第272話 魔法使いVS魔法使い
地下訓練場は中々凄いことになってました。
この1か月、小さな傷から大きな傷まで、打身や腰痛も回復してもらえる環境で 段々訓練内容がハードになっていたのは気付いてた。
だからなのか、元々なのか、マゾ的な属性に目覚めた人が多かったのか サブマスの魔法攻撃を受けてみたいと立候補する人が多くて驚いた。
これには言い出した本人であるギルマスもちょっと引いてたレベルです。
「アスラン殿の魔法技術が優れているというのは一部には有名なのですよ。彼と同年代のものは畏れと憧れを持っていましたし、直接アスラン殿と関わらなかった世代の者達も、今でも旦那様との交流があることを知って会えるかと期待しているものは多かったのです。
まさか 彼の魔法を目の前で見れるというのだけでも嬉しいでしょうし、それを自身が体験できるというのは 出来ることではないですからね」
あまりにも立候補者が多かったことに驚いて ロイド隊長に聞いたらそんな答えが返ってきた。
確かに サブマスの魔法を使う時って 超絶格好良いもんね、憧れるのはよく分かるよ。
怖がられてるって言ってたけど、こんなにキラキラした目で憧れの視線を寄せられているサブマスを見て ちょっと嬉しくなる。
ギルマスもおんなじことを思ってるのか、少し嬉しそう。
まあだからと言って手加減するような人じゃないからね、殺傷能力は落としているけどバンバン魔法を打ちこんでいくのは 中々容赦がなくって素敵でしたよ。
私? 私は立候補者が多すぎたので見学に徹してます。
外からの方が理解しやすいこともあるだろうからって事です。やり合おうと思えばサマニア村に戻ってからできるし、騎士さん達は今回しかチャンスはないからね。
サブマス1人 対 騎士5人の魔法対決。
20名以上が立候補したけど 混戦過ぎると分からないので5人ずつに絞られました。
じゃんけんで勝利した人たちから順番です。
サブマスがスタート地点に決めた円の中に入ったら 対戦開始の予定。
騎士達は其々バラバラになっても良いと言われていたけど 3人と2人に分かれて 左右に固まってます。
それって大丈夫なのかな?
私とお父さんと 地下に移動するときに来てくれたブン先生の3人で階段状の観客席から眺めてる。
ロイド隊長をはじめとした騎士隊の人たちは奥の方に集まっているので お互いの声は聞こえないようにしている。
「では行ってきますね」
緊張も一切ない 普段通りの笑顔でひらりと手を振って 階段を下りていくサブマス。
ちょっと楽しげにすら見えるけど 実際に戦うところを見るのは初めてだから とっても楽しみだ。
「お父さん、あっちの人たち固まってるけどさ、あれだと落とし穴からの串刺しでも、水の壁で包んで串刺しでも直ぐじゃない?
こっちが魔法使いって分かってるんだからバラけた方がいいと思うんだけど 作戦かな」
「そうじゃな、魔法使いは魔力切れが一番危険じゃろう?
あとは基本的に近接攻撃が苦手なもんが多い。じゃから大体誰かと一緒に行動する。
今回は奇数じゃから あの感じになったんじゃろうな」
ああ、回復薬を渡す役が必要って事?
ふむ、魔力切れになった魔法使いは只の人って事だね。
「だったら魔法使いにバンバン魔法を使わせて魔力切れにさせるのも作戦のひとつかもね」
「おい、俺はお前が恐ろしいと思うぞ?
落とし穴からの串刺しとか 俺でも避けれる気がしねえよ」
ジトンとした目で見てくるギルマス。またまたぁ、落とし穴なんて ピョンとひとっ飛びで出てきそうな人が何を言ってんですか。
あ、始まるね。
3人で喋ってたら サブマスがスタート地点に到着した。
「〈炎の弓よ飛べ〉【ファイアアロー】」
「〈我が手に玉を〉【ファイアボール】」
「〈土よ我が身を守れ〉【アースウォール】」
「〈水の刃で切り裂け〉【ウォーターカッター】」
「〈水よ 我が身を守れ〉【ウォーターウォール】」
到着時点で 5人が其々呪文を唱えて 発射した。
流石に魔法学園教師の家で働く騎士隊の人たちである。腕を前に伸ばして溜めながらの長々しい呪文を唱える人はいない。
ツッコみたい気持ちはあるけど、それは飲み込んで見つめる。
1人ずつが味方を守る為の盾というか壁を作り、残りのメンバーで一斉放射。
中々エグイ攻撃だとは思うけど 集団戦だったらそうあるべきなのかもね。
あっちの騎士隊の応援者たちは 立ち上がって「ヨシ!」とか言ってるけど 上手く攻撃できたことのヨシかな?
サブマスは到着した時と同じまま、火の玉、火の矢、水の刃が其々飛んでくるのを見つめているけど まだ動かない。
「【ウインドウォール】、【ウォーター】、【アイビー】」
たった3つの呪文を唱えただけで勝負は終了。
あちらからの攻撃魔法は サブマスの目の前に現れた竜巻のような風の壁に吸い込まれて消えてなくなり、同時に唱えた水の玉は 相手5人の口元を覆い 魔法を唱えられないようにした。
その上で蔦魔法が足元から腰までまとわりつき 逃げることもできなくなった。
「鼻の穴を塞いでないから呼吸は出来るね。こないだの猫のお姉さんもそうしてあげたら良かったかな。
うっかり顔を包んじゃったから可哀想だったね」
「……おい」
「まあ、ダンジョンで絡んできた相手が悪いっちゅうことじゃな、うん、正当防衛じゃった」
お相手が両手をあげて降参したことで 水の玉も解除されました。
ダンジョンでお仕置きをした あの人の事を思い出したけど、まあ正当防衛だったよね。
「どうでしたか?」
「おかえりなさい、魔法使いの言葉を封じるっていうのは良いですね。でもあれって完全無詠唱の人相手だと効果がない?」
「ふふっ、その通りです。なのでヴィオさん相手には別の方法を考えないといけませんね。
ですが通常の人相手でしたらあれが一番効果的です。
無詠唱が使える人でも一瞬焦りますから その隙をつくことができますよ」
確かに、えっ!?ってなっちゃうよね。
完全無詠唱の相手でもとなると あれかな、風の壁を顔の周りに作って空気を抜いちゃえば いける?
アンテッド系の呼吸してない相手だと無駄だろうけど、そうじゃない相手ならいけそうじゃないかな。うん、練習してみよう。
「おい、またなんか凶悪なこと考えてねえか?」
「ん?そんなことないですよ。色々実験してみようって思ってるだけです」
段々ギルマスのジトン目が重くなっていくけど 気のせいですよ。大丈夫。悪い人と魔獣にしか使わないから。
次は違う方法で戦って来ますね。と爽やかに下りて行ったサブマス。
次の人たちはばらけることを選んだようで サブマスを中心に5方向に分かれて立っている。
「うん、これなら一度に狙いにくいからさっきより良いね。追撃バレット系ならいけるかな」
「そうじゃな、盗賊団とかじゃと こうやって四方から攻撃してくることはよくある。特に夜闇に乗じてやってくるからな。
バレット以外ならどうするつもりじゃ?」
「う~ん、そうだね、森の中だったら 木の近くに潜んでる相手はとりあえず蔦で拘束しておくでしょ?
仲間が居れば 背中合わせで戦えるけど、そうじゃなかったら 方向指定できるように水の壁で隔離するかな。一方向だけ開けておけば とりあえずそっちだけに集中すればいいでしょう?」
一人で複数匹の相手と戦うのはダンジョンでもやっている。
だけど通路という壁があるし、ボス部屋は最初並んでるから隔離しやすい。
最初から相手がバラバラというのは対戦したことがないのだ。さて、サブマスはどんな風に戦うんだろう。
5方向から飛んでくる火矢、水矢、土玉、風玉、風の刃は サブマスを包み込むように現れた風の盾に遮られて消える。
さっきは前だけに出現していた盾だけど、今度は全方向を護れるようにしたんだね。
私は包み込む系しか使った事がないから 相手によっては盾のように使う練習もした方がいいのかな?
いや、まだ小さいし、安全第一ですね。
直ぐに次を唱えればいいのに 魔法が消えたことがショックだったのか 次の魔法が飛んで行かない。
サブマスは盾を消し両手を少しだけ上げた。
「【ウッドランス】、【ファイアボール】、【アースボール】、【アイスボール】、【ウォーターボール】」
最初だけは槍が相手の肩をかすめたけど、それ以外はボール系にして お腹の中心を狙ってぶち込んでます。槍はちょっと危険だもんね。
「サブマスさん、得意属性に火はなかったのに……、それに氷まで……」
「教え子が全属性なんだ、学び舎のチビ共を見てたら 得意属性じゃなくても練習次第で得意と変わんねえくらいになるのは実証済みだろ?だったら 教え子に負けてらんねえってな。
伝達魔法だって この1年で習得したんだぞ?
俺もこの年になって使える魔法が増えるとは思ってなかったぞ」
サブマスの攻撃を驚いて眺めていれば ギルマスがそんな事を言ってくる。
確かにお父さんも 魔力操作の練習を繰り返したおかげで 風魔法が非常に得意になってきたとは言っていた。
そういえば 昨年「ドゥーア先生のところで伝達魔法を習おうね」と言ってた事を思い出し、あんな当り前に使えるようになっていた事に驚く。
仕事も忙しいだろうに、すごいね、やっぱり格好良いね。
ちなみに2発目の魔法を打たなかったのではなく、1度魔法を使えば そんな簡単に何度も連続して使えないとの事。
連発すれば命中力も威力も落ちるから、集中することが大切なのだそうです。
魔法使いが博打過ぎる件。
「普通の魔法使いは 安全圏内で交代してやるんだよ。第一陣が魔法を発射すれば それまでに詠唱を終えてた第二陣、第三陣ってな。
で、また第一陣がって感じだ。
今回は全員が第一陣で、同時に発射したから溜めの時間中に攻撃されたって事だな」
「お父さん、冒険者の魔法使いはそこまでじゃないよね?」
「そうじゃな、それじゃと死ぬからなぁ。じゃから冒険者で魔法を使う奴らは大抵飛び道具か 杖を持っとるじゃろう?」
ああ、そういえば弓矢を持ってる人が多かったっけ。
ん?でも船の4人組は 攻撃者が弓矢で魔法使いは杖だったよね?
「あいつらは船の護衛が専門じゃと言うておったじゃろう?であれば固定砲台みたいなもんじゃろ。それに奴らは付与魔術が上手かったからな。
付与と回復が基本じゃな、後はあの杖で魔法を補助しとるんじゃろ」
成程ね。
自分たちの戦闘スタイルで色々考えてるって事か。
私は魔法と鞭、近接は短剣って事だね。これはこれからも続けておこう。
魔法を封じられても困るし、その時に戦えないのはもっと困るからね。




