第291話川を渡る
プレーサマ辺境伯領地内は 索敵範囲に人が引っかからない限り ウインドダッシュで駆け抜けたので アホみたいな速さで領地を抜けた。
だけど、ノイバウワー侯爵領地に入ったら いるわ いるわの盗賊たち。
まあダッシュで駆け抜けても良かったんだけど、ついつい闇魔法の練習台だと思って捕まえちゃったよね。お陰様で 25人も重ね掛けで練習できたから かなり上達したと思います。
悪夢はねぇ、別にこちらからこんな夢を見ろ!なんて指定はできないからね、多分本人が潜在意識なかで『怖い』『嫌だ』『体験したくない』って思った夢を見たんだと思うよ。
全員がその後 自供をサラサラしたって どんな夢を見たんだろうね。
まあけど、これ以上の練習はしないで良いでしょう?というお父さんのお願いというか 心配もあって グスコの町を出て 人気が無くなったところから再びウインドダッシュをしております。
今回は彼らで練習しておいた隠蔽を私とお父さんにかけているので、多分遠くから見た人では私たちに気付かないと思います。
そもそもスピードも出ているので、なんか通り過ぎた? いや、風じゃない?となる可能性が高いでしょう。
というか、この領地 本当に盗賊なのか野盗なのかが多い。
林や森なんかの浅い場所には必ず2~3人で周囲を伺っている人がいるのよ。ゴブリンよりも多いって大丈夫?
「お父さん、何でこんなにこの領地は盗賊が多いの?」
「まあ 儂らが通っとる道がそういう道なんじゃろうな。
グーダンからルパインまでの道中はそういうことはなかったじゃろう?」
確かに。
あの時もお兄ちゃんたちと別れて 王都に向かってお父さんと二人旅だったから、見た目の条件は今と同じだ。
「あっちはグーダンから王都行のルパインに向かう王道ルートじゃ。
人も商品も多く走るから 領主もあの道で盗賊が出るようなことはない様に 細心の注意を払っとるはずじゃ。騎士の見回りもしておるはずじゃし、魔獣除けの魔道具もしっかり整備されておったじゃろう?」
そういえば 時々道を逸れたりもしたけど 小さな魔獣以外は居なかったし 盗賊も見なかった。
今回は主要道路ではないし、そもそも 舗装もされていない場所を歩いてた。木々が少なく歩きやすいから 地元の人や目的の場所までの近道だというような人が使うだろう 程度の道。
そんな道だから 被害者が居ても気付いてもらえない、気付くのが遅くなるという事なんだろう。
そうかそうか、という事は 私たちが盗賊の巣に分け入ってしまっていたって事だね。
そりゃ申し訳ないことをしたね。
アジトに潜り込んでおいて お前誰だ?って出てきた家主を討伐しちゃったってことだもんね。
「いや、そもそも盗賊も野盗も悪い奴らじゃからな」
ああ、そうでしたね。基本を忘れるところでした。
窃盗、恐喝、強盗、強姦、ダメゼッタイ!
グスコの町を朝に出て、ほぼノンストップで走り続けて5時間程。
【索敵】で5キロ先に川が見えてきたところで風魔法を終了させる。
「ふぅ、ここまでこれば 後は人が増える場所に交差するからな。2日ほどは普通に歩くことになりそうじゃ」
十分ではないでしょうか。
普通の旅人は乗合馬車を使うか 徒歩だけで移動するから 1日に動ける距離はそう長くない。冒険者は目的があって色んな所に行くし 体力もあるから一般人よりは長く歩けるだろう。
車社会の地球人よりは この世界の人は健脚だろうけど、彼方とは違って舗装がない道、出てくる可能性がある魔獣や野盗、これらに警戒しながらとなれば やはりそこまで早く歩けるわけではない。
そう考えると 江戸時代の人たちって あの険しすぎる箱根の山ですら徒歩で行き来してたんだよね。しかも女性は着物でしょう?
もしかしたらモンペだったかもしれないけど、時代劇では 着物の裾を捌きながら歩幅を大きくすることもできず歩いてたよね。今考えると自分達への縛りを強くし過ぎじゃね?って思うよね。
あれです、RPGにある【ノロイの鎧:防御力増大だが非常に重く動きが制限される】みたいなのを あえて選んでるって感じ。
ああ、話が逸れた。
まあそういう訳で 簡単に移動が出来る訳ではないこの世界では、自分の村や町から 一生出ることなく過ごす人は珍しくなく、隣近所の町まで行き来するというのでも 簡単ではない。
商人なら それなりに動き回るけど、それでも領地を跨ぐほどとなると 護衛を雇えるくらい稼ぎがあるか サッサさんのように本人に戦闘能力があるかが必要。
なので風魔法のドーピングがあるからと言って一週間くらいで領地を跨ぐとか普通ではない。
多分私自身にドーピングをしても 流石にその短時間では無理。
何故なら足が短いから。
お父さんの脚力と足の長さがあってこそ このスピードなのだ。
まあ 馬の駆け足に並走できる人たちだもんね。あの時は馬車にだけ風魔法をかけていたので、お父さんたちはドーピング無しだったのにね。
拓けた草原で昼食を頂き、そこからは普通に歩いて川を目指す。
1時間ほどで 広い川が見えてきたけど ルパインで見たよりは細いね。
「ルパイン以下は 船で行き来できるように川幅も広げてあるからな。魔法使いが相当な人数集められたと聞いておる」
水魔法で水を堰き止める人、土魔法で川幅を広げる人と川底を深くする人、堤防というか 両端をちゃんと崩れないようにする人、そして水が減ったところに残ってしまった魔魚を倒す人などなど。
土魔法が使える人は大活躍だね。
1度に工事できるのは数キロずつで、当時は魔導学園の生徒たちもボランティアとして参加していたんだって。この工事に参加してた人たちは 軒並み土魔法のレベルが上がってそうだよね。
いや、元々得意な人しか参加しなかったのかな?
勿体ないね、絶対 得意属性に上がってくるくらい上達できるチャンスだったのに。
サマニア村にあるのと同じくらいの長さの橋を渡り 西側へ到着。
私のマップ情報にも ルパインが見えるくらいには近づいているからか 盗賊などの気配はピタリと無くなった。
「お父さん、いないね」
「ははっ、もうこっちに来たからな。流石に危険を冒してまでやらんのじゃろう」
まあそうか。ギリギリを計りながら彼らも行動してるって事なんだね。
いや、その努力が出来るなら冒険者にでもなってダンジョンに潜れよ。
いつ来るか分からないターゲットを待つより、いつだって扉を開けて待ってくれてるダンジョンの方がいいじゃん。
「そうだよ! 豊作ダンジョンで生活すれば 食べ物に困ることはないし、余った食材とかドロップアイテムを売れば 盗賊よりもちゃんとした生活が出来そうなのにね」
「ダンジョンで生活……。
プハッ!確かにそうかもしれんな。考えたこともなかったが “その日に食うものも無くて”と捕まえた相手が言う事も少なくなかったが、確かにそうじゃ。
あいつらも豊作ダンジョンであれば 食うものが無くという状況にはならんかったはずじゃな」
お父さん爆笑してます。そんな事考えたこともなかったって言うけど、ハンモック風呂もできて 水生成魔法もあれば 結構充実の生活が出来そうじゃない?
セフティーゾーンは魔獣に襲われる心配もないし、ギリギリの生活をしているのであれば 強盗目的の冒険者モドキに襲われる心配もないだろうし。
今度盗賊を捕まえた時にはそう教えてあげよう。
それまでにやってきたことが酷すぎなければ また娑婆に出てくるだろうし、そうなった時にまた悪事をしないで済むようにね。うん、良いと思う。




