第277話 辺境伯邸でのお料理
いつの間にか調理服に着替えて登場した料理人ズもキッチンに登場し、このお屋敷の料理人さん達も集まった。
私とお父さんでから揚げを作ることを告げたので、三人は別の料理を作ってくれることになったよ。
辺境伯邸の料理人2名が私たちの元に来て 私が調理をすることに少々驚いていたけど ツッコむことなく真剣に手順を見ている。
途中で これは何ですか?どれくらい漬けておくものですか?などと質問が来るのに答えながら下拵えをしていく。
お父さんはナムルを作るのに茹で野菜を沢山用意しております。
私は肉を 醤油を使用した漬けダレに付け込んでいる間に アレンジ用の材料を準備。足りない材料はリュックから補充しますよ。
油淋鶏風にするため白ナガネギをフォークで裂いていく。そうそう、ナガネギって名前を聞いてそのまんまやんって思ったんだけど、このナガネギってば 全部が白いネギなの、青いところがないの。だから料理に使いやすい。緑ナガネギは青いところしかないの、だから白ナガネギはアルビノ的な扱いをされていたんだって。
「フォーク!細切りするのではなく、そんな使い方があるのですね、冒険者ならではの道具を減らす技術でしょうかね、成程」
凄く感動した!みたいになってるけど 主婦の技であり冒険者の技ではありません。
細く裂いたネギは本体にくっついたままなので その状態で千切りにすれば 簡単にみじん切り状態になる。
そしてまた フォークで裂くという事を繰り返せば もりっと山盛りのみじん切りネギの出来上がり。
甘酢あんかけ用に野菜をゴロゴロとした大きさでカット、これは見学のお二人も手伝ってくれました。
ワイラッドはお父さんにお願いして ゴリゴリ卸してもらいます。
チキン南蛮風のも好きだけど、タルタルソースを作るにはマヨネーズという高い壁がある。
マヨを作るのは簡単だ。だけど 絶対に流行ることは分かっている。マヨラーが居たくらいなんだもの。
だけどここは清潔をあの国ほど保つことができない世界。
貴族はいいよ、病院もかかり放題だし 教会でも診てもらえるでしょ?
問題は清潔を保てなくて 確実に腹を壊すであろう平民たちです。彼らはきっと病院に通うこともできずに死ぬ可能性が高い。
ジェノサイダーにはなりたくないので諦めます。
知らなければ 食べたいとも思わないでしょ?
という事で こってりが無理ならサッパリしたのも食べようとマリネ風のアレンジをすることにしたよ。
マルネギ、|大きなグリーンペッパー《ピーマン》、オレンジペッパーを薄切りに、ジンセンを千切りにして お酢とハチミツ、お水とお塩を入れたマリネ液に付け込む。
そうこうしている間に下味をつけた鶏肉を取り上げて 小麦粉をつけるのが半分、片栗粉をつけるのを半分にして準備。
私が衣をつけたら お父さんがどんどん油に投入してくれるので流れ作業のようだ。
見学者お二人はお父さんに油の音が変わった時があげ頃じゃ。とか言われて 真剣に耳を澄ませている。
透明な壁の向こうでは こちらの様子を見ながら サブマスとギルマス、前領主様が仲良さげに喋っているのが見えている。声は聞こえないけど楽しそうだ。
ギルマスをサマニア村のギルドマスターに推薦したのもこのおじ様だって言ってたよね。
自分のところの騎士に欲しかったけど ご両親というか父親との確執云々って聞いた覚えがあるよ。
心配してたのかな?
ああ、だからさっきの質問だったのかもね。
うん、私の知ってるギルマスはサブマスに呆れた小言を告げながらも 非常に楽しそうにお仕事をしているところしか知らないから大丈夫だと思うよ。
どんどん出来上がるから揚げ、途中から上げる作業は見学してた二人に任せ、私たちは仕上げに取り掛かる。
マリネに付け込む分、甘酢あんかけで炒める分、油淋鶏風に仕上げる分、辛味噌塗は私が味見できないのでお父さんが作ってくれる。
どんどん出来上がっていくから揚げ料理にお腹が空いてくる。
出来上がったものからお皿にドンと盛りしていくので それをメイドさんがどんどん運んでくれる。素晴らしいチームワークです。
後ろの料理人ズも品数が多いけど 仕上がってきたものも多そうだね。
さあ、試食会ですよ。
全てのから揚げが仕上がって 残しておいた揚げたてホヤホヤを二人にあげたら 喜んで食べて 泣いた。
熱すぎたのか、美味すぎたのかは分からないけど、試食で アレンジされたものと比べて欲しい。
「お腹空いたね」
「そうじゃな、あれだけええ臭いがする中でおったら……、まあそうじゃろうな」
お父さんとお喋りしながらキッチンから出たら
「なんか増えてる……」
さっきまでは ギルマスたち3人しかいなかった筈(メイドさん達は別としてですよ)
なのに どう見ても貴族な装いの人たちが5人も増えているのだ。
「はっはっは、子供と孫にばれてしまったようだ」
全く悪びれているようには思えませんが、何だか憎めないおじ様である。
「父上、ドゥーア先生からのお話は私たちも非常に楽しみにしていた事はご存じでしたでしょうに、まさかこんなにお早い到着だとは思いませんでしたが、別館でお招きして、しかもこんな改築までして 確信犯ではありませんか」
「はっはっはっは」
おおっと、まさかの父上発言、まあそうですよね。
という事は現プレーサマ辺境伯領主様って事ですね。まさか改築も内緒だったとは 中々お茶目なおじ様ですよ。
「本当、お父様ったら わたくしもそろそろご到着なさる時期だと思って 早めに帰って来ておいて良かったですわ。
こんなにも美味しそうな匂いがするなんて、これを味わえなかったと知ったら しばらくショックだった筈ですわ」
「はっはっはっは」
まさかとは思いますが、全部 あっはっはで誤魔化すつもりでしょうか?
そしてこの方もお父様発言をするという事は 領主の妹さんな訳ですね? 帰ってくるという事は普段は別の町にお住まいなのでしょうか。
だとしたら非常に鼻が利く方なのですね。ドンピシャでしたよ。
「お祖父様、あちらの小さな少女は先ほど厨房に入っておりましたわ。彼女もこのお料理を作っていらしたのですか?」
「リア姉さま、あの子は僕と同じくらいに見えますよ。それなのにそんな事が出来るのですか?」
「ヘルムート、貴方も5歳だけど 剣を振るうことが出来るようになっているでしょう?
それと同じように幼い頃から鍛錬を積めば あの年齢でも可能なのでしょう。
大人顔負けという水準に達するというのは 並大抵の努力ではないと思いますがね」
小さなお子様は辺境伯のご家族なのですね?
という事はリア姉さまと呼ばれたこちらのお嬢様が ケーテさんが将来護衛に就くであろうお姫様ですね。うんうん、非常に可愛らしくって良きですね。
そして多分領主夫人は 人族なのかな?お耳が普通ですね。
だけど 子供達は獣人遺伝子があるから お耳が猫ちゃんです。まだ尻尾をクルンできないようで ボーイはパタパタしておりますが リア姫様はドレスの中でお隠しになっているようですよ。
そして夫人、わたくし料理人ではございません、冒険者でございます。
まあ説明する機会があるか知らんけど。




