第305話 ゲルシイの森ダンジョン その11
ゲルシイの森に潜って5日目、他の冒険者と会うこともなく最初のボス部屋に到着しました。
1日に2階層進んでいる私たちなので、このダンジョンが初めてだったらしき パニックルームを開けてしまったパーティーが追い付いてくることもなく、かといって周回しているような人にもまだ会ってない。
昨日は9階でお泊りし、元気満タンで朝からボス部屋です。
何の面白みもない いつも通りのボス部屋ゾーン。
今回のメインボスはオークナイトさんです。初めてお会いするハイオークの上位種ですね。
後はお馴染み ゴブリン軍団ですので、今日の私は オークナイトさんだけに集中させてもらう約束です。
5人で扉に手を付けて ギギっと開くのを待ちましょう。
扉が閉まれば 少しずつ明るくなる室内。
薄らぼんやりの中見えたのは 最上段で仁王立ちする……筋肉豚?
「お父さん、オークと見た目が全然違うよ、豚要素 顔しか残ってない。ヒト豚だよ!?筋肉モリモリだよ!? あれって種類違くない?」
「「「ぶはっ!!!」」」
「あ~~~、そうかもしれんな。ナイト以上は硬さ、力、早さが桁違いに上がる。
武器も使う分 知能もある。気をつけんとやられるぞ」
確かに、だって ラノベに出てくるツヨツヨ系のオークだもん。
今までの豚要素多めで後ろ足じゃん?って感じの足ではなく、ヒトの足だし、何と言ってもズボンだけだけど服を着ている。
上半身は裸に 胸当てのようなものだけだけど、一気に進化し過ぎじゃないか?
猿から サヘラントロプス、アウストラロピテクスを経由してホモサピエンスになったヒトよりも一気に進化しすぎだよ?
「ヴィオ、もう始まるよ、いける?」
「うん、びっくりしたけど準備はしてるから大丈夫、ゴブたちはよろしくね」
笑ってたお兄ちゃんたちも準備万端 、久しぶりに其々の得意武器を構えてますよ。
しっかり明るくなったところで 筋肉豚が吠えた。
「【ウォーターウォール】」
『グオラァァァァァァ‼』
オラオラ系はモテませんよってね。お水の壁が一瞬の叫びの後にすぐ完成したおかげで こちらに被害はない。というかお兄ちゃんたちに咆哮系の攻撃は効果があるのか不明。
私は結界鎧があるから効きません。
ドォン ドォン
おぉ、流石ですね。中から筋肉豚が壁を叩けば 壁が揺れて魔力がグンと減る。壁を維持するためにだろう。
多少の魔力攻撃でも減ることがないのにコレとは、相当な力だというのが分かります。
色々試してみたいので ゴブリンをすり抜けて上段へ。
壁を叩いていた筋肉豚は 近づいてきた私に気付き ニヤリと嗤った。
今までのオークは見た目が豚だったから 笑ってるみたいな声が出たとしても顔は豚だった。
だけどこいつは 見た目も豚の要素がありつつも ヒト要素が多いから 嫌な感じで嗤ったのもよく分かる。
舌なめずりをしながら こん棒を振り上げて水の盾をぶん殴る。
ドォォォン ドォォォン
とりあえずこちらの攻撃がどこまで効果があるのかやってみよう。
まずはいつもの砂の鞭から。頭を狙ったら終わっちゃうから足からね。
砂を纏わせた鞭を横薙ぎに振り切れば オークの左足の半分まで鞭が入った。
(半分で止まるのか、魔力をあまり流してないからかな? 次はガッツリ流してやってみよう)
私の攻撃が効くとも思ってなかった筋肉豚は 自分の身体に何が起きたか分からなかったのだろう。こん棒を振り上げたまま固まっている。
今のうちに2発目行ってみよう。
さっきよりも多めに魔力を流せば 砂の回転速度が上がり鞭も気持ち太くなっている。
ブウンと振りぬかれた鞭を見て 筋肉豚は咄嗟に左足を庇うべく こん棒を足の左側に出した。
ザシュン‼
筋肉豚の足すら斬ることができる鞭に こん棒が切れない筈もなく、今度は綺麗に膝から下を斬り落とすことが出来た。
『ガァァァァァ』
先程の厭らしい嗤いではなく、憎々し気に睨みつけてくる筋肉豚。
悪いんですが 魔法が効くかもやらせてください。
「【アースランス】」
水の壁で囲まれた中に土の槍が数本出現するが その硬い皮膚を貫通することはない。
(やっぱりランス系はイマイチなんだよね。槍というか棘ってイメージになってるからかな?)
だけど魔法が弾かれるという訳ではないから 検証はもういいと思う。
サイコパスな訳ではないし 痛めつけたいという趣味はないからね。
「では、これで終了ね 【エアカッター】」
中途半端に半分で止まったら申し訳ないので しっかり魔力を多めにして 首チョンパです。
スパンと切れた首が落ちる前にキラキラと光り出して その場所には大きな宝箱が現れた。
パッと後ろを見れば 既に戦いを終えたお兄ちゃんたちが 水を飲みながら見学してました。
「全く心配は要らんかったなぁ」
「あれだけ撓んでも破れないって ヴィオの壁凄いね」
「ナイト以上との戦いのときは 壁なんか紙扱いってくらい意味ないことも多いのにな」
「ヴィオ あれは魔力をかなり多めに流してたのか?」
「ううん、壁の魔力は一緒。水の壁の時は衝撃を受け止めるように考えて張ってるからね。水面を強く叩いても弾かれるのと同じ感じ。
ただその瞬間は魔力がグンと持ってかれるけどね」
前に風の盾で変異種に破られたことがあるので 強そうな相手には水の盾を使うように変更したのだ。
「てことはゆっくり入れたら通れるってこと?」
「ゆっくり入れたらめり込むけどそれだけかな。水の壁もめり込んだ分だけ伸びるから 出ることはできないよ」
全身で無理に進んでいったら窒息するだけである。
トンガお兄ちゃんは水が得意属性だから 水の壁も練習することにしたようです。
めり込む水の壁と、粘着力がある水の壁、2種類覚えてもらうとしよう。




