第267話 お屋敷でのお勉強 その5
魔法陣の文字に関しては 翻訳が出来るようになった事で劇的に上達した。
というかズルみたいなもんです。
言葉の授業でもそうだったけど、意識せずに文字を書けば勝手にこの世界の文字になる。
日本語というか平仮名で書こうと思えば書けるけど、それはこちらの人には読めず 暗号のように見える。
そして 魔法陣の記号のように見える文字も 『風』を “古代文字の『風』と書きたい” と意識して書けば、手元の用紙には『ᱚᱭ』と書けるのだ。
勿論 文字の大きさを揃えようとか、真っすぐに書こうなんてことは意識してないと書けないんだけどね。
文字の問題が無くなった事で 図形の練習に集中することになった。
コンパスと定規を使ってひたすら 三角、丸、四角を組み合わせて書いていく。
「お嬢様、ずっと同じ作業だと飽きてしまいますでしょう?
ご自身が作るならどんな魔道具にするかを考える時間を作った方が やる気に繋がりますわよ。
装飾品でしたらどんなデザインにするのかも考えるのは楽しいのものですわよ」
ずっと集中して図形を描いているからか、お茶休憩の時にエミリンさんがそんな提案をしてくれた。
確かに作りたいと考えているものはマジックバッグと色変えの二つだ。
でもそのデザインなんて考えたこともなかったね。
想像力を膨らませるためにと エミリンさんが作った魔道具も見せてもらったんだけど、魔道具ってヌイグルミでも良いんですね。
「このお人形は 眠る時に枕元に置いておけば 良い眠りが訪れるというものですわ。
まあ わたくしは元々寝つきが良いですから これのお陰かどうかは不明なんですけどね」
ウフフと笑いながら 丸っこい羊のヌイグルミを撫でるエミリンさん。
見せてもらえば羊のお腹に魔法陣が刺繍されている。
刺繍されているという事は 制服や私の冒険者装備と同じだよね。それって魔道具になるの?
魔術が付与されたヌイグルミという事ではないのだろうか。
お腹に刺してある魔法陣は三角の基本スタイル。
大きな丸の中に三角が入っており、三角のそれぞれの角部分に小さな丸が重なり その丸の中二つに記号文字が入っている。
入ってるけど、壁画に描かれていた記号文字の法則を思えば、多分主神というか属性の神だけが2文字で 他の神々は4文字っぽいんだよね。
だけどヌイグルミの魔法陣は2文字の記載だ。
だけど今までのものもそれで動いている事を思えば 頭文字の2文字で良いって事なのかな。
「お嬢様? 魔法陣でご不明点がございまして?」
「あ、いえ、ヌイグルミの場合はこうして刺繍にした方がいいのかなって思って、エミリンさんの首飾りは石に魔法陣が刻まれているんですよね?
そんな小さな石にこの細かい魔法陣を彫るのって 相当器用じゃないとできそうにないなって思って」
記号文字については 4文字を書いた時と 2文字の時に違いがあるのか、それは自分で実験してみれば良いかなと思う。
ついでに聞きたかったことを聞いてみる。
私のギルドタグについているお花のチャームも魔道具だ。これにも守護の魔法陣が埋め込まれているけど 細かすぎて魔法陣は見えない。
ハ〇キルーペでも無理じゃない?って職人技である。
「細かい魔法陣……? 石に彫る……?
あ、あぁ!まぁ、お嬢様ったら 違いますわ。
ヌイグルミに関しては 刺繍の方が余計なお金がかかりませんからそう致しましただけですが、アクセサリーなどの魔道具は違いますわ。
錬金術が必要だというのは 以前少しだけお伝えいたしましたでしょう?
アクセサリーに加える魔法陣は 四角型以上の魔法陣を使うことが多いのです、より複雑になりますので大きな紙で準備を致しますわ。
そして、錬金術で 魔法陣と魔法を付与するための道具を結合させるのです。
ですから、正確な魔法陣を描く必要があることを考えれば 器用さは求められますが、そのような職人技は不要ですわ」
あ、そういえば錬金術って言ってたね。
うっかり忘れてたよ。
物によっては 魔法陣は見えないように刻むこともあると聞いて そりゃ見えなくても仕方がないと思った次第。
「だけど見えないようにするのは何故?」
「有名な魔法陣は わたくし達のように学生の練習でも使いますから良いのですが、自分たちで考え付いた物は真似をされてしまえば 食い扶持を奪われる事と同じですからね。
優れた魔道具を作れた場合、それ一種類で一生食べていけるとさえ言われていますから、希少な魔道具の魔法陣は秘匿されることが多いですわ。
ですからこそ、勇者様がおつくりになった魔道具は素晴らしいのです。
全ての魔法陣が公開されており、魔法陣の購入代金はかかりますが、それらは全て 冒険者ギルドなどの新人育成費用や 魔獣除けの魔道具管理などの費用に充てるように指示をされているそうです。
わたくし達研究者は その勇者様がお考えになった魔法陣と魔道具から 他の魔道具が作れないかと日々試行錯誤している、という事ですわね」
あ~、特許的な感じかな?
確かに凄い魔法陣を作っても それを真似されて販売されちゃったら、その相手が自分より立場が上の人なら文句も言えないもんね。
それにしても ここでも勇者が出て来たね。
本当に人格者というか何というか、というか当時から新人教育に言及してたんだね。学び舎がギルドに併設されたのは まだ最近の話だったと思うけど……。
ああ、そっか、ギルドの地下訓練場の空間魔法がかかってるあれも勇者が開発した魔道具が使われているって言ってたもんね。あそこで訓練を出来るようにしてくれたのかな。
勇者が異世界転移した人だったとしたら『俺の知識は 自分で考えたものじゃない、先達が考えたものをさも自分が考えたように評価されるのは苦しい!』とか思ってたのかもね。
良い人だねぇ。
私だったら 有難く頂けるモノは頂いちゃうけどね。
カルタだって 商標登録してるし、生涯あれが売れ続けるたびに1%のお金が入ってくることになってますよ。
多分 ダムを作った公爵様も異世界転移か転生者だろう。ダムも河川工事も自分の領地だけじゃなくて 他の領地 どころか 他国にもその知識を伝えてるっていうんだから良識人だ。
そんな人達には存在を知られるわけにはいかないね。
『折角持った知識だもの、世の為人の為に使うべきだ!』なんて言われたら発狂しちゃうもん。
私は 私と 私の周りの人たちが幸せに楽しく生きれたらいいと思います。その他大勢の人生まで背負えませし 背負いたくもありません。
救ったことで聖女扱いされるのかもだけどそんな面倒はノーセンキューです。(ああ、この世界の聖女は結界の為の奴隷でしたね)
私はこの大陸のダンジョンを制覇して、ドラゴンに会いに行って、ドラゴンに乗って他の大陸も見に行くのが夢だからね。
うん、翼人族さんがこっちの大陸に来ないなら、こっちから会いに行くんだ!
ヒロ退をお読みいただきありがとうございます。
遂に300話目となりました°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°
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今後もヴィオの成長をお楽しみくださいませ




