第276話 再びの辺境伯領都へ
馬車は進むよどこまでもってね。
早いのよ、戦闘馬ちゃん達 体力もあるし、ルパインを出てから 主要街道じゃない裏道を使ってるもんだから サブマスの追い風ドーピングもしてるしね。
ただ、良かったのは 追い風ドーピング中は馬車が浮いている分 揺れないの。
だからビビッて固まってるだけで 料理人ズも馬車酔いはしていない。
恐ろしいことにルパインを出てたった二日でプレーサマ辺境伯領都に到着しちゃいまいた。
首都を出て五日ですよ。
料理人ズも 目の前の門を見上げてそんな顔になるよねって感じです。
今回は前回の門とは違います。
前回は一般人が入る門を使いましたが、今回はドゥーア先生の紹介で 辺境伯閣下に直接料理人を送り届けるという目的ですからね。
北門という貴族の為の門に来てますよ。
御者は非常に大人しくなさっていますが サマニア村のギルド職員の方です。普段は厩舎でお務めという事であまりお会いする機会はないんだけど、前回のメリテントからの送り迎えも このコルトさんが御者さんでした。ベテランの風格、格好良いです。
南門では兵士さんが身分確認をしてくれたけど、こっちは貴族の門だけあって 格好良い鎧を着た騎士さんが確認をするようです。
「サマニア村のギルド馬車ですね。
えーっと、ドゥーア侯爵からの紹介……、領主邸ですね。ではお通り下さい」
コルトさんが紹介状を渡したのだろう、手紙を読んで納得したらしい声が聞こえたら そのまま馬車が動き出した。
「前も思ったけど、貴族の馬車に甘くないですか?
中も確認しないし、貴族だったら悪いことし放題になりそう」
「んぐっ」
「「「!!??」」」
「まあな、俺もそう思う。まあこの馬車が俺たちの村だからってのもあるのかもしれねえけど、そうやって区別すんのも良くないよな。
全員一律で確認してますって方が やましいやつにも有無を言わさねえで出来そうなもんだけどな」
ドゥーア先生の時もそうだったんだよね。
まあ帰りに運転手がお父さんだった時は 車内の確認はあったけど、甘すぎるなって思った。
料理人ズは 完全に固まって 聞いてないふりを決め込んでるけど、誰かに言いふらされるとも思ってないし、言ってくれても良いと思ってるんだけどね。
しばらく走った馬車が停まると コルトさんとのやり取りが聞こえてくる。
門が開く音が聞こえて また馬車が動き出すけど そんなに時間はかからずに再び停車、多分お屋敷に到着したんだろう。
料理人ズは緊張しているみたいだけど、ドゥーア先生も貴族だったよね?
ギルマスが最初に下りて 玄関にいた人たちと何やら会話をしている様子。
扉は開いてるけど覗き見するわけにもいかないし 大人しくしてますよ。
「俺たちはまだ村まで時間がかかるし、村の人間もついでだから同乗させてきてるんですよ。だから……」
「いや、冒険者ですし、1人は子供なんですよ……」
どうやら ドゥーア先生が到達日時を伝えてくれていたらしく 領主様が在宅なんだって。
私たちはここで料理人さんとお別れだね、そう思ったのに どうやらそうはいかなかったようだ。
「わりぃ、アルク、ヴィオ、お前らも一緒に来てくれるか? 一応レシピの発案者の親子だって伝えてるから、その礼を言いたいみたいだわ」
玄関でお話していたのは 家令の人とかではなく、辺境伯ご本人でした。
お父さんの抱っこで馬車を下りれば ニコニコと朗らかな笑顔で近づいてくるおじ様。思ってたよりご年配だなって思ってたら 前プレーサマ辺境伯様だそうです。
「はじめまして、サマニア村の銅ランク冒険者のヴィオです。
冒険者ギルドの学び舎を無料にしてくれて ありがとうございます。
子供達も凄く楽しく勉強できる場所を通いやすくしてくれたお礼が直接言えて嬉しいです」
まさか会えるなんて思ってなかった人だから、ずっと会えたら言おうと思っていた事を言ってみた。
そしたらひょいと抱え上げられてしまった。
流石にお父さんもびっくりしているけど 元領主様相手だからどうしようってなってる。
「ははっ、そうか、そうやって直接民から礼を言われるのは初めてだが 嬉しいものだな。
なあザックス、お前はギルドマスターになって楽しいか?」
「ええ、昔より自由で楽しんでますよ。
今はこのヴィオをはじめ チビ共が 毎日ギルドで楽しく勉強してるのを 時々覗き見して成長を見るのも楽しいんです」
どうしよう、縦抱っこされたままなんですけど、そしてムキマッチョさんだから安定感が半端ないし、お貴族様だからか 凄く良い匂いがする。
前辺境伯様は猫さんのようで、ピンと尖った耳が時々ピルピルしている。
尻尾はこないだ見た冒険者と同じように腰にベルトみたいに巻いている。
えっと、この抱っこ状態って不敬とか言われませんか?
抱っこされたまま ギルマスと二人でお喋りしながらも 歩いております。
これはどこに向かっているのでしょうか。
そして料理人ズは 馬車を下りた時点で 使用人さんたちに連れられて既に別行動。
到着したのは 食堂???
大きなお部屋に長いテーブルが置いてあるのは 食堂っぽいんだけど 違うのは ガラスに見える透明の壁越しにキッチンがあるという事だろうか。
「調理場と食堂が一緒になってる?」
「ははっ、その通りだ。こっちの屋敷は儂の屋敷でな、色々普通の貴族の屋敷とは違うように改造しておるんだ。
ダンブーリ先生が興奮状態で手紙を書いてきてな、豊作ダンジョンでハズレを集めて欲しいだなどと 何を言い出したかと思ったが、あの人が意味なく言うことはないからな。
であれば そのうち料理人を連れてくるだろうと思って 改装して待っていたんだ」
いやいやいや、規模が違いますやん。
貴族クオリティーだわ。
何か面白いことがありそうだ! よし、屋敷改造しちゃおうぜ!じゃないんですよ。
キッチンを広げるだけのつもりだったらしいんだけど、そこから貴族が食べる場所まで移動する、毒見する、提供するってのが面倒だってんで、作ったところを見てたら毒は入れらんないでしょ?って事になったみたい。
私このおじ様の考え方 嫌いじゃないです。
「流石に本館は 分かれているがな、こっちの別館は私の好きにしているのだ。
だから 其方ら親子が料理をしても問題ない。 ダンブーリ先生が美味かったと絶賛していた イチオシしというやつを 作ってくれるか?」
「ふふっ、まかせて!」
そんな事 とってもいい笑顔でお願いされちゃったら腕によりをかけて作っちゃうよ。
どう見ても肉大好きっぽいもんね。から揚げを大量に作って から揚げアレンジレシピを堪能してもらいましょう。
「はぁ~、まあやることは一緒じゃしな」
お父さんはちょっと疲れた感じだけど、気合を入れ直して 腕まくり。揚げ物はお父さんがやった方が良いからね、お任せしますよ。
まさかの辺境伯閣下とのご対面です。
ちなみに黒豹の獣人さんです




