第264話 お屋敷でのお勉強 その2
ダンジョンから戻って 毎日午後に壁画の文字と向き合っている。
ダンジョン研究学、神代学、魔法歴史学の先生たちもこの資料は欲しがるだろうという事だったので、私がノートを使う時間以外で メイドさんたちが手分けして写本しています。
ドゥーア先生の受け持ちは古代文字研究と魔法陣学だというので、同じ科の先生たちの分も写本が必要みたいで皆さん大変そうです。
読み解きをはじめて3日目、壁画に描かれていた魔法陣に使われている文字というか記号以外の字が 突然読めるようなりました。
というのも 意識の問題だったようで 魔法陣の記号を “記号文字” だと捉えるようになった事で まずその文字が理解できるようになったのです。
記号文字ってのは あれですよ 、例えば社会の授業で習った 地図記号みたいなもの
卍:寺院
⨂:警察署
みたいなやつ。何でそれがそうなんだ?ってのも沢山あったけどそれはまあ置いておこう。
後は音符とかも図で読み方があるでしょ?そんな感じかな。
#:シャープ(半音高く)
♭:フラット(半音低く)
これも1つの記号で 読み方もそうだけど意味も持たせるって凄いよね。
もちろん魔法陣の記号が地図記号や音符な訳じゃないんだけど、記号を文字だと意識したら 例の文字の上に日本語が薄っすら浮かび上がる現象が起きたのだ。
よくよく考えれば 学び舎での授業でも 《いろはにほへと》を 日本語をしっかり意識して書いたら書くことが出来た。そしてそれはポール先生には読むことのできない文字として認識されていた。
となれば、この記号も 私が文字だと認識していれば もっと早く翻訳されていたのではなかろうか……。
ガク~~~~!である。
で、記号文字とは明らかに違うテイストの字を文字だと捉えて読んでみれば 説明文ようなものであることが分かった。
例えば最初に先生たちが調べていた 農耕のイラストの文字。
先生たちは イラストから収穫期の事を示していると判断、その上で 風の神への豊穣を願った言葉が描いてあるのではないかと推察していた。
(風)〈の時は収穫の季節〉(農耕)〈の神に感謝し収穫を行うべし〉(天候)〈が良い日に村人総出で行うべし〉〈豊作であった場合は〉(豊穣)〈の神に感謝を告げ祭りを行うべし〉
という事が書いてあった。
この文章の()部分は魔法陣で使用した記号のような文字で 〈〉部分が別の文字だだったんだけど、この時点で農耕、豊穣の神様がいることが判明したわけです。
そのうえ 翻訳が出来るようになった事で、魔法陣に使われていた記号のいくつかが間違えていたかも、という事も分かりました。
だけど この日本語翻訳が見えるのは私だけな訳で、それをどうやって理解してもらえるのかが分からず 余計に悩むことになったんだよね。
これはギルマスたちが来た時に相談する?
いや、けどお父さんにすら 前世の記憶があることは告げてないから 翻訳機能が使えるとなればそこから説明することになっちゃうよね。
う~ん、悩ましすぎる。
そして悩んでも分からないことは とりあえず棚上げすることにしたよ。
「ここの農耕と豊穣ですが 魔法陣で習った時よりも文字が増えてませんか?
でも他のこの部分とは文字の形状が違うから 農耕と豊穣にくっ付いた文字なんですかね……。
あと、この農耕と豊穣の後は 同じ言葉が並んでませんか?この〇※△■(神に感謝)という言葉は 他の文章にも出てくるので結構重要な単語じゃないかなって思うんですけど……」
先生たちにはそう言いながら誘導してみた。
“神” という単語も 単体で出てくるので 先生たちも重要ワードだとすぐに食いついた。
「確かに、このココと ココ、中心部分の言葉は違いますが 前後の文章が同じですね。
それにこちらも、天候の後ろ 前半は違いますが 後ろの文章は他二つと同じです。
となれば 何かを指示する言語なのかもしれません。
ああ、しかも天候も私が知る文字より少し多いですね。こちらが正式な意味なのか、それとも別の言葉を意味するのでしょうか」
「そうだな、他の壁画でも 古代文字の後ろには 〇※が出てくる。この文字が一番重要という事だろう。
そして可能性として考えられるのは 神じゃないかと思うんだがどう思う?」
「確かに、そう考えれば ここは【農耕ナントカの神】で こっちは【豊穣ナントカの神】ですね。
この神が昔の人々が信仰していた現地神なのか、本当にいる神なのかは 神代学の皆さんに調べてもらいましょう」
答えを知っている人が 解き方すらわからない人達を正解に導いていくのって 難問すぎる。
だけど 天才二人だから 次々に正解に近い答えを導きだしていく。
きっと なんでそれに気付いた?って思っているだろうけど、それを聞いてこないのも先生たちの優しさがありがたい。
ダンジョンから戻った週は ずっとノートの写本と、同じ もしくは似ている言葉の抜き出し、魔法陣には使っていなかったけど 明らかに同種である古代文字の抜き出し、その作業だけをずっとやっていた。
「明日は一度 学園に顔を出してきます。
長期休暇の最後にこの資料を見せてしまえば、新学期の学生たちが可哀想ですからね」
聖の日の夕食時、先生が明日学園に行ってくると告げる。
理由を聞けば あまりにも珍しい資料の為、興奮しすぎた教師たちが 授業そっちのけで研究をしてしまうだろうから とのこと。
ああ、似た者同士だから行動が読めるのですね。
来週を含めて 後2週間はお休みだから、流石に2週間後には興奮も落ち着いて 授業の準備も問題ないだろうとの事。
確かに先生たちもダンジョンの話を伝えたら 気も漫ろになってたし、ダンジョンから戻ってこの1週間、私との授業以外の時間も ずっと研究をし続けていたのは知っている。
ただ、私とお父さんがいるから 三食はしっかり食べるし 多少は睡眠時間も取っているらしく、オットマールさんからはお礼を言われた。
だけど そもそもダンジョンの話をしなければ こんなことにならなかったのでは?とも思うので複雑です。




