してカイフク草の採集から取り掛かる。
最初の数枚を確認して お父さんはつかず離れずのところで作業を始めた。
あ、そうだ!
「お父さん、私 作りたいものがあって、木のこれくらいの薄い板を沢山作りたいの。」
手の指で大きさを示しながら、カルタとトランプの説明をする。
「木の札で勉強道具をなぁ、ヴィオは色々考えることが出来て凄いのぉ。それはあのチビ共もまた楽しんで勉強したがるじゃろうな。
よし、その木の札は儂が作ってやろうな。ヴィオは採集を頑張るんじゃろ?
そっちを集中してやりなさい。まずは一つずつじゃ。」
良さそうな木の枝を何本か採ってほしいとお願いしたかったのに 札の加工までしてくれるなんて、お父さんありがとう!
再び採集に取り掛かり、一枚ずつ丁寧にナイフで切り取り、葉を握りしめないように 丁寧に籠に並べていく。
少しずつ場所を移動しながら、カイフク草を20本取り終えたところで マリキ草に取り掛かる。
そう言えば、カンカンもコンコンも聞こえないけど、お父さんはどうやって木を伐採してるのかな?
顔を上げれば お父さんの足元には既に数本の太めの枝が。
いつの間に!?
どうやら種類の違う枝で、どれが良さそうかいくつか作るつもりのようだ。
まぁ、カルタもトランプもいくつあっても良いけどさ。
お父さんが一本の木の前に立ち、幹に手をついたら 木が揺れたように見えた。
と思ったら上からゆっくり木の枝が下りてくる。落ちてではない、木の蔓に括り付けられた枝が するすると下りてきたのだ。
そりゃ音がしない筈だよ。というかお父さん詠唱してなくない?
「お父さん、今のは木魔法?どんな魔法なの?」
「ん?あぁ、今のは伐採の魔法じゃな。木に儂の魔力を少し流して 良さそうな枝を見つけたら そこの根元から綺麗に切り取れるように考えるんじゃ。
マジックバッグで中身を見るのと同じ感じじゃな。
後は蔓の魔法でゆっくり下ろせば、周りも危険がなく剪定が出来るんじゃ。」
あぁ、バッグの中身は想像で整理されたもんね。
え?じゃあ 木の中が見えるって事?
「お父さん、今日学校でね、みんな呪文を唱えてたの。アレは必要?
魔法があんなに時間がかかってたら、魔獣に食べられちゃわない?待ってくれないよね?」
ドラ〇エは、コマンドを選ぶまでゆっくり選べたから、ゲーム初心者の私でも楽しめたが、モン〇ンなるオンラインゲームは そんな事が出来ず。とてもじゃないけど出来ないと諦めた覚えがある。
きっとこの世界の魔獣だって「ぼくは良いスライムだよ?」なんてタイプではないだろう。
もしかしたら良識あるゴブリンの村くらいはあるかもしれないけど、基本は襲ってくるだろう。
「くっ、はっはっは、そうじゃな。襲ってくるぞ?
ようわかっておるな、銅ランク冒険者になって 初めて森でホーンラビットと戦う時に 怖い目に合うのが定石じゃ。今は学び舎で練習を重ねる分 随分マシになったようじゃが、昔は上手い事 敵に会わんと 奥まで行ってしもうて、集団のウルフに襲われて死ぬなんてことも多かったんじゃ。
魔法は 呪文があれば 確実にその効果を得ることが出来る。
じゃが、呪文が無くても使うことは出来る。儂のこの伐採の魔法もそうじゃ。
起こしたい事象をしっかり想像することが大事なんじゃ。それから必要な魔力を集めて、作り出すということじゃな。
想像せんでも呪文を唱えればできるから、初心者は大体 魔法の呪文から覚える。
しかし、それをすると 呪文がないと使えんと思って躓くんじゃ。
どこかで痛い思いをして トリガーだけでも使えることが分かれば、一つ目の階段を上れたということじゃな。
それが出来んやつは、銅ランク以上に上がらず普通の仕事につく。」
世知辛いね。
トリガーとなるのが【ファイアボール】なんだろう。
まぁ、魔力操作をしてなければ 上手くいかないんだろう。あの長い呪文を唱えることで集中して魔力が腕に集まるようにしてるのか……。
もしかして、私が聞き耳に集中してたアレも魔法なのかも。
「お父さん、耳にね 魔力を集めて『よく聞こえるように』ってやったら、遠くの声も良く聞こえたのね。それも魔法?」
「は?それを、ヴィオができたんか?」
「うん、生活魔法と属性魔法の違いが気になって、ナチ君たちが丁度魔法を使いそうだったから聞こうと思ってがんばったらできたの。」
「頑張ったらできたんか……、そうか。
そうじゃな、ヴィオ、それは強化魔法の一つじゃな。耳なら聴力強化、目なら視力強化、足や腕にかければ身体強化じゃ。」
おぉ!冒険者必須の身体強化魔法!
という事は、あのふわふわを足に持っていけば歩くの速くなる?
よし!このあとやってみよう。
お父さんにお礼を言って、ルンルンでマリキ草の採集に取り掛かる。
そうか、強化魔法ね、呪文は要らなかったね。ということは無詠唱でも事象は起きるという事だ。
良かったぁ、あんな痛々しい呪文を唱えるのは、恥ずかしくて無理だもん。
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