第265話 お屋敷でのお勉強 その3
ドゥーア先生が資料を持って学園に行った日、夜になっても帰ってこない事を心配していたのは私とお父さんだけでした。
「学園の教師は優秀な人しかおりませんが 優秀な人というのは時として変人なのですわ」
「ええ、共通講座しか受け持たない先生は普通の人が多いですが、専門科の先生たちは それを極めている人たちですから それなりに それなりの人たちが集まるのですわ」
「ええ、そして先生方は 新しい知識に飢えていますわ。
そんな中にあんな美味しそうなものを放り込めば……。
2~3日は帰ってこない可能性もありますが 学園ですし 魔獣に襲われる心配はございませんもの、大丈夫ですわ」
夕食後の いつもの回復練習中。
包丁で切ったとか、あかぎれとかの簡単な傷なら 使用人さん同士でも回復できるようになってきているので 上手くいかなかったときのフォロー役をしているだけで、私はそれ以外の回復をやっている。
とはいえ 回復が必要なほど あちこちが痛いという人もおらず、回復の練習をさせるためなのか 午後の騎士訓練が厳しくなったらしい。
「ヴィオ嬢の回復は 根本の回復ですから効果の持続が全く違うのですよ。
肩の痛みには筋肉の緊張をほぐして血流を良くする、そんな回復は今までなかったですからね。
まあ 同じように同一体位で長時間作業をし続ける、なんてことをしていれば 同じように痛みが出てくるでしょうが、気を付ければいいだけですからね」
ああ、そういう理由か。
元々 腰痛などは 痛みを多少軽減させるけど 然程持続性はなく、薬局などで湿布材をもらって使用することが殆どだったと言っていた。
私が使っていた回復魔法は 他言厳禁という誓約を結んだうえで、ドゥーア先生のお屋敷にいる人たちは皆が練習している。
得意属性に聖魔法が無い人でも 自分の魔力を意識しながら行うようにして練習をしている。
もちろん発動しない事の方が多いし、何となくフワっと光っただけで効果がないなんてこともあるけど、自分でも回復魔法が使えるかもしれない!というのは テンションが上がる出来事だったらしく、皆魔力操作の訓練をやるようになったそうです。
水、土、風、その3つどれも得意属性にないという人はいなかったので、得意な属性を使って魔力操作の訓練も毎日しているらしい。
水と土は人形を作るやつで、風は葉っぱを動かすやつだ。
色んな人に見本をやって見せることで、私もこの3つの操作が一番早くて上手くなった気がする。
魔力鞭は砂だから土属性だし、壁とか盾を作る時は水か風だしね。あと森では【エアカッター】と【エアショット】が使いやすいので 風魔法が断トツかもしれない。
外傷以外の回復魔法を使うには 解剖図を知ることが一番だけど、人体模型なるものはないらしい。
誰かを解体するわけにもいかないので、魔獣の解体をしてもらうのが一番だと思ったんだけど……。
「解体できるような魔獣が居る場所、ですか?
それはダンジョンだと思いますが ここ首都リズモーニの近くにある林や小さな森には 大きな魔獣はいません。いたとしたら直ぐに討伐隊が向かっているでしょう。
魔獣が居るとしたらダンジョンですね」
ウルフでも良いから 狩ってくれば良いかと思い ブン先生に聞いたらそんな答えが返ってきた。
確かにフルシェからの道中も、首都に近付くほど魔獣の気配は感じなかった。
外れた道ですら 小さいラット、ラビット、スパイダーくらいで、後は鳥かな。まさかウルフすらいないなんて思わなかった。
川船の到着地 リスケットから 最初の休憩場までは ウルフレベルはいた筈だけど、それを思えば あの冒険者たちでも護衛として何とかなるのかもね。
「ダンジョンの魔獣では駄目なのでしょうか、かなり特殊な魔獣も多いと聞きますが」
「ダンジョンの魔獣は 倒せばドロップアイテムを残して消えるからな。遺骸は残らん」
「消えるのですか? それは消滅するのでしょうか、急に? ドロップアイテムというのは魔獣の皮や魔石の事でしょうか。
時々仕入れるあれらは ドロップアイテムというものだったのですね。
それはどんな風に出てくるのですか? 箱に入っているのでしょうか、種類は? 皮の場合は……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ヴィオ……」
ブン先生が大興奮です。
ここにドゥーア先生が居たら二倍だったのかな?なんて思ってたら グイグイ迫られているお父さんからヘルプコール。
ゴメンゴメン、あまりの興奮具合に引いてました。
「ブン先生、ダンジョンの不思議のひとつが増えましたね。
先生たちが次に遺跡ダンジョンに行くときは 2階までの散策をお願いしてみたらいいのではないですか?上級は危険だろうけど、初級とか中級だったら 低層階ならそこまで危険じゃないと思うので」
キラキラした目でお父さんに迫っていた先生を止めて ダンジョン散策へ意識を向けさせる。
「はっ‼ ああ、アルク殿申し訳ない、少し興奮してしまったようです。
そうですね、次回ダンジョンへ行くときには 2階層へ行きたいと最初からお願いしてみましょう。
これに関しては旦那様への確認が必要ですので、許可が出たらもしかしたらお二人に護衛を依頼するかもしれませんが よろしいでしょうか」
前回の護衛依頼は〔ヨザルの絆〕に対して出されたものだったので、私も護衛依頼を受けたことになっている。
ギルドを通して依頼を受けると ダンジョンの記録と同じように 何の依頼を何件受けたという記録が残る。
例えば依頼者から護衛や 依頼達成に不備があったと訴えられた場合や、サッサさんの時のように 想定以上に素晴らしい結果だったと謝礼金が上乗せされた事なども記録に残る。
あまりにも依頼達成率が悪い人には 同じレベルの依頼を受けさせないようにするためなんだって。
私は今回が初の護衛依頼だったけど、依頼達成(不備ナシ)として終了しているので 次回以降も受けやすい。しかももう一度先生からだった場合は、この依頼者と このパーティーは関係性が良好である と判断される。
その場合、基本的に金ランク以下には 貴族からの指名依頼を出せないんだけど、既に関係性が良好だと判断されている場合に限り、冒険者に受けるかどうするかの確認をしてもらうことはできるらしい。
その辺りはギルドが上手く立ち回ってくれるようだ。
ただし、それをするのはギルドによるとしか言えないとはお父さんの談。
そもそも貴族とギルドの関係性が悪いところだと ギルドに入った途端針の筵状態になるらしいしね。貴族が治める街のギルドは比較的対応可能という感じなのかな。
サマニア村はどうなんだろう。
あの村に貴族が来ることはないだろうし、というかギルマスたちが元貴族だったね。
現役貴族が来ることはなさそうだけど、来月ギルマスたちが来た時にその辺も聞いてみようかな。
さて、ドゥーア先生はいつ頃帰って来るかな。




