第33話 魔術の授業
休憩を挟んで魔術の授業だ。
羊姉妹は今日も魔力操作の訓練で、真ん中組は攻撃魔法や補助魔法、小さい組は生活魔法の練習だ。
そう言えば家で魔力切れまで頑張ろうと思っているのに、布団に入って魔力操作の訓練をしてたら 途中で寝ちゃってて 全く魔力切れ体験が出来ていない。
伝説の冒険者になるなら、幼少期からの訓練がテンプレの筈なのに、私の眠気はどうにかならんのだろうかね。
「さて、こないだはクリーンを成功させた二人だけど、あれから練習は続けてたかしら?見せて頂戴。」
アリアナ先生がレン君とハチ君のクリーンを確認しに来た。
二人は自信満々の笑顔で【クリーン】と適度な大きさの水玉を自分の手元に出し、クルクル手を洗った水はそのまま消えた。
「凄いじゃない!一昨日より正確な大きさを出せているわ。家でも練習してきたの?」
「母さんの手伝いしてるんだぜ!」
「ぼくも ごはんの後の お皿あらったんだ~。」
尻尾をブンブン振りながら報告する様子は可愛くて仕方がない。
先生も「えらいえらいね」と言いながら二人を撫でているから、ブンブンは止まらない。
「先生、今日は何の魔法を練習しますか?」
「そうねぇ、クリーンがこんなに早く安定すると思ってなかったけど、次はライトかしらね。バーンは火の扱いがまだ危険だろうし、ドライは乾かす対象がないとね。
うん、ライトにしましょう。」
「部屋のあかりのやつだな。」
「ぼくの家は魔道具だよ?」
先生は少し悩んでから 光の魔法にしようと言った。
レン君が言う部屋のあかりは 魔道具のライトが使用されているけど【ライト】の明るさの目安として考えれば良いんじゃなかろうか。
あぁ、生活魔法のライトが上手くいけば、その練習と見せかけて属性魔法でも光が出せないかやってみよう。
大体にして、基本属性がおかしいと思ってる。
木、火、土、水、風、闇、聖の7つだって教えられたけど、聖属性と闇属性が対のように言われてるのが謎。
聖の反対だったら魔とかじゃない?
闇の反対だったら光じゃない?
この部屋の空間を広げているのも、マジックバッグも空間魔法なのに、基本属性にそれが使えそうなのはない。ということは基本とは別に空間属性があるはず。
そうやって考えれば、きっともっと属性はあるはず。
例えば時間、氷(これは水の派生かもしれないけど)、雷(風と光の混合とかかもだけど)、無属性(時間が此処に属するかもだけど)なんてのもあるかもしれない。
うろ覚えのラノベ知識だし、精霊とかが存在するとすればさらに増えるかもしれない。
ギルドカードであの7つで全属性だって言われて納得しかけたんだけど、あのカードを作る機械は相当ハイテクだけど魔道具だ。
という事は設定した人がいる筈。その設定した人が 最高で7つだと思っていたのか、それとも空間とか知られたくない属性は敢えて出ないようにしているだけじゃないのかってね。
例の水晶玉ピカーの洗礼式ではどこまで属性表記されるかは不明だけど、それも魔道具だとすれば7つの全属性までしか見えない気がする。
冒険者登録済だし、絶対に教会とか国とかに関わりたくないから そのイベントに参加しないけどね。
先生からライトの練習をするように言われて、3人で練習を始める。
生活魔法の【ライト】を意識しながら唱えれば、鶏卵サイズの豆電球のような光る玉が浮かび、白い光を放っている。
LEDのライトってこんな感じだったなと思いながら、あれはライトの明るさや色も調整出来たことを思い出す。
(これも出来たりするのかな?)
色々考えながら調整してみたものの、一度出したライトを調整することは出来ず、出す前にオレンジっぽい常夜灯くらいと考えて【ライト】を唱えたらできた。
ちなみにレン君は最初にビカーっと滅茶苦茶眩しいライトを出したせいで目を抑えながら休憩中。
ハチ君はレン君のライトの完成を間近で見て被弾。同じく休憩中。
二人が休んでるので 側に座ったままライトの調整中。
うーん、光魔法があると仮定して、ライトは絶対に光魔法だと思うんだよね。
出し方が違う? 生活魔法と属性魔法の違いって何?
気になり始めたらとことん気になる。
羊三姉妹は魔力操作に真剣集中してるから邪魔できないし、そう言えば魔法を使ってる人たちはどんな風に使ってるんだろう。
ジッと集中して、少し離れた場所を見る。
交代しながら的に向かっているようで、今はナチ君が的に向けて魔法を放つみたい。
声は聞こえないかな?
良く聞こえるように、耳を澄ませてみる。
身体の魔力も意識して、魔力で聴力を補佐できないかと耳が良く聞こえるようにと願いながら耳に魔力のフワフワを集める。
おへその辺りのフワフワが、グルグル回りながら血管に沿って全身を巡っているイメージを作る。うんうん、良いかんじ。
グルグル巡る一部を耳に、一部を両目に集めると、ザワザワと雑音でしかなかった音が、声として捉えられるようになってきた。
「ナチが一番得意なのは木だろ? 木の攻撃魔法ってどんなんだ?」
「木の攻撃って想像つかないんだよね。本にも 木工作業に使う呪文は沢山書いてたけど、攻撃は書いてるの見つけてないんだ。だから攻撃は火を伸ばすつもりだ。」
「アルクさんは木魔法が得意の元銀ランク上級だろ? 教えてもらえないかな?」
「あぁ、ヴィオのお迎えで来てるから、時間の邪魔しなけりゃ聞けるんじゃないか?」
良く聞こえるね。
というか、呪文って言った?
こないだトニー君が暴発させそうになった時は【ファイアボール】とだけ聞こえたから、短いんだと思ったけど、もしや違う?
というか、木魔法の攻撃手段って結構ある気がするんだけどな。木だけだと思ってたりする?お父さんは植物全体を操って畑仕事も、木々の剪定もやってるけど、隠密系の攻撃だったら使えそうと思ってたんだけどな。
そんな事を考えてたら、どうやらナチ君の準備が整ったようで 右手を前に突き出して何やら呪文らしきものを唱え始めたよ。
〈我の手には炎が宿り 全てを焼き尽くす炎は玉となり弾け飛ぶ ファイアボール〉
……え?
長くない?たかだか火の玉 1個を出すのに、手を前に出して、魔力を練り始め、呪文を言いながら手の先に魔力を集め、発射するって。
まぁ、思ったよりイタくない呪文ではあったけど、ファイアボールでは全てを焼き尽くせないかもだし、我の手には宿ってないよね?魔力で作り出したよね?
えっと、これはナチ君のオリジナル呪文なのかな?
だとしたら まぁ、何も言うまい。
おぉ、良い感じに トニー君が「俺ももう一回ファイアボールやる!」って言ってるから、呪文の違いは分かるだろう。
ナチ君が立ち位置からずれて、そこにトニー君が立つ。
先程と同じように 右手を前に突き出して唱え始めたよ。
〈我の手には炎が宿り 全てを焼き尽くす炎は玉となり弾け飛ぶ ファイアボール〉
……オリジナルではなかったっぽいね。ダサいとか思わないで良かったかな?
ナチ君の玉が野球ボールだとしたら、今のトニー君のは少し大きいソフトボール大。
だけど速度が違った。
ナチ君のはプロ野球選手が投げたくらいの速さだったけど、トニー君のは子供がお父さんとキャッチボールをしているくらいの弓なりのふんわりだった。
ヤバイ謎が増えた。
魔法に関してはお父さんに聞くしかないね。ここではまだしばらく生活魔法しか出来なさそうだし。
うん、あのダサイ呪文は絶対に使いたくない。
目指せ無詠唱!
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