第299話ゲルシイの森ダンジョン その5
~〔サマニアンズ〕クルト視点~
※残酷表現あり。人死があります お読みになる時はご注意ください※
ヴィオがルンガに連れられてテントに入った後、アルクさんが狩りに行った。
いつものヴィオに甘い雰囲気は全くなく、獲物を狩る猛獣にしか見えなかった。
ヤベエ 尻尾が股に挟まって出てこねえ。
「父さんやばかったね。俺 今の父さんに勝てる気が1ミリもない」
軽口を叩いていた筈のトンガも よく見れば顔色がちょっと悪い。熊獣人は耳と尻尾に出にくいからズルいと思う。
俺も猫に比べれば耳は出にくいけど 尻尾は無理だ。いい加減腰に巻く練習するか。
あいつらのヴィオ曰く “優しそうに見せかけた方” が俺らに絡んで来た奴らだった。だから最初からイメージは最悪。
大体高値で買うっていくらで買うつもりだったんだ?
時間遅延あり以上だったら オークションにかければ相当額になるのに あそこで頷く奴がいるのか?
「そういえばさ、俺たちあいつらがウザくてすぐ町出たじゃん? 普通の奴らはさ 武器修理で嫌でも町にいないといけない期間があるからさ 面倒過ぎて売っちゃうのかもね」
トンガの言葉になるほどと納得した。
あのウザさで四六時中付きまとわれたら 売ろうと思ってるやつだったら折れるかもしれない。相当迷惑すぎる奴らだな。
「あ、消えたね。早いなぁ」
トンガの言葉にマップを確認すれば 確かに一人分の魔力反応が消えた。
しばらくその場に留まっていたと思えば 凄いスピードで行き止まりの道へ向かって行く。
「なあ、これ走ってんだよな? アルクさん飛んでねえよな?」
「クルト何言ってんの。父さん熊だから、飛べないよ」
いや、それは分かってるけど 何この速さ、おかしくねえか?
この部屋に向かってくる奴らはまだいないから アルクさんの行動をマップ上で確認している現在。次は向き合った状態でしばらく居たようだ。話し合いをしたとは思えないけど 聞くのも怖いな。
「あ、やっと来そうだよ」
マップ上に数名が集まっているのが見える。確かに手前にある部屋を確認しながら来てたから 最後のここに当たりを付けたんだろうな。めちゃ時間かかってるけど。
だけど最初のメンバーは5人ずつの10人だった。
既にアルクさんが二人片付けていて 後二人も結構離れてるからこれはアルクさんが殺るだろう。
俺たちのところに来るのは6人か。
「遅くない?」
トンガが腕組みしながら足をトントンしている。こいつが苛ついている時にする癖だ。まあ確かに集まってから来るのに随分時間がかかっている。
「何らかの方法で集合かけて待ってんじゃね?もう来ねえけど」
俺たちはどこに何人いるのか分かっているから良いけど 普通は分からないからもう来るのか、来れない場所にいるのか分からないのかもしれない。
しばらく待てば諦めたのか6人組が動き出した。3人ずつに分かれたけど どういうことだ?
「こいつら本気? 多分ヴィオが言ってたことやるんじゃない?
どうする?ここで待ってたら殺る気満々ってバレちゃうね。のってあげる?」
コイツ、普段は優しいのに 意外とこういうところあるよな。
まあ俺も今回は許せねえし のってやるか。
普通に休憩をしているふりをするために 火を焚いて鍋に入れた水を沸かし始める。
肉串は 汚れそうだしやめとこ。
5分ほど待っていれば セフティーゾーンの扉が開いた。
「おい、先客がいるぞ」
「マジかよ うぜえな。放り出せよ」
《こいつら馬鹿なの? 喧嘩の売り方間違えてない? このやり方でよく生きてたね》
《ちょ、お前ちょっと黙ってろ》
入ってきて早々の喧嘩口調に思わず呆れる。狭い部屋で 階に一つしかないセフティーゾーンならまだしも、この階には別に個室が2つあるし、この部屋もまだテントは3つ張れるほどの広さがある。
「おい、お前らだよ聞いてんのか?」
ヤベエ アホすぎると思ってたら続いてた。
ヴィオによると この後優しいのが来るんだろ?
え?待つ必要ある?
どう見てもヒト族と獣人もいるけどネズミか?尻尾震えてんぞ?
ヒト族は感覚が鋭くないから あんまり分かんねえんだろうな。
おいネズミの小僧 お前その感覚を大事にしてたら生き残れたのにな、もう遅いけど。
《ねえ待つ必要ないよね》
《だな》
「おい、聞いてんのか?」
「さっきからうるせえよ。お前の目は節穴か?この部屋がどんだけ狭く見えてんだ?巨人族にも見えねえけどテントじゃなくて宮殿でもこれから建てるつもりなのか?」
「なっ、ふし、この野郎!」
「いや、うるせえんだけど。ダンジョンで他の冒険者に絡むなって知らねえのか?下手に喧嘩売ったら やられても文句言えねえって事 分かってやってる?」
「ひっ‼」
ネズミの小僧はその場で蹲りブルブル震え出しているけど、言い出した男は後に引けないのかうるせえだけを繰り返している。もういいか?
「揉め事か……、ってどうした?」
もう一組がタイミングを計って入ってきたけど どういう状況が正解だったんだろうな。
一人は蹲って震えてるし、1人は短剣を突き出してプルプルしてるし、1人は俺たちにすごんでるけどその場に直立不動だし。
ああ、両方のリーダーがこっち側で参加なのか。その時点で計画破綻してねえか?
「あ、あいつらヤベエよ」
「お、お、おれもう無理です。あいつらに勝てるはずないです」
「てめえ今更何言ってんだ?んなこたぁどうでもいいんだよ。
つーかガキが居ねえな。後二人が居ねえのは丁度良いけどガキはどこだ?」
すでに戦意喪失したネズミの小僧が撤退を促すけど 優しい振りのリーダーが一蹴した。まあ逃がさないけどな。
アルクさんとルンガの姿が見えないと分かり 人数差で押せると思ったんだろう、態度を豹変させた男がこちらに問いかけてくる。
「ガキってうちの可愛い妹の事?」
「あぁん?妹だ? ああ、可愛いガキだったな。阿呆な家族のせいでこんなダンジョンに連れてこられて可哀想に。俺らが た~っぷり可愛がってやるから安心しな。
ついでにお前らの鞄も全部俺らが有効活用してやるよ。お前ら行くぞ!
ん?おま……は?」
先頭に立って腕を振り上げた男。
その声に続く声はいない。振り返った男の目の前には 血の海と 仲間だった筈の奴らの首を持った虎と熊。
「で?うちの妹をどうするって?」
俺に2個の首を投げてくるトンガ。まあそいつはお前が殺った方が スッキリするならそれでいい。
「は?おま……冒険者殺しは……」
「はぁ?聞こえないんだけど? 冒険者?お前らが?
冒険者モドキだろ? 1階層で戻ってくる奴らを見つけたら 言い寄って魔道具安い値段で買い取って 高値で売買?
何その差額のいくらかをギルドに収めてんの?
ああ、でもあのギルマスたちがそれを認める筈ないから、何人かの職員を買収してんのかな?」
「な、なんでそれ……」
「知る必要ある?もう死ぬのに」
「お、おれを殺したら 捜索が入るぞ」
「ふぅ~ん」
「お前らが疑われるぞ」
「そうなんだ~」
「俺を助けたらおまペ……」
「ダンジョンでは自己責任だしね。っていうかオマペって何? ちゃんと聞けばよかったかな」
命乞いというか 腰を抜かした男がズリズリと後ろに下がりながら言い訳をしていたけど、最後は面倒になったんだろう 首を蹴り飛ばして終了だった。
俺もこいつも部屋も血みどろだ。
戻ってきたアルクさんがその現状を見て呆れながら【クリーン】をかけてくれて臭いもスッキリした。
持ってた首は心なしか軽くなったな。
「この部屋じゃとスライムが片付けられん。外に持っていくぞ」
「わかった~」
2体ずつ遺体を担いで外に出る。
多分最後にアルクさんがやった奴が居たらしい場所に大量のスライムが集まってた。既にヒトの姿はなくタグだけが転がっている。
「これも頼むぞ」
そう言ってスライムの中央にドサドサと遺体を投げるアルクさん、トンガも同じように置くからおれも積み上げる。首はどうすんだ?
ふと見れば目はないけどじっとこちらを見ているようなスライムが居たので そいつの目の前に置けば 即頭を包み込んで消化を始めた。
飯食ってるみたいだな。
その後セフティーゾーンに戻って 話し合いをした結果 タグはそのままでいいだろうという事になった。
7体分がまとまって見つかるのはおかしくないかと思ったんだけどな。
「あいつらは常習犯じゃ。誰に恨みを買っておるか分からんじゃろう。何なら1階に置いておいても良いと思うくらいじゃが それは直ぐに見つかって面白くない。まあ3階も皆が通るじゃろうし 見つかるのは時間の問題じゃろうがな」
とのこと。
いや、けどあいつら放置した場所って 通らないでも良い場所だったよな。通常の個室を探しながら歩くなら通らない道、あの道でタグを見つけたやつらはびっくりするだろうな。
まあこれはこれで仕方ないことだな。
さて、腹減ったな。飯作るか!




