第320話 アンヤ遺跡ダンジョン 後半
翌日、9階を掃討してからボス部屋へ。
「まあ心配はしてないけど やっぱり心配だよね」
「いや、パニックルームのあれを見て 何が心配なんだよ」
「後ろで見てられるのと 見えない場所に一人で行かせるのは違うだろ。
ヴィオ、いつも通りでな、平常心でいけば ヴィオなら大丈夫だ。やばいと思えば あのバレットを打ち込めばゴブリン程度瞬殺だからな」
ボス部屋に下りる階段の上で お兄ちゃんたちが中々離してくれません。
お父さんは 何も言わないけど ちょっと心配そう?
ルンガお兄ちゃんは大丈夫だと言ってくれるけど お兄ちゃんの方が大丈夫じゃなさそうですよ?
あえて階段に下りる前でこうしているのは、前回のケーテさん達とのあれがあったから。
お兄ちゃんたちはボス部屋の前で待つつもりだったんだけど、お父さんが そうすることでボスの数が5人分になる可能性があるって伝えたから ここでのお別れになってます。
メインがメイジのゴブ軍団に何を心配しているのかって思うでしょう?
これがシスコン兄たちのクオリティーなのですよ。
「お兄ちゃんたちも 心配してくれてありがとう。
でも 大丈夫、直ぐに戻ってくるから 待っててね。行ってきます」
不安げなお兄ちゃんたちに ギュッとハグをしたら 階段を下りていく。
「頑張ってね~」
「平常心、平常心だぞ!」
「ヴィオ、気を付けて」
お兄ちゃんたちってば そんな遠くに行くわけでもないのに 思わず笑いそうになるけど心配してくれるのは嬉しいから10階に到着する手前でふり返り 笑顔で手を振る。クルトさんは親指を立てて笑ってくれているので 同じように親指を立ててみた。
ボス部屋の前は広くなっているので 扉の前まで進めば 流石に階段の上は見えない。
そういえば中級以上は 階段も螺旋階段だったり 折り返し階段になってるから上階が見えなかったね。
この辺も初級と中級の違いなのかな。
ああ、こんなこと考えてる時間があれば 皆が心配しちゃうね、さっさと終わらせよう。
ボス部屋の扉にはじめて一人きりで手を付ける。
複数人の時と同じように ギギっと古めかしい音を鳴らしながら扉が開く。
「流石にこの部屋に一人で入るのは ちょっとだけ不安な気持ちになるね……」
真っ暗闇に入るからね。
暗視をしても 最初の暗闇は 夜の闇とは違うのか全く見えない。
だけど扉が閉まれば 暗闇は夜の闇と同じようになり ゴブリン4体が見えてくる。
マントを着けているのが1体だから メイジは1体。あとの3体はハイゴブとゴブだろうけど 違いは分からない。
今回は待ってる人たちがいるからね、魔法の実験はしませんよ。
明るくなったところで メイジが腕を振り上げるけど、それと同時にこちらも発射。
「【エアバレット】」
4発の空気弾が動き出そうとした4体の心臓部を貫き キラキラエフェクトを出しながら消えていく。
「よっし!やっぱり風が一番被弾するまでの速度が速いね」
他の属性も 一般の人が使う【ファイアボール】よりずっと早いらしいけど、私の使うバレット系では 風>火>水>氷>土 の順番なんだよね。
さて、メイジが立っていた場所には宝箱。
念のために【索敵】をして罠がないことを確認してから開ければ、久々に見た回復薬2本。魔力と体力が1本ずつです。
使わないけど 折角だから鞄に入れて 忘れ物がないかも確認したら 出口というか入口へ。
初級は転移陣がないからね。
振り返った扉は 絵ではなく ちゃんと扉になっていて、こちらから開ける時には スムーズに開くという不思議。
気持ち小走りで 階段を駆け上がれば そのまま待ってくれていたらしい4人が出迎えてくれた。
「はえ~、早えよ。お前 入って5分も経ってねえぞ?」
「あ~、ヴィオおかえり 頑張ったね。心配してなかったけど 良かった」
「まあとりあえず戻るか?」
「(コクリ)」
「兄貴、俺も」
現在 トンガお兄ちゃんに抱きしめられており 発言は出来ない状態となっております。お父さんの声掛けで8階へ向かっておりますが これはいつ下ろしてもらえるのかな?
隣でルンガお兄ちゃんも待ってますが、それは抱っこ待ちでしょうか?
ちなみに 5分の内訳は 扉が開くのと明るくなる演出待ちが半分ほどだったと思います。
開幕直後のバレットで 戦い自体は数秒だったからね。
結局9階は お兄ちゃんたちに抱っこされたまま進み、流石に8階に行った時には下ろしてもらいました。
ホントに、何をそんなに心配してるんでしょうかね。
「そっか、24時間だからまだリポップしてないんだね。そしたら4階でお昼休憩して、2階で野営でもいいかな」
「わざわざ野営すんのか? 各階1時間くらいしか掛かってねえし 戻れんじゃねえの?」
「クルト、1階の見学をしたいってヴィオのお願い忘れた?」
そう、地図が見えている私たちは下りてくるときも1階層につき1時間程度で下りてきている。5階以降は少しだけ広くなっていたけど、それでも2時間はかからなかった。
それなのに帰りは魔獣が居ないから更に早く動けてしまうので、クルトさんの言う通り 今日中に帰ろうと思えば帰れるのだ。
それを敢えて2階での野営をするのは 1階層の見学をしたいという我儘のため。
「あ~、そうだったな。わりい、忘れてた」
「いいの?」
「おお、ただの飾りと思って無視してたけど、中々凝ってたしな。俺ももうちょっと見てみたいし問題ないぞ」
おぉ、それは有難いですよ。
お父さんたちも もう少しゆっくり見てみたいと賛成してくれたので 遠慮なく。
魔獣に会うことなく2階まで進み、少し早いけどここで野営となりました。
ハンカチを持っていたら 端っこを噛みしめながら涙を堪えるトンガくんが見れたかも……




