第275話 首都から出発
ドゥーア先生のお屋敷でお別れ会をした翌日、ギルマス、サブマス、お父さん、私、そして料理人3名を乗せたギルドの馬車は 1か月お世話になった 首都の侯爵邸を後にした。
お別れの時は メイドさんたちに号泣され、騎士さん達はお父さんに一人ずつ握手を求め、中々カオスな感じだったけど、しんみりしてって雰囲気ではなくなったから良しとしよう。
「ふふっ、ヴィオさんは楽しい1か月を過ごせたようですね」
「はい!学園にも 見学に行ったんですよ。食堂はお休みだから入れなかったけど、図書館で本も読んだし、別館は入れなかったけど お外からの見学はしてきました。
それにね、学園に行くからって制服まで用意してくれてて、本当の学生になったみたいで楽しかったです」
「え?ヴィオ 学園に通うのか?」
「ううん、先生からも通う必要はないねって言われたから通わないよ。
でも学園の見学に行くなら 学生に見られた方が安全だねって事で用意してくれたんだって。
お父さんたちは学園見学の保護者役だったの」
お陰で見学中にすれ違った人たちも お互いにお辞儀をしあうだけで 会話をすることもなかった。
学生の数が多すぎて 同級生ですら把握できないとブン先生たちも言ってたし、私は完全に学生だと思われていただろう。
そんな話をしながら馬車は走る。
王都の街道は基本的に馬車通り、人通りが多い。ドゥーア先生は風魔法を使ってドーピングしてたけど、あれはどう見ても貴族の馬車であり 家紋もあるから何かあれば問い合わせもできる。
だけどこの馬車はギルドの馬車だ、あまり無茶なことはすべきではない。
しかもサマニア村のギルド馬車は戦闘馬のホースヴァルルくんが先導してくれている。
ただでさえ すれ違う人たちがビビっているので 大人しくしておくべきだろう。こんなに可愛いお馬さんを怖がるなんて ナンセンスだよね。
「ヴィオお嬢様は 本当に怖くないんですね……」
料理人のマキシムさんが呟く。
馬車の屋根に荷物を載せる時 ビビリ散らかしてたもんね。
「うん、目を見てお話すればちゃんと理解してくれるし とっても賢いから可愛いと思う」
「まあ非戦闘員の獣人にとってはきついだろ。戦闘馬は 常に威圧を周囲に振り撒いているからな。俺たちみたいに 戦い慣れている奴らや 気配に鈍感な人族、ドワーフ族は平気なことが多いが、お前さん山羊だろ? 馬は基本的に草食だけど こいつらは肉食だからな。本能的に恐怖を覚えても仕方ねえ。
まあけどこいつらはよく躾けられてるからな、余程馬鹿な事しない限り大丈夫だ」
同乗している料理人は3名、山羊獣人のマキシムさん、サル獣人のルーカさん、ヒト族のベルンさんだ。
どうやら本能的にビビってたのはマキシムさんだけで、ルーカさんもヒトに近い感覚で 怖そうだとは思うけど それくらいなんだって。獣人特性って面白いよね。
首都から 川船の町リスケットまでは1泊2日で到着した。
野営は セフティーゾーンではなく 街道途中の広い場所で。
ホースヴァルルにビビって 他の馬たちが興奮しちゃうからね、この子が居れば この辺の魔獣は寄ってくることもないだろうという事だったけど、お父さんとギルマス、サブマスの3交代で見張り番をしてくれてました。
なんと豪華な三枚盾なのでしょう。誰も破れる筈がないってやつですよ。
食事は全部料理人さんが準備してくれました。私とお父さんは テーブルと食材を出したくらいです。
まあ、最初石のテーブルを作った時には ギルマスから盛大な溜息を頂きましたけどね。
大丈夫、テーアさん達もこれを常識にしている筈だから。
川船では また〔水龍門〕のツンデレボーイに会えるかと思ってたんだけど、行とは違う 貴族船に乗りました。ドゥーア先生が予約をしてくれていたようで、昼前に舟屋に到着したんだけど、1時間後には出航できるという貴族仕様でした。
「なんか、すごい早い?これ、川を遡ってるのに こないだより早くない?」
船の大きさはこないだの半分にも満たないけど、馬車留めもありデッキもあり、休憩できるデラックススイートみたいなソファがドーンとあるお部屋もありました。
料理人3人衆は 落ち着かない様子で ソファの隅っこにチョコンと座ってたよ。
私は即デッキに上がって船首で風を感じております。
一応落ちないように お父さんが後ろに立ってくれてるけど、これってアレみたいじゃない?
両手広げた方がいい? アイムフライング!とか言った方がいい?
「風魔法を使う魔法使いが乗ってますからね、通常の川船の倍ほどの速さで到着しますよ」
船長に挨拶をしてくると言ってたサブマスがデッキに上がってきた。
そっか、風魔法で追い風をしてるんだね。水魔法のジェット噴射とかしたらもっと早いかな。
「ヴィオ、多分通常よりも早いと思うぞ。ルパインには 夕方には到着するんじゃないか?
それ以上は船が持たんじゃろう」
お父さん、私の心を読みましたか?
そうか、早けりゃいいってもんじゃないもんね。
風魔法の人が疲れたら交代要員になるとだけ伝えておこう。
まあ結局交代することもないまま 日が落ちる前にルパインの町に到着した。
室内で過ごしていた料理人ズは どうやら船酔いしたらしく 非常に顔色が悪い。
とりあえず宿屋に運んで 今日はお休みなさいですよ。




