〈閑話〉?????
「思った通り 早めに帰ってきたな」
「ええ、やっぱり同じドレスでお茶会に出席するのが嫌だったんじゃない?装飾品は娘に贈られてきたものを使えても、ドレスはそうはいかないもの」
「けどそれで娘も連れて帰ってくるところがあの夫人って感じだよな~」
水の季節も一月経てば アスヒモス子爵領に娘たちが帰ってきた。
皇帝に謁見した聖女見習いは あちこちからお茶会に誘われる毎日、父親は社交の場へ招かれ 母親は娘たちのお茶会が見える場所で同じように開催される母親たちのお茶会に出席せざるを得ない。
娘は洗礼式以降大量に贈られてきたドレスがあるため 毎回違うドレスを纏うことができる。
首都に来てからも 祝いの手紙と共に ドレスが贈られてくるので、ここから1年は着るものに困ることはないだろうというくらいだ。
夫人としては 誰か気を使って母親の為のドレスを贈ってこいと思っていたが、送り付ける貴族とて 養女として迎え入れて家門の力にしたい者、息子の嫁にして聖属性持ちを産んで欲しいというような者ばかり。
母親というか、子爵家がどうなろうとどうでもいい、いや むしろ 居なくなってくれた方が養女にしやすいと思っている者ばかりである。
何らかの形で娘を虐待しているところを見つけることが出来れば、親切なふりをして助け出してやることができる。そうすれば 養子縁組もしやすいだろう。
だからこそ 娘を際立たせるような贈り物を送り付ける貴族が多いのだ。
影たちは 皇国よりも大きな国、この大陸で一番大きなメネクセス王国の元公爵、現在は娘である王妃のせいで侯爵になってしまったが、それでも権力を持つ家の陰である。
姿を変え、時にはメイドとして、時には子供の家庭教師として、時には庭師として、城や様々な貴族の屋敷に潜り込み情報を主に渡してきたのだ。
勿論 後ろ暗いとされる仕事も多く、国に、主に仇なす者と判断されれば粛清してきた。
事故死、病死、変死、自死、心中。
彼らにとっては主からの命令だけが絶対である。仲良くして見せても 町の人間たちは只の情報源、ターゲットに嫌悪感を抱くことも同情することもない。
戻ってきた娘が もっとみんなと茶会をしたかったと癇癪を起して メイドたちに当たり散らしているところを見ても「あれが陛下の娘ではないことが確認できたね」という感想しか抱かない。
そしてここでの目的は達成された。
子爵のところにいた娘は陛下の子ではない。ただし、陛下が持っているのと同じペンダントを持っているのは確認できた。
そして そのペンダントは陛下の妻であった薬師の女から奪ったものであろうことも分かった。
娘は子爵邸から連れ出され 捨てられたが生死不明。生きているとしたら隣国リズモーニにいるだろうこと。
生存している可能性は低いだろうが、ある者からの情報により 生きている可能性がほんの少しはあるという事。それが分かったらもうこの国にいる必要はない。
「さて、では私たちは一度報告をしに行かねばね」
「あ、あの俺は……」
「あ~~~~、あんたは国境門を越えられないでしょ? あんたのせいで私たちまで尋問されるとちょっと面倒なのよね」
帰り支度をしていたら 娘が生存しているかもしれないという情報を持ってきた男が縋りつくような眼で見てくる。
まあ確かに その情報を聞いたからにはオナカマとやらを見つけるのに協力するとは言った。
だが同時に こいつらが共和国から指名手配されていることも分かったのだ。国境門を通る時には身分証が必要となる。こいつのギルドカードを提示すれば 同行している我らも聞き取り対象となるだろう。
「山越えさせればいいんじゃないっすか?」
「バカ、あの山を越えれるわけねえだろ」
影の二人、マックスとハンスの言葉を聞いて顔色を悪くしているのは 私たちが対象を暗殺するのに依頼をした冒険者の一組、の生き残りだ。
私たちが皇国に到着する前に、あの対象親子の娘の足取りを調べに来た冒険者が居たらしい。
多分陛下が依頼した冒険者だったのだろう。この男は そいつらに尋問されて娘の行方を告げた。多分死んでいると伝えたし、本人もそう思っていたらしい。
だけど その後の冒険者たちの動きを見ていたら どうやら探しに行くようだと気付いた。
国境付近まで尾行したことで娘が生きている可能性が高いと彼らが思っていることが分かった。
そして国境付近の町に唯一ある冒険者ギルドの出張所で 自分の所属していたパーティーの生き残りがリズモーニで活動していることが分かった。
この男が所属していたパーティーリーダーは 先日の襲撃事件で死亡、メンバーの半数以上が死亡したが この男は生き残り、途中で逃げた3人はそのまま出国。
パーティー名を変更されていれば分からなかったが、彼らは何故かそのままの名前で行動していたため メンバーの この男にも状況が分かったらしい。
男のメンバーが現在いるのはリズモーニの辺境、サマニア村というところ。
娘が流れ着いたとしたら その村にいる可能性が高いと言われたので 丁度良いと思った。
だけど こいつを連れて国境を越えるのは悪手であることは間違いない。
山越え……、結界……。
「ねえ、妃殿下ってこのままいけると思う?」
「急だな。まあ無理じゃねえ? 娘が生きてようが死んでようが もう嫁は死んでるの確定だし、関わってんのボロったんだろ?」
「確かに、今の状況より良くなることはなさそうだよな」
「だよね、だとしたらさ、私たちって微妙じゃない?」
「「は??」」
「だってさ、一応主の娘だからって事での依頼でしょ?
けど その依頼に対する情報は 今回のペンダントは見つかったけど着けてる奴は娘じゃなかった。
これで終わりじゃない。娘は子爵に殺されて捨てられた。でよくない?」
「いや、その流れたやつを探しに行くんじゃねえの?」
「だからさ、それは別に今回の依頼とは違うじゃない。」
「「????」」
頭の中に何が詰まってるのかしら、私が言いたい事をまだよく分かってないみたい。
「妃殿下には報告書を出した時点で終了。それでいいでしょ。
けど 娘を探すのは完全に私たちの独断、だって生きてるかどうかも分かんないし。
だからこそ、生きてたとしたら それを持って陛下に献上したら?」
「喜ぶんじゃないか?」
「⁉そういう事か!」
年嵩のハンスは気付いたようだけど、マックスは駄目ね。
「泥船にいつまでも乗っておく必要もないでしょ?とりあえず一旦は閣下に預かってもらって 頃合いを見て献上してもらえば 妃殿下は無理でも侯爵家は大丈夫でしょ」
「あ~~~、そういう事!?わかったわかった!」
ここまで言って分かったじゃないわよ、答え言ってるんだから。
「だから、その献上品を盗む必要があるって訳。勿論国境門を越えさせれないでしょ?
それを隠しておく場所の確保も必要だから、それをコイツに作っておいてもらいましょうよ」
固まったままだった男を指してそう言えば、自分を指さして「俺?」と呟いている。
察しの悪い男しかいないのね 全く。
「あんた 教会で世話になってたんでしょう?
だったら私たちが戻る頃 そうね、火の季節の終わりには戻るわ。
その時に盗み出して頂戴」
それのお陰で町を護れるくらいなのだ、数人分を匿う事など容易だろう。
それがあれば山越えもできる筈。
まさか人攫いが危険な魔の山に入るなど思うはずがないのだから。
 




