第304話 ゲルシイの森ダンジョン その10
6階は迷路が少し簡単になり フロア自体も少し狭くなっていた。
理由は魔獣のランクが一つ上がったから。
ゴブリンとコボルトとオークは ハイゴブリン、ハイコボルト、ハイオークとなり、ウルフはグレーウルフになった。
だけどこの一段階レベルではお兄ちゃんたちにとっては誤差であり、全く速度は落ちない。
この階に他の冒険者は居らず、やはり採掘などの楽しみがない場所は 出来るだけ早く抜ける人が多いことが分かる。
「ここは鞄目的で潜るやつが殆どだからな。繰り返し入って 目的のが出るまで通うから 10階までは 自分らで作った地図を持って歩く。
多分上の奴らは今回が初めてだったんだろ?
1回目はグルグルしながら正しい道を見つけて地図を作るところからやるんだ」
「僕たちはそれがいらなかったから 初回から早くて助かったんだ~」
そっか、だから他の冒険者と出会わないんだね。
みんな10階までは最短距離で駆け抜けるんだろう。
特級ダンジョンになると、それこそ毎回ルートが変更になるような迷路もあるらしいけど、上級でそれはないらしい。
って、毎回変わるとか 索敵がない人たちは詰むよね。
「でもさ、特級ダンジョンって 魔獣も強いし 中も変なのが多いんだよね?
奥まで潜れない人が殆どだったら スタンピードが起きないの?」
それを起こさないために ダンジョンには定期的に人が入る必要があると習った。全く人が入らなくなると 魔獣が減らず停滞した魔素により暴走が起きると。
奥まで入れない特級だったら 底の方は停滞しまくりじゃない?
「確かにそうじゃな。けど 特級でスタンピードが起きた記録はない。
上級では数年に一度聞くことがあるが 特級でというのは儂が記憶する限りは無いな」
なんと!
であれば 魔素は関係ないのかな。それとも特級はダンジョン様のお遊び場とか?
色んな事を試してみたくて作ってみたよ。遊びに来ても良いけど 死ぬかもしれないから気をつけてね、的な。うん、それなら暴走しなくても納得かもね。
ダンジョン、入れば入るだけ謎が増えるね。
6階のセフティーゾーンに到着、テントを張って 食事の準備。
「ヴィオ、風呂はどうする?」
「あ、入りたい!」
「え、僕も入りたい!」
「お前らは自分のがあるじゃろ」
「え~、でも順番に入るなら一緒で良いじゃない」
昨日は モドキの事があったからお風呂は考えてなかったんだけど、入れると思えば入りたくなるものである。
お兄ちゃんたちも同じだったようで 目隠し用の土壁をトンガお兄ちゃんが作るという事で 私たちのハンモック風呂を使うことになったよ。
私が使う時は真ん中に余分につけてもらった紐通しからロープを入れて浅めにしてるからね。
水生成魔法でお水を入れて 湯沸かしの魔道具を浮かべて魔力を流せば準備完了。
後は適温になれば湯沸かしは止まるので食後に入るだけだ。
10階までで諦めて帰ってくる人はまずいないので、5階から下りてくる人がいないかだけ気にすればよいというのは非常に気が楽だ。
ゆっくり食事を頂き 腹休めをしてからお風呂へ。
森ダンジョンのような景色を眺めてという楽しみはないけど 十分だ。
お父さんが入ってから 私のサイズにしようとすると お湯が溢れて大変なことになるんだけど 逆は簡単で、外側にペロンと出ている端っこの金輪を柱に引っ掛ければいいだけ。
お父さんの次にトンガお兄ちゃんがお風呂に入る。
既にお宿で渡した日に体験しているから初回程の興奮はない。
あの次の日は ハンモック風呂がどれだけ凄かったかを興奮しながら語られたからね。
長湯にはならない程度で順番にお風呂に入れば 元気満タンですよ。
お兄ちゃんたちは 私たちと別れた後も 毎晩の魔力操作訓練を続けていたそうです。風で葉っぱを飛ばす練習の他、右と左で違うボールを出す練習とかね。
「そうだ、ケーテさん達に教えた魔力操作訓練のやり方もやってみる?」
ずっと同じじゃ飽きちゃうだろうから 水人形と土人形を教えてあげた。
ルンガお兄ちゃんとクルトさんも 水は随分使えるようになってきたしね。
「ええっ、これ難しいね。まずは形を作るところからだけど なんか僕の土人形ってばツルンとしてるんだけど~」
トンガお兄ちゃんの目の前には何故かハニワが量産されています。
あれです 目、口だけ穴が開いてる ユルキャラっぽいハニワ。腕の位置だけがバンザイしてるのと、上と下向いてるのとかあるけど、見た目は全部ハニワ。
何か儀式でもしようとしているのでしょうか。
「トンガ、まずは大きい造形物から作った方がええぞ。小さいのはかなり難しいんじゃ」
土人形はお父さんが得意だからね、先生役お願いします。
「いや、これ丸いとこから動かすのムズイな」
「こっちを凹ましたら、あぁっ、何でこっちが出っ張るんだよ」
二人も水球状態から形を変えるのに苦心中。
水が流体とは考えてるけど だからこそ自由に動きすぎるようです。
「お兄ちゃんたちも お水は入れ物によって形を変えるでしょう? まずは作りたいものの形を考えて 底にお水を流し入れるって考えてみたらどうかな?」
「入れ物? ああ、そういう事か」
「水玉からってのが難しすぎたんだな?」
二人とも水玉を一度消してから 目を閉じて集中し直している。
ズモモと両手から出てきた水は ふよふよと形を歪に変えながら ヒトの形を作っていく。
二人とも眉間にしわが凄いけど 集中しているんだね。
ある程度頭、胴体、腕、足までが作られたところで目を開き うんと納得の様子。
ここから微調整をしていくんだろう。
是非夜の見張り番の時に楽しんでもらいたい。
集中しすぎて人が来ても気付かないんじゃかと心配になるけど、この人たちは野生の勘もあるからね。うっかりものの私とは違うのだ。
ではでは、私は一足先に休みますよ。
おやすみなさいませ。




