第269話 お屋敷でのお勉強 その7
火の季節の一月目、最初の聖の日にお手紙が届いた。
送り元はサマニア村 冒険者ギルドからで、送り主はアスランサブマスだった。
「ヴィオ嬢、あの二人は今日サマニア村を出発したようだよ。アスランが風魔法を使うだろうし、1週間ほどで到着するだろうね。
ああ、という事は ヴィオ嬢との時間ももうすぐ終わってしまうという事だね」
そっか、ギルド会議があるって言ってたもんね。
会議が終わればギルマスたちと一緒に ギルドの馬車に乗ってサマニア村に帰る予定だ。
先生たちとの勉強時間も終わると思えばちょっと寂しいね。
魔導学園の長期休暇も今週まで、明日から先生はまた学園での授業が始まる。
あ、ダンジョンに行った先生たちは 2泊3日ダンジョンでお泊りしたらしく、その後も学園に戻ってから研究三昧だったようです。
学生さんもあのダンジョンには行くみたいだけど、自分たちの先生が1階で大興奮している様を見てしまった生徒はどれくらいいたのだろうか。
新学期、授業は普通に開始されるのかも心配だ。
「まだ 新しい資料に取り掛かり始めたところだから 今月いっぱいくらいは 興奮状態かもしれないね。
だけど、授業でも使えそうだから丁度いいんじゃないかな。
あとは 私の研究室からもそうだけど、いくつかの研究室から 遺跡ダンジョン巡りに助手たちの派遣が決まったんだ。
ヴィオ嬢が言ってたように石像だけの場所もあるかもしれないし、もしかしたらその石像に古代文字があれば誰なのかもわかりそうだろう?
私も行きたいが 流石に学長からも止められてしまってね。
回復魔法の件もあるし しばらく王都から離れられそうにないんだよ。非常に残念だ」
うん、とても残念そうですね。
でもそっか、先生たちの助手は各地に派遣されるんだね。さてさて、先生たちよりは興奮レベルが低くて 落ち着いた行動が出来るのか、それとも同類なのか。
私は先生だから護衛依頼が受けれたけど、普通なら無理だから その人たちと関わることはなさそうだね。
でもダンジョンは巡るから、どこかの遺跡ダンジョンで見かけるかもしれないね。
翌週から 先生は名残惜し気に学園へ通うようになり、日中の勉強会は ブン先生とエミリンさんの3人だけになった。
ミスリル鉱石から錬成陣を作るのは あの石を渡した翌日には工房に依頼してくれたらしく、2週間ほどかかるとのこと。
「今 売ってるものと交換するんだと思ってたけど、イチから作るんですか?」
「勿論です。鉱石などの持ち込みが無ければ 既製品を購入いたしますが、冒険者との伝手がある場合などは そこから鉱石を購入した方が安く済むこともありますし、なにより質が変わります。
既製品の錬成陣はミスリルと銀鉱石などが混ざっておりますし、ミスリルの配合が多ければ多いほど高額です。
今回ヴィオ嬢がお持ちになったミスリル鉱石は 魔素量も多くあの大きさです。ほぼミスリルだけでの錬成陣を作ってもらえるでしょう」
ミスリルの純度が高いほど 錬成の精度が高くなり、低ければ失敗しする可能性が高くなるそうだ。
失敗は ただ成功しなかっただけなら問題ない。だけど魔法陣や素材が駄目になることもあるらしく、それは準備にかかったお金もパーになるという事だ。
だから出来るだけ良いミスリルを手に入れることが第一にあり、その上で加工できる工房を探す必要がある。
良い材料を揃えたのに 加工する人が下手くそだったら最悪だもんね。
ちなみにドゥーア先生のお屋敷にある錬成陣は 純ミスリルを使ったもので、前プレーサマ辺境伯から頂いた物だったらしい。
ノハシムのボス踏破アイテムである可能性が俄然高くなったよね。
まあ、私が持ち込んだ鉱石は ミスリル延べ棒ほどではないにしろ 純度は高い。かなり良いものが出来ると言われているので 完成が楽しみである。
私が作りたいと思っていた 色変え魔術具のイヤーカフ型はまだできていない。
「イヤーカフ型で髪と瞳の色を変えていたのですよね?
通常の色変えは1か所に対して色を変化させるというものなのです。ですから1つの魔道具で2か所の色を変えるというのは非常に難しいことなのですよ」
「それはどんな魔法陣だったのか見てみたいですわ。」
「それは装飾品に二つの魔法陣を入れるのじゃ駄目なのですか?」
瞳の色を変える魔法陣と、髪の色を変える魔法陣、その2枚を錬成陣に乗せればいいのではないだろうか。そう思って聞いたんだけど、基本的に錬成陣に乗せることができる魔法陣は1枚だけなんだって。
「ですから属性武器は1種の属性しか使えないでしょう?」
「ん~、でも 水の刃を出したり、水の玉を出したり属性は同じでも色んな魔法が使えるんですよね?」
「それは予め魔法陣に使用したい魔法を込めているからできるのですよ」
そう言って見せてもらったのは六芒星の魔法陣
星の角にある丸の中には 〈玉〉〈刃〉〈槍〉〈矢〉〈壁〉〈盾〉の文字があり、星の中心部分には大きく 水を意味する〈ᱫᱜ〉という記号が記されていた。
ということは この魔法陣が込められた武器ではこの6つの魔法が行使できるという事なのだろうか。
本来は水魔法が使えない人でも これだけで この種類の魔法が使えるなら凄いことだと思う。
「ちなみにこの魔法陣は発動しません」
感心してたら ブン先生から衝撃の台詞。
何ですと!?
「こんな無茶苦茶な魔法陣でこの6つが発動できるなら 世の中は凄い魔法使いばっかりになりますよ。だって全ての属性武器をマジックバッグにさえ入れておけば どの属性でも使い放題という事でしょう?」
成程間違いないね。
ではこの魔法陣は何なのだろうか。
「これは学生たちに毎年行っている試験で 必ず一人は書く回答例です。属性こそ違えど 冒険者に憧れる生徒の中には 必ずと言っていいほど こういった魔法陣を作ります」
使いたいものを全部詰め込んじゃえ!ってやつですね。
ちなみに魔法陣の白い丸は必ず1つは空白にしておかなければいけないらしい。魔力を通す部分という事なんだって。
「あぁ、だからエミリンさんの羊も一つは空白だったんですね」
刺繍のし忘れだと思ってました。だから眠りの魔法は効いてないんじゃないかなとか思ってたけど違ったらしい。言わなくて良かったです。
ひとつの魔法陣には同じ属性しか入れることはできないというのもある。
だけど隠蔽だけはどの属性の魔法陣に入れても効果があるので どの属性にも属していない扱いになってるみたいで、どの魔法陣でも星の中央に隠蔽の印を入れると 完成した時に魔法陣が見えなくなるんだって。
エミリンさんの羊に隠蔽が入ってないのは 自分だけで使うヌイグルミだからだそうです。
覚えれば覚えるほどややこしいです。
だけどこの壁を突破しないと 作りたいものが作れないからね、頑張ります!
 




