第316話 踏破報告
ボス戦を終えれば 転移陣に乗り込んで1階へ戻る。
キラキラとした光に包まれ 一瞬の浮遊感を感じれば 久しぶりに見る洞窟の中。
「うわっ、踏破者か?」
「こんな感じなんだね。戻ってくる人初めて見た~」
「踏破?」
「いやいや、子供がいるから20階だろ?」
ノハシムの時ほどではないけど、まだ8時くらいの早朝だ。
今から潜ろうという人たちが丁度入ってきたのだろう。
ザワザワとした声が聞こえる。
子供という言葉も聞こえてくるけど ここだと20階からか30階からか、戻ってきた階層は分からないから勝手な憶測が飛び交っている。
あちらも自分たちで話しているだけで 絡んでくるわけでもないので 私たちもそのまま出口を抜けた。
「前回は あの状態で話しかけてきたんだよな」
「今思えば やっぱり確実に待ち伏せだったな」
お兄ちゃんたちの言葉に そんな人たちもいたことを思い出す。
既に1月程前の事で 顔も思い出せないけど 屑な冒険者モドキが居たよね。
5人で森の入り口に立つダンジョン受付に入る。
外のカウンターは 入りたい人が列をなしているから 踏破報告だけの私たちは中の受付に声をかけた方が早いのだ。
「ダンジョン踏破の報告です」
「はいは~……、ああ、えっと、お戻りの報告ですね?」
町の中にある冒険者ギルドよりは小さいけど 買取カウンターはそれなりに広い。
町に戻って販売する人もいるだろうけど、圧迫する荷物だけを排出して クルクルしたい人たちは 直ぐに潜るだろうから ここでも売ることは出来るのだ。
トンガお兄ちゃんが踏破の報告と言った時、出てきた受付スタッフは 少し驚いた顔をしていた。
“踏破” と言ったの を“戻り” と言うということは 私がいるから踏破出来なかったと思ったのか。それで驚いたのだろうか。それとも?
「そうですね、どちらでもいいです。手続きしてもらえますか?」
「あ、そ、そうですね。ではカードをお願いします」
トンガお兄ちゃんは冒険者モードの 少々冷たい物言いをしている。
それに動揺しているのか 預かったカードを取り落としてしまうなんてことをしているけど 大丈夫?
私はメダルを添えて カードを渡す。
「お兄さん大丈夫? 体調悪いなら おやすみしたら?」
「あ、あ、あぁ、大丈夫だよ、はは、心配させちゃってごめんな~」
心配して声をかけたのに ビクリと肩を震わせたせいで カードをまた落とすという悪循環。
マジで帰った方がいいんじゃないの?
室内にある休憩用のテーブルでお茶をしながら待っていたら10分ほどで 受付から準備が出来たと声がかかった。
「お待たせしました、〔サマニアンズ〕と〔ヨザルの絆〕2パーティーの合同パーティーですね。
この度はダンジョン踏破おめでとうございます。
不要な魔道具など販売希望がございましたら こちらでお取り扱い出来ますがいかがなさいますか?」
受付に行ったら さっきの人とは違うお姉さんが出てきた。
10階のボス部屋で貰ったキャンプグッズを販売。
食材は次のダンジョンの為にも売ることはせず、蜘蛛の糸と蛇の皮もお土産なので売らないし、肉は全て売らない。魔石は魔道具作りに使いたいので お兄ちゃんたちからも貰ったくらい。
なので熊の毛皮、鳥の尾羽、ホーンラビットの角くらいしか素材もない。
グーダンでは食材以外は取り扱わなかったけど、ここはクルクルする冒険者たちの荷物整理の役目もあるからか 全ての素材も買い取ってくれました。
戻ってきたカードの裏には 《ゲルシイの森 踏破》と記載されている。
いいね、記念すべき10カ所目のダンジョンが上級だよ。
全員がカードを受け取り 帰り支度を整えたところで お姉さんから質問をされた。
「皆様がダンジョンにお入りになって 不審な事や人をご覧になりましたか?」
随分アバウトな聞き方ですね。
【索敵】では ここからでは見えない場所、衝立の裏側にさっきの男性スタッフが立っているのが分かる。やっぱりあの人はクロだったんだろうね。この人はどっち?
「不審な事とは パニックルームでシャウトされた事、とかではないんですよね?
あとは 20階のボスが変異種だったとか? でもそれもダンジョンならあり得ることだし違うか。
例えばどんなことです?」
「変異種ですか……?あの、それはどのような」
「それって情報開示料金をもらえる感じです? というかこちらの質問に答えて頂けますか?」
後方のスタッフたちからもパニックルーム!?とか 変異種だと?とか聞こえてくるけど、確かにその相手がどんな敵だったかを開示するかは冒険者次第だよね。
地図情報と同じで お金がもらえるやつです。
「これは失礼いたしました。
不審な事とは 踏破なさった冒険者が 魔道具の売買を持ちかけられるという案件が増えておりまして、その苦情が多くなっていることからお聞きいたしました。
皆様も踏破されましたので そのような目に遭っていないかと思いお聞きした次第です」
「ああ、前回はしつこいのが居ましたね。
だけど ギルドで把握しているとは思いませんでしたね、あえて放置されているのかなと思ってたので。
ああいう輩がいるのは 他所からの冒険者は来たがらないと思いますから どうにかした方がいいと思いますよ」
顔色を悪くしたお姉さんが 少し汗を流しながら説明してくれる。
トンガお兄ちゃんは 前回の体験に関して苦情を伝えることで今回の事には言及していない。
「当ギルド所属の冒険者が ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
それだけを告げられて私たちはダンジョン受付を出た。
さて、あの最初のお兄さんはどうなるのだろうか。
あの10人だけが屑だったのか、だけどその売り先だってあるんだから 貴族も絡んでそうだよね。
この後 この町で同じようなことをする奴が出てくるのか、それともあの人たちだけがやっていたのか。
貴族が裏で指示をしてたのなら また同じようなのが出てくるだろう。
私たちは目的の鞄を手に入れたし 米が他のダンジョンで出ないのであれば また来る必要があるだろうけど、他でも見つかるなら来る理由はない。
「は~、終わったね。
2か月の予定だったのに随分前倒しで終わっちゃったけど この後どうする?」
「とりあえず武器の修繕出すだろ?まあそんなに使ってねえし4日もあれば回収できるだろ」
「だな、だったら 王都方面に歩きで移動しがてら 初級ダンジョンがあったら ボス戦だけヴィオに単独で入ってもらわねえ?」
え?
「ああ、確かにな。ここから王都を目指して歩けば 領境に初級ダンジョンがあった筈じゃ。学生がよく訪れるっちゅうが 長期休みの直前じゃから 今なら空いとるじゃろう」
どんどん話が進んでいくけど、それって 銀ランク昇格の為の重要な単独踏破です?
それを出来ちゃう感じ?
洗礼後にやることになると思ってたのに、これは帰ったらすぐにランクアップになりそうじゃない?
「ヴィオ どうする?」
「うん、もしお兄ちゃんたちもそれでいいなら 行ってみたい。
ダンジョンを最初から一人で入るんじゃなくていいの?」
ボス戦だけって ケーテさんも言ってたよね。初級ダンジョンは殆どが洞窟タイプだというし、罠もないから危険性は少ないだろうけど 2泊3日くらいは必要そうだから 一人だと寂しい気がする。
「当たり前でしょ、流石に一人で入らせれないよ。魔獣に対しては 然程ヴィオの心配はないけど、冒険者に関しては危険が多いからね」
まあ確かに今回もそうだったもんね。
早く大人になりたいね。
とりあえず 今回武器のお手入れが終わったら 王都方面に移動、その途中にある初級ダンジョンに挑戦することが決まりました。
ダンジョンが楽しすぎて 入った時に会った屑冒険者モドキの事はすっかり忘れていました!




