第317話 新しい町へ
ゲルシイの森ダンジョンを踏破して5日後、武器の修繕を終えた私たちは ゲルシイの町を出発した。
私たちがダンジョンに潜っている間に 例の冒険者モドキが行方不明になっていると騒ぎになっていたらしい。
まあ 1階で待ち伏せするのがデフォの奴らだもの、日帰りしない時点でどうした?ってなったんだろうね。
それで捜索隊が入ったのが5日後くらいなので 多分私たちが10階ボスをやった時くらいかな。
依頼を受けた冒険者が 探し回った結果 3階に10人分のプレートが見つかった。
これが7日目、私たちは 高原で毎日楽しく採集をしまくっていた時くらいかな。
既に遺体はなく ギルドタグだけがある状態、7人は固まっていたけれど 他3名はバラバラだったから探すのに時間がかかったとの事。
勿論そんな状態だから 魔獣にやられたのか 人にやられたのかも分からない。だけど ダンジョン内は自己責任。彼らのランクは知らんけど メダルはなかったようだから全部入っていい人たちだったのだろう。
何故そんな情報を知っているかというと、ゲルシイの町では皆が噂をしていたから。
宿屋、食事処、屋台、武器屋、魔道具屋、食材販売店等々 。
「ねえ知ってる?あの強請をしてた奴ら 死んだんだって」
「あ~、いつか死ぬと思ってた」
「でも本人たちなの?タグだけ置いて 逃げたんじゃない?」
「リーダーが死んでなければそれは無理でしょ」
「うちもお客さんが迷惑してたのよ」
「うちもよ~、宿泊を辞めて出ていく人もいたわ」
「ねえ聞いた?あれって ギルドの職員が 情報漏洩してたんだって」
「なにそれ~、どういうこと?」
「噂だけどね、他所から来た冒険者のランクとか 日程っていうの?帰ってくる大体の予定とか伝えてたんだって」
「ギルドがグルだったってこと?」
「ナニソレ、許せないじゃない!」
彼方此方で住民たちが口々に噂をしていたのだ。それは店員同士だったり 店員と客だったり、もちろん聞きつけた冒険者が訪ねても「ここだけの話よ」と言いながら嬉しそうに話してくれるのだ。
どこが ここだけの話なのだ?
お兄ちゃんたちは前回 あまりのウザさにさっさと町を出ることを選んだからあまり被害はなかったようだけど、今回の私たちのように数日滞在する人たちは 宿に押しかけ、食事をしに出掛けたところで声をかけ、魔道具屋に入る前に通せんぼ、色んな所で嫌がらせをしまくっていた模様。
だったら何故止めなかったんだ?と思うんだけど、どうやら綺麗めの恰好をしていた方の屑が お貴族様の関係者ってことで強く出られなかったんだと。
まあ冒険者に貴族がいるのは今更な情報ではあるんだけど、成程ねって感じである。
どの程度の関係者だったのかは不明だけど、乗り込んでくる貴族もいない事で大した繋がりじゃなかったんだろうと判断され、鬱憤が溜まりまくっていた皆が噂話を広めまくっていたという事らしい。
大分嫌われてたんですね。
「まあでも ギルドの職員がどうなるのかは分からないけど これだけ噂になってるんだから 今まで迷惑してた奴らからの訴えを無視できないだろうね。
真面目に働いてる職員もいるだろうし、これだけ噂になっているのを何も対処しないことは出来ないでしょ」
それこそ「何処其処の誰某は数年前から急に羽振りが良くなった」なんて実名報道されてるからね。
私たちに聞き取り調査でもあるかと思ったけど 元々の素行が悪すぎた人たちだった事もあり、恨みを買ったにしろ、魔獣にやられたにしろ、冒険者がダンジョンに入るというのはそういう危険性があって当たり前。ということで決着したらしい。
「まあ これが貴族の息子じゃったなら もっと面倒な事になっとっただろうがな」
「そうなの?」
「貴族っちゅうんは 面子が何より大切じゃろ? じゃから 自分の子に疑いがかかるっちゅうことを嫌がる。
どう見ても魔獣にやられたんならええが、例えばその中でパーティーメンバーが生き残ってた場合は そいつにあらぬ疑いをかけて投獄するちゅうこともあった」
「なにそれ!? なんで? 見殺しにしたって判断?」
意味が分からん。
ボス戦なんて 今までに苦労したことはないけど、だけど変異種はびっくりしたし、 一緒にいるのがお兄ちゃんたちだから楽勝って感じになってるだけで そうじゃなければもっと大変でしょ?
死なないようにみんなで頑張るんだろうけど 魔獣が相手だもの 死んじゃうこともあるでしょうに。こっちが殺しにかかるんだから、あっちだって必死で抵抗しても当たり前でしょ?
「まあ普通の貴族なら ちゃんと判断すると思うけどね、でもそうじゃないのもいるって事。
だからこそ 貴族出身の冒険者は 同じような人たちと組むことが多い。
ほら、女性だけのパーティーがそうでしょ?」
トンガお兄ちゃんに言われて そういえば 凄く時間がかかってた人たちは 貴族5人組って話だったと思い出す。確かに生活環境とか違い過ぎて 話も合わなさそうだもんね。
「まあ例外でいけば 学園で仲良くなった平民と貴族のパーティーじゃねえか?
あの場合は学生時代からの気安い付き合いがあるから何とかなるんだろ。
だからこそ、他所で合同パーティーをするときに 元貴族と組むのは気を付けた方がいい。色々後から難癖付けられることもあるからな」
クルトさんの言葉に全員が頷く。
皆 嫌な経験があるって事なんですね。
「今まで直接会った貴族が特殊なのはわかったけど、出来るだけ関わりたくないね」
ドゥーア先生達に プレーサマ辺境伯閣下、ギルマスとサブマス、皆 いい人ばっかりだよね。
あ、けどあれか、直接会ったという記憶は薄いけど チビ禿デブ子爵も貴族だったね。そうか、あれが基本だと思っておけばいいって事だね。
うん、絶対に近付きたくないね。
貴族に対する新たな決意を胸に、ゲルシイの町を後にする。
私以外の4人はウエストポーチ型のマジックバックを身に着けている。
ラスボスのお部屋のマジックバックも時間停止の大容量だったんだよね。
なので時間遅延のバックは魔道具屋さんに販売し、トンガお兄ちゃんとクルトさんは肩掛けバックとウエストポーチ、ルンガお兄ちゃんはリュックとウエストポーチという感じになった。
ウエストポーチはマジックバックではなくても 財布やギルドカードを入れるのに身に着けている人が多いので 誤魔化しやすくて助かるとのこと。
「ちょっと嫌な体験もしたけど、これだけ良いマジックバックを手に入れることが出来たし、この町に来てよかったね」
「まあそうだね、ヴィオのトラウマになるようなことが無くて良かったよ」
「おお、俺らが無理言ってついて来てもらったのに あんなことになってごめんな」
今更ながらお兄ちゃんたちが ヘニョンとしているので、討伐するところを見れなかったのは少し残念だっただけで気にしていないと言ったら笑ってた。
「あんな奴らが多いとは思いたくないが 居なくはないからな、気を付けるに越したことはない。
まあ次は初級ダンジョンじゃからな、そんな危険はないと思うぞ」
そっか、私のソロ踏破の為に行くダンジョン。
皆にとっては何の旨味もないはずのダンジョンだけど 付き合ってくれるというのでありがたくお願いします。
次の町は アンヤ。
ダンジョンは遺跡ダンジョンというからね、ちょっと楽しみですよ。




