第311話 ゲルシイの森ダンジョン その17
かくして ルンガお兄ちゃんたちが戻って直ぐに ボス部屋の扉は開いた。
その前の人たちの半分くらいの時間だと思えば 彼らの強さが分かるというものだ。
「さて、行くか」
「うん」
5人で扉に手を当てて開くのを待っていれば パリピ軍団が騒いでいる。
「ええっ!?ちびっ子が一緒にいるぞ?」
「マジカ!?気付かんかった!」
「ドワーフじゃね?流石に子供じゃねえだろ」
「だよな~~~~。イエ~~~イ!」
そして繰り返されるハイタッチ。
あれでこの20階まで来れたんだから、それなりの実力はあるんだろうけど そこはかとない不安感です。
部屋に入れば パリピのイエーイも聞こえない。
ホッとしながら うす暗い室内をぼんやり眺める。
「なんか 一瞬だけしか関わってない筈なのに 凄い疲れる」
「そうじゃな、ああいった輩は夜の酒場なんかに多いが ダンジョンでは珍しい」
「ふふっ、父さんとヴィオってば 同じ顔してる」
お兄ちゃんたちは 沢山の国を回って歩いたから ああいった輩も慣れているらしい。
時には混じって酒を飲みながら情報を交換することもあったというから そのコミュ力に脱帽である。
私はスチーラーズのチャラ男も苦手だったし、あのイエーイにも乗れなかった。
多分前世は想像通りの喪女だったのだろう。
でも ドゥーア先生たちと 新しい発見をすると イエーイってなるから オタク気質激し目の喪女だったのかもしれない。まあ 死んだ前世の事は思い出せなくても仕方がない。
今世は それなりに生きていこう。
「え~っと、ここのボスって “全身を苔が覆うトカゲで2メートルくらい” って話じゃなかったっけ。
どう見ても5メートルはありそうに見えるんだけど」
「木が生えてる時点で違う魔獣だね。これは上位種か変異種だね」
「木だけではなく 本体も大きいこれは ジャングルリザード、ウッドランドリザードの変異種じゃな。木自体も攻撃してくるから リザード部分の攻撃と別に考える必要がある。
お前たちだけで厳しければ手伝うぞ?」
「いや、とりあえず行ってみる。ヴィオは上の森部分に攻撃、火魔法使ってみて。
俺はリザードの噛みつきを防ぐから ルンガは あいつの動きを止めて、クルトは斬れるかやってみて」
「「了解」」
「わかった」
ハイエースみたいな大きさの馬鹿でかいトカゲは 背中に大きな木が生えている事で更に大きく見える。
貴族のお姉さんたちが時間かかったのって これが相手だったからかな。
ボスが変異種ってのは3回目だけど どれくらいの確率なんだろうね。
ここはあれだけ行列ができるくらいだから この変異種もそれなりの頻度で出てきそうだね。
明るくなったところで全員が動き出す。
「【ウォーターバインド】」
トンガお兄ちゃんはベタベタ水布でトカゲの口をグルリと巻き付け 噛みつき攻撃が出来ないようにした。顔をブンブン振り回すけど 口枷が緩むことはない、ワニと同じで開けるほうは苦手なようですね。
「【アイビーウィップ】」
ルンガお兄ちゃんは蔦魔法で ワニ、じゃない トカゲの身体を数か所拘束する。
だけど背中に木を生やす相手です、木魔法はどうにでも出来るのか 蔓草は直ぐに枯れてしまった。
「【フレイムバレット】」
全部が枯れる前に着弾したのは 私が打ち出した青い炎の弾20発。
ちょっと多かったかもしれないけど 木が多いしね。ドバババババと音を立てながら木に着弾していく炎の弾は たちまちその木を燃え上がらせる。
「おい、ヴィオ加減しろよ!」
斬りつけに行く予定だったクルトさんが あまりの熱さに近寄れず戻ってきた。ごめんなさい。
「【エアカッター】」 ガキン!
「ちっ、流石に変異種まで行くと硬てえな」
剣で行けないから風魔法を使ったけど 硬すぎて通らなかったみたい。
だけど背中の木は燃えているし、トカゲはジタバタと悶えている。木属性の感じだと思ったけど エアカッターを弾いた時の音は石とか岩の感じだったよね。
であれば 脆くなれば剣も通るかも。
木は燃え続け その嵩は減り今や土台となっているトカゲの背中をチリチリと燃やしている。大きすぎてひっくり返ることもできないのかもしれない。
「クルトさん、熱いものを急激に冷やすと脆くなるでしょ?それと同じことしてみるから もう一回斬ってみて?」
「ん?おお、分かった」
「【アイスフリーズ】」
トカゲの背中全体に凍結魔法をかけてみる。燃えていた背中の炎は消え去り 赤くなっていた場所が段々黒っぽくなり 湯気が上がり 白く変色していく。
「これなら剣で行った方が早いかも、クルト、ルンガ行くよ!」
「「おう!」」
三人とも素早く武器を手に持ち 動きが固まったトカゲの首の左右、尾の付け根にその刃を振り下ろした。
バキン‼
およそ生き物を斬ったとは思えない音がして 首と尾が落ちた。
斬れたというより 折れたという感じにも見えなくない。
「勝った~~~~!」
「焦った、流石に変異種は想定外だったぞ」
「ヴィオの熱して凍らす、あれ ゴーレム系でも使えそうだな。アイアンとか やってみてえ」
「トンガも 変異種に対して即座の対応 良かったぞ、成長したな。
ルンガもあの相手には効果的ではなかったが 足止めに複数個所を固定するっちゅうのは悪くない。後は相手の属性を考えて 別の魔法を使っても良かったな。
クルトも、ヴィオの魔法に巻き込まれんように 一拍置いてから行動したのは冷静じゃった。
ヴィオも 熱してから冷やすと岩が脆くなるっちゅうのをよく知っとったな。臨機応変に考えられるのはええことじゃ。
4人とも、変異種に対して良く冷静に対応できたな、素晴らしかったぞ」
「わ、うれし~~~~」
「そうだな、別の属性でも足止め考えてみる」
「あ~、偶々だったけど 上手くいってよかったっす」
明るくなった時に 違う敵が待ってて驚いたけど、即座にトンガお兄ちゃんが指示してくれたおかげで 然程混乱することなく冷静に対応できた。
そこをお父さんも褒めてくれて 皆も嬉しそう。私も嬉しい♪
「さて、変異種って事は いつもよりお宝のレベルは上がってるはずだよね?
鞄がいいな、鞄が欲しい!
ダンジョン様!私たち 大容量で 時間が止まるマジックバックが欲しいです!どうかお願いします」
宝箱を前に 両手を組んで膝立ちになった私を見て お兄ちゃんたちも何故か真似し始めた。
「「「ダンジョン様!大容量で 時間が止まるマジックバックが欲しいです!どうかお願いします!」」」
「お前ら……、それで出たら 苦労はせんじゃろうに」
お父さんは呆れながら笑ってるけど、私たちは真剣ですよ。
虚空を見上げながらお願いをして、それから宝箱を開けましょう。
「あ~、緊張しすぎて開けれない!お兄ちゃんお願い!」
ボス部屋の宝箱は 私に開けさせてくれるんだけど、流石に今回は緊張しすぎて無理。
という事でトンガお兄ちゃんに変わってもらいました。
「じゃあ行くよ? オ~プン!」
ガチャリ
ゆっくり開けられた宝箱の中に入っていたのは 大きな魔石と 大量の肉、そしてポシェットが二つ。
「おお!鞄だよ!?お兄ちゃんたち待望のじゃない?」
「いや待て、この階では30%でマジックバックが出る。
でだ、問題は容量なんだよ。トンガ、確認よろしく」
「わかった。ちょっと待ってね」
そう言って トンガお兄ちゃんが鞄に手を突っ込んで目を閉じる。覗いて見える訳じゃないのがマジックバックなんだよね。
段々口角が上がり 頬が赤らんできているけど、これは良い感じなのかな?
「次は時間だね。これはちょっと経過が必要だから まずはお湯の入ったコップを入れよう」
そうか、お湯が冷めれば時間停止はない、お湯がぬるい状態なら 遅延あり、熱いままで湯気もでるなら停止あり。って事だね。
熱々のお湯を用意して 2つの鞄に其々入れてあとはセフティーゾーンで確認すればいいだろう。
「変異種って事でついてないって思ったけど、時間停止が無くても このサイズで大容量ならそれだけでもかなりラッキーだよね」
嬉しそうでよかったですね。
これは30階も期待できるかもね。もし駄目でも 今回の鞄だけでも大収穫な訳だし、良いじゃない。
ボス部屋での検証時間が長くなると次の人たちの迷惑になるからね、この辺で終了して 部屋を出る。
お昼過ぎにやっと入れたから 今日は21階の1つ目のセフティーゾーンになりそうだ。
「あ、でもそしたらあのパリピと一緒になっちゃう?」
「ぱりぴ って後ろの奴らの事か?
あいつらはクルクルするって言ってただろ?多分戻るから大丈夫だろ」
それは良かった。
流石に今夜 あのテンションを隣で見るのは辛すぎるからね。




