第295話 ゲルシイの森ダンジョン その1
許可証をもらった翌日、張り切ってダンジョン入口まで歩いて行ったんだけど 入る前にびっくりしたよね。
ゲルシイの森ダンジョンというのが正式名称で、通称が魔道具ダンジョンなんだけど、森ダンジョンという割に低層階が洞窟なのが不思議だったんだよね。
けど 入口に来て理解した。
小さい森がそこだけにあって ダンジョンの入り口は その森の中央にある大木の大きな洞だったのだ。
ダンジョン受付は 森の入り口にあり、大木までは馬車が2台通れるくらいの道が出来ている。
元々は大きな木があっただけらしいけど、ダンジョン化してから 周囲に樹々が生え始め こんもりした小さな森が出来上がったらしい。
その為ゲルシイの森と呼ばれるようになったとか。
マジでダンジョンが不思議過ぎる。
受付では先にお手紙を渡したことで スムーズに手続きが終わり ダンジョンに入る事が出来た。聞けば20組以上が現在 潜っているとの事。
流石人気のダンジョンだけあるね。
豊作ダンジョンはそれこそ低層階を含めたら 一日の入場者数はもっと多いだろうけど、深層階まで行く人は10組ぐらいが平均らしい。
ここは魔道具を求めて 銀ランクの中級から上級の人たちが多く集まるとの事。
受付を終えれば これから受付の人、既に終えて 入る準備を整えている人などが数人いる。
チラチラとこちらを伺う様子があるけど 誰も声をかけてこない。
「嫌な感じだな、放っておけばいいのに」
「まあ仕方ねえって、気にすんな」
「ヴィオおいで」
お兄ちゃんたちがちょっとイライラしながら周囲を牽制しているけど、珍しくお父さんが抱っこのポーズをしている。まだ全然疲れてないけど珍しいお誘いですから喜んで。
ひょいとお父さんの胸に飛び込めば 抱き上げられる。これはますます お子ちゃまを甘やかしている家族旅行的にみられませんかね?
《ヴィオ、中に入ったら全員に隠蔽をかけれるか?》
そんな事を考えていたらお父さんから【サイレント】で内緒話。
おぉ、あいつらが追いかけてくるだろうという事で隠れる訳ですね、了解ですよ。
コクリと頷けば 隣でトンガお兄ちゃんがピクリと眉を動かし コクリと頷いた。お父さんがお兄ちゃんにも伝えたんだろう。
トンガお兄ちゃんから順にダンジョンへ入っていく、私たちは最後だ。
入った途端に5人纏めて隠蔽をかける。
「【ハイドプレセンス】」
ただの隠蔽魔法【ハイド】の上位魔法 【ハイドプレセンス】は姿を見えなくするだけではなく気配も消してくれる。
魔力視が出来る人なら揺らぎを感知することが出来るだろうけど 普通の人は探せないと思う。
ただし例外がある。
私の索敵では 人や魔獣が居ると印がつく。大きさや形がぼんやり分かるので 何がいるか分かっていれば理解できる程度のだけど。
今も索敵をすれば 5人分の印が出ている。あの【索敵】はやっぱり秘密案件だね。
気配隠蔽をして1分ほどだろうか、冒険者が入ってくる。
さっき外にいた人たちは2組いたけど そのうちの一組だ。
「おい、いねえぞ?」
「は?まだそんな時間たってねえじゃねえか。すぐ近くにいる筈だ探せ」
「「「応!」」」
リーダーっぽいのが指示をだし そいつ一人を残して 全員がばらけていった。
1階層は洞窟だけど 入った場所はだだっ広い空間で 奥には3本の通路がある。どの道を選んでも2階に続く階段には行けるけど、どの通路を選んだのか分からないので3本に数名ずつが入って行った。
それから5分ほど経ったところで 私たちの後ろで受け付けをしていた冒険者が入ってきた。
「あ!?」
一瞬ルンガお兄ちゃんが声を上げたけど 冒険者たちが喋りながら入ってきたのでその声が聞こえたという心配はいらなそうだ。
ちなみに私が5人同時にかけているので 気配隠蔽した5人はお互いの姿が見えている。別々にかけると かけた私は認識できるけど そうじゃない人は見えなくなる。
盗賊Aに気配隠蔽をかけた後 お父さんにもかけた。
私からは二人とも見えているけど お父さんからは私しか見えなかったのだ。盗賊Aは寝かせたままだったので確認できなかったけど 多分彼からはお父さんが見えなかった筈だ。
だから今回は5人一緒に纏め掛けをしたということ。
そして目の前ではおかしなことが起きていた。
「あれ、あの親子は?」
「潜って直ぐに走ったのか 俺らが入った時には見えなかったから 今全部のルート見に行かせた」
「まあガキ連れてんだ。この階はさっさと行って2階に行ってんのかもな」
「あの三人組だろ?」
「おお、まさかまた来るとはラッキーだったぜ。確実にマジックバック持ちだからな。前回の鞄を捨てずに増やしてるって事は 6個は確実だろ?
それにあのガキ 結構可愛い顔してたから 高値で売れるぞ」
「ぎゃはは、荒稼ぎだな」
「おう、赤メダルだったからな どこで何があっても自己責任、だろ?」
「けどよ、あの親父さんやばそうじゃなかったか?」
「銀の上級らしいぜ? けどよ、ガキを連れて上級に来るような奴だぜ? これだけの人数で囲めばいけんだろ」
「とりあえず俺らも進むか。洞窟でどうにかしねえと 高原まで行かれたら他の奴らに見られる可能性もあるからな」
「そうだな、あいつらの工程表によれば2か月だったから 捜索は2か月半先まで入らねえ。余裕を持った日程にしたことが仇になったな」
「それだけあったら 娘も売り先が決まって見つけ出せねえだろうな」
ギャハハハと笑いながら 3つのルートに分かれて行った冒険者たち。どうやら別のグループだと思ってたのに お仲間だったようですね。
ゲルシイの森ダンジョンは21まで続きます




