第289話 盗賊退治
盗賊たちは捨て置くわけにもいかないので お父さんが良いものを作ってくれました。
お盆サイズの小さな板に 私の身長くらいの支え棒を2本立てて、2本の間には蔓草ベルト。
板の上に一人ずつ立たせてたら 支え棒ごと蔦でグルグル巻きにして固定すれば立った状態の盗賊が完成!
「おぉ!これなら運びやすいね」
「じゃがこれではこいつらが歩くことは出来んじゃろう?」
固定してなくても歩けないからね。
三人を縦並びにしてもらって 其々の身体と前の人の支え棒を蔦でつなぐ。そして先頭の人を私の鞭から伸ばした蔦で括り付ければ準備完了。
「【ウインド】」
三枚分の板の下から風を当てれば 地面から数センチ浮き上がる。後ろから追い風をしなくても 私が引っ張っているので勝手についてくる。
「どう?」
「あ~、まあ確かに。遠くから見たら 随分綺麗に並んで歩いとるなぁと思われるくらいかもしれんな」
横並びにすると引っ張るのが面倒そうなんだよね。
まあいいんじゃないかという事で 歩いていたんだけど、怪しいと思って近寄らないかと思いきや、盗賊なんてする人だから あまり深く物事を考えないのか 寄ってくるんですよ。
1列のままだとどれだけ行列?ってなりそうだから 2列にしてからは 護衛を連れた貴族かなんかだと思った輩が襲ってきたりしてね。
「これは流石に町によらんと面倒じゃな。ここから近いんじゃとグスコの町がある。ダンジョンも近くにあるから冒険者ギルドがあるから丁度ええ。
運ぶのも今のままじゃと目立つからな、容れ物を変えるぞ」
お父さんもあまりのホイホイっプリに呆れ顔。
そして乗り物ではなくイレモノと言ってるあたり お疲れなのでしょう。
すみませんね、私が年中(悪者限定)モテ期で。
荷車のような台車を小一時間で作り上げてしまうお父さんは流石だと思います。
とりあえず盗賊たちは 眠らせてから魔法の練習をするようにしているので、多分起きた時には何が起きたのか意味が分からん!という状態になると思います。
一応闇魔法の禁術と呼ばれる魔法の練習をしてますからね。
初日に出てきた3人組は 散々重ね掛けをしております故、ちょっと後遺症的なものがどうなるのか心配ですが 盗賊は基本的にリスク高めの肉体労働か、死刑という事なので 許していただきたい。
台車にギュギュっと座らされている人は 一目見て異様な状態であり、流石に索敵範囲に引っ掛かっていた盗賊(疑)な人たちは 蜘蛛の子を散らすように居なくなった。
「あれ、最初からそうした方が良かったのかもね。お父さんごめんね」
「まあ あんなに来るとは儂も思っておらんかったからなぁ。
一人で歩いておっても然程絡まれたことが無かったから考えが甘かったな」
いや、まあ 絶対強者感バリバリの熊獣人さんが一人で歩いてたら絡まないと思いますよ。
お父さんって意外と自分の強さみたいなのを分かってない気がする。おかげでそれが常識と思ってしまっている私みたいなのが出来上がるんだから 気を付けてもらいたい。
ノイバウワー侯爵領地に入って3日目の夕方というにはまだ早い時間、グスコの町に到着した。
「お待ちの方~って、は?」
「おいどうした、もう今日は終わりそうなんじゃないか?おぉ、商人、では、ないな?」
大きな街は四六時中 混み合っている門も、これくらいの町なら朝から昼過ぎまでと、夜の閉門前ギリギリくらいしか混むことはない。
私たちが到着したのは 閑散とした時間だったので 他の人と被ることはなく門まで来たんだけど 門番の兵士さんが荷車を見て固まってます。
あ、睡眠以外の闇魔法とお口のガムテは外してますよ。今はスリープが効いてるので眠っている状態です。
人が来たはずなのに 手続きの声が聞こえないと思って出てきた同僚らしき人も 荷車を見て驚いている。まあすし詰めの人ですからね。
「これはどういう事だろうか」
「儂らは〔ヨザルの絆〕っちゅう冒険者パーティーなんじゃが、ルパインに向かっとる道中なんじゃが 盗賊に襲われてな。
こいつら全員野盗か盗賊じゃ。今は眠り草を嗅がせて眠らせておる」
お父さんはギルドカードを見せて 淡々と説明をしている。
眠り草は狂暴な魔獣の巣に入る時など、洞窟の入り口で燻して巣穴にいる魔獣を眠らせてから討伐するときなどに使われるものだ。煎じた物は睡眠導入剤として服用することもできる。
魔道具屋と薬局で販売されているので違法薬物ではない。
カードを確認した兵士は 盗賊と言われた男たちを確認しながら不思議な顔。
「確かに盗賊っぽいんだが 随分小綺麗だな……」
「あのね、この人達すっごく臭かったの。だから【クリーン】で綺麗にしたのよ」
「「ぶっ」」
2回目以降は テンプレセリフを聞く前に土に埋めたから、寝かせて直ぐに汚れを落としたのがいけなかったかも知れないね。
でも私は結界で防げても お父さんは辛そうだったから臭い処理は大事。
「ああ、これはこいつらの武器じゃな。娘もおるから アジトをわざわざ探しに行くことはしておらんから 残党がおる可能性は十分にあるが、結構な人数じゃから 弱体化は出来たんじゃないか?」
「ああ、マジックバッグですか。ありがとうございます。
そうですね、こんなに沢山……。お嬢ちゃん怖い思いをしただろう。お父さんが守ってくれてよかったね」
お父さんが出したのは盗賊が持ってた武器、襲った人から奪った武器もあるのだろう、種類はバラバラ、碌に手入れをしていないだろうものもあった。
脅すだけのために見せる武器だったのか、それとも単に手入れ不足で 新しいものが手に入ったら交換してたのかは分からない。
若い方の兵士さんが腰を落として 私に視線を合わせながら 頭を撫でてくれる。
うんうん、良い人っぽいね。
お父さんはちょっと視線を逸らせて笑いを堪えているけど 兵士さんからは見えていない。
もう一人の人は仲間を呼びに行っており、続々と兵士が門に集まってくる。
完全に眠っていることを確認した彼らは こいつらをどうしようかと相談。
お父さんが荷車は 盗賊を運ぶためだけに作ったから 使った後は好きにしていいと言ったので、そのまま荷車ごと取り調べが出来る部屋に連れていかれるようだ。
「ありがとうございました。私たちも巡回はしているのですが やはり小さい人数で動く奴らは 中々すばしっこくて捕まえきれませんでした。
今回これだけの人数を減らしていただけて感謝します。
ただ、奴らの取り調べもございまして、報奨金に関しましても少しお時間を頂くことになりますが大丈夫でしょうか?」
「ああ、今日はこの町で泊るつもりじゃから大丈夫じゃ」
「良かったです。お子様と一緒であれば 〖山猫亭〗がお勧めですよ」
「そうなんですか?これから探さなきゃって思ってたから お父さん良かったね」
「あ、えへへ、あの、僕の実家なんです……。すみません 営業です」
お礼を言ったら 自分の実家だったのだと真っ赤な顔でネタ晴らしをしてきた兵士さん。尻尾の先が左右に揺れてます。可愛いかよ。
勿論この日は〖山猫亭〗にお泊りいたしましたよ。
お料理も美味しかったし、お布団もお日様の匂いでふっかふか、お風呂はシャワーだけだったけど、私たちにはハンモック風呂があるからね、浴室にハンモックを設置してゆっくり浸かりました。
流石に盗賊がバンバン出てくる野営中には お風呂に入りたいとは思えなかったから とっても気持ちが良かったです。




