第287話 出発!
前回のルートは 辺境伯領都を通って グーダンを目指した。
このルートは 整備された道が多く 人通りも多いのが特徴で、盗賊にも会うことなく非常に安全な道だった。
ただ、人が多いので 私の場合は普段は悪くない筈の人が うっかり悪い人になってしまう可能性がある 悪者ホイホイなので、お兄ちゃんたちが居ない今回は ルートを変えることにした。
プレーサマ辺境伯領都はサマニア村を流れる川の西側にある。
なので今回は 川の東側を南下していく。
グーダンから川船の町ルパインまでも混み合うけど、東側はそうでもないから 魔獣や盗賊と出会う可能性はあるけど、それは倒せばいいだけだから大丈夫だろうとのこと。
商人とか、しょうもない貴族とかに絡まれる方が厄介だという事なので 安全対策です。
ルパインの町を過ぎれば 今度は船で王都を目指す人が殆どになるから 川を渡ってウィスラー侯爵領地に入るとの事。
「あれ?お父さん川に橋ってあったっけ? 船に乗ってるときに危ないなとか思った覚えがないんだけど」
「ああ、気付かんかったか。
途中で川の両側に崖がある場所が幾つかあったじゃろう?あそこに橋がかかっとるんじゃ。
昔は盗賊が出るっちゅう危険な場所に橋を架けたことで 橋の監視役を置くことになって 盗賊は場所を変えることになったっちゅう訳じゃな」
おぉ、船で盗賊について聞いてた時に崖の話は聞いてたけど、まさかそこに橋を架けてるとは思ってませんでしたよ。
ルパインより北側にある橋は 船が通ることがないので 川の上を渡るようにあるらしい。
それ以外は モーセル侯爵領に一カ所、ケストネル公爵領に一カ所あるんだって。
一カ所目は爆睡中で、二カ所目は 付与魔法談義で盛り上がっていた時ぐらいだそうなので、完全に見落としていました。
今回渡る橋はルパインの北部にある橋なので、崖の上ではありません。ちょっぴり残念だけど、モーセル侯爵領地まで行ってたら遠回り過ぎるからね。
次回川船に乗る時はちゃんと見ることにしよう。
ルートも決まり ギルドにも挨拶をしたら サマニア村を出発です。
皆も3回目だからね、楽しんで来いよと手を振って見送ってくれるようになりました。行ってきます!
◆◇◆◇◆◇
サマニア村を出発して4日、プレーサマ辺境伯領内とは言え 山から離れていくわけだから 裏の森程の魔獣はでない。
ただ、鬱蒼とした感じの森とかには それなりにゴブリン集団が居たりする。
「お父さん、これって倒したら耳を取るんだっけ?」
「そうじゃな、ギルドに提出するなら片耳そぎ落とした物を持っていけば 討伐ポイントと報酬が貰えるな。もしそのギルドで討伐依頼が出ておれば その依頼達成料が貰えるな」
「え? 依頼って受けてから行くものじゃないの?
やった後に受けるのもありなの? 全然違う場所で狩った耳を持ってこられても困らない?」
「まあそうじゃな、じゃが普通の冒険者は時間停止の鞄は持っておらんしな、持ち運ぶ間に腐る可能性があるし、荷物にいつまでもゴブリンの耳は入れておきたくないじゃろうな。
薬草もそうじゃが 常設依頼のように 持って居れば提出して依頼達成っちゅうのは珍しくないぞ。
魔獣にしても 大量発生なんかで討伐を依頼しておるわけじゃなく 素材が依頼であれば その素材を持っているから依頼を受けて提出、達成っちゅうこともできる」
そうなんだね、確かにゴブリンの耳を素材袋に入れて鞄に入れておくのは 場所の圧迫もだし、衛生的にも良くなさそうだね。
そんな話をしながらも ゴブリンをザックザックと倒しております。
上位種はいないようで 15匹程のゴブリンの群れなので 私が一人で短剣を使って殺ってます。武器を持っていたらナイトだし、杖とマントがあればメイジだけど、ノーマルとハイは違いが分からん。
討伐依頼の報告をするには 近隣のギルドに行かないといけなくて、という事は町に入る手続きとお金が必要。
既に銀ランク昇格に必要なポイントは達成しており、後は初級ダンジョンを単独踏破するだけ。
となっている今、ゴブリン如きのポイントは不要だ。
なので耳はそのまま、魔石の為に心臓部分だけ切り裂いて取り出しております。
石の大きさが微妙に大きいのがハイゴブらしいけど、うん、誤差ですね。
15匹の解体が終わったところで【アースホール】で作った落とし穴に 遺骸を投入。青色ファイアで焼却したら 穴を戻して 【クリーン】
解体の時に汚れてしまったところも綺麗にしたら大丈夫。
血液とか遺骸をそのままにしておくと 別の魔獣が寄ってくるし、瘴気が湧きだすらしいので 必ず綺麗にしておく必要がある。
食べられる魔獣も、食べられない魔獣も、襲ってきたら倒すけど、食料は豊富にあるので 積極的に狩りにはいかない。
行かないからさぁ、美味しそうだからって寄ってこないでよ。
「ヴィオは余程美味しそうに見えるんかのう」
「うれしく、ないっ!」
林の中で猿と追いかけっこ中。
フォレストモンキーは 弱いものを見れば積極的に襲い、強者と認めた相手には絶対服従というか速攻逃げる嫌な奴だ。
商人の馬車を襲えば美味しいものが食べられると積極的に襲いに行くことでも有名。
食材がないと分かれば 興味を失うので、この猿がいる領域を通る食材系を運ぶ商人は、ランク高めの冒険者を雇うことが推奨されている。
それでお父さんのことは遠巻きにしているくせに 私の事は超絶馬鹿にしてくるんだよ。
昼食休憩をしている時に 何か頭に当たってると思えば 少し離れた木の上から フォレストモンキーが木の実を投げて挑発して来てたんだよね。
最初は無視してたんだけど、あんまりにもしつこくて 馬鹿にしたようにキャッキャと笑ってくる奴らにブチ切れした今。お互い木の上を走っております。
「キキッ」「ギャッギャ」「キーキッキキ」
「うっさい!猿語で喋っても分かんねーつーの!」
猿らしく ある程度集団で生きている奴らだから 悪戯もだんだん数が増えており 今私が追いかけている主犯者3匹と 他とりまき10匹程。
取り巻きっぽかった10匹は 私が追いかけ始めた時点で諦めたのか 木の上ではなく、木の下に避難し 集団で固まっております。
主犯3匹だけがこちらをチラチラ振り返りながら めっちゃダッシュで逃げるけど もう許しませんよ。
不安定な木の上を走ってるから 魔法は環境破壊をしそうで使いにくい。
なので鞭に魔力を流しながら追いかけます。
ビュン!ビュン!ビュン!
鞭は一応木魔法の魔力を流して蔦を出してます。砂だと木ごと切り落としそうで怖いのでね。
遅れ始めた一匹に狙いを定めて鞭を振るえば スルンと身体に蔦が巻き付き 両腕も拘束されたことで走ることが出来なくなった。
「キーキキッキキ」
クイッと引き寄せれば 弧を描くように私の方に1匹が飛んでくる。
それを見て残り二匹も足を止めてこちらを振り返り 逃げるのではなく戦う事にしたようだ。
犬歯を剝き出しにしながら 顔を真っ赤にして怒りを露わにするモンキー。
けど最初に喧嘩を売ってきたのは君たちですからね。
とりあえず戦意喪失しているグルグル巻きの猿は そのまま足元の太い枝にぶら下げて、残り二匹と向かい合う。
「ギャーギャッ!」「ギャーギャッギャッギャ」
二匹が同時に動き出す。
離れた木の枝から こちらに向かって飛び出してきたんだけど これは好都合です。
鞭の魔力を砂に変更し、空中で腕を振りかぶってきた二匹に鞭を横薙ぎに振るう。
ザシュっ!!!
ドサっ ドサっ
無防備な空中戦を仕掛けてくるとか残念過ぎる。けど お陰で周囲の木を傷付けることなく 討伐することが出来ました。
毛皮を思えばエアショットが良かったんだけど、こちらの方が手っ取り早かった。
「キュー キュー キュー」
猿の肉は食用ではないので 魔石と毛皮だけ採るために木を下りて解体作業をはじめれば、木の上から切なげに鳴く声が。
「あ、忘れてた」
3匹組の最初の脱落者を枝に括り付けていたのでした。
だけどすでに戦意喪失している相手をいたぶる気もない。とりあえず解体を終わらせて 周囲を綺麗にしてから お猿を解放してあげた。
「キュー キャッキャキー」
「いや、だから猿語はわからんて」
土下座をしているみたいに 座り込んで頭を何度も下げている猿。
お父さんもゆっくり追いついてきたところで遠巻きにしていた猿も集まってきて 土下座猿の周りで同じようにキャッキャ言い始める。
「ヴィオの事を強者じゃと認めたっちゅうことじゃな。あの二匹は倒したんか?」
「うん、解体も終わったよ」
「……そうか。絶対強者じゃと分かって 服従をしておるんじゃな。
よかったな、ヴィオはこの周辺を旅しても こいつらがおる間は フォレストモンキーに襲われることは無くなったと思うぞ」
そうなの?
縋るような眼で見つめてくるけど、これはどうしたらいいんだろうか。
お父さんに助けを求めたら 持ってる木の身か果物をあげたら許したことが分かるだろうとの事。
果物はまだあるけど ドライフルーツにしているのが多いからな。
11匹の猿たちに必要かと思ったけど、リーダーだけで良いというので 先頭の土下座猿にフィグの実のドライフルーツをあげた。
両手で恭しく受け取り 私に一礼した後、振り返って取り巻きに向かって 掲げたフィグの実を見せつけた。
「「「「キ~~~~ キ~~~~」」」」
小躍りするようにその場で飛び跳ねる猿たち、これ、何を見せられてるの?
土下座猿は もう一度私に頭を下げてから 取り巻き達と一緒に走り去っていった。
「これであの群れのボスは ヴィオっちゅうことじゃな」
は?
いつの間に私が猿のボスに!?
お父さん、笑ってないで、知ってたなら止めてよ~~~~。
仲間が目の前で解体されるのを見せられた猿。
非常に怖かったことでしょう。圧倒的勝者としてヴィオさんボスに君臨しました!




