第260話 再びのフルシェ遺跡ダンジョンへ
聖属性の何たるか、というのには答えが出ず、ただし自分の中の魔力に色を付けてみるということは何となくわかるようになった先生たち。
ただ、しっかり意識しないと駄目だというので それは慣れることが必要だと伝え、違う属性魔法を同時に出す練習をお勧めしておきました。
そんな中でも 新しい聖属性魔法は教えてもらいました。
先生たちは使った事が無いというので 魔法の効果と呪文だけね。
例のクッソ長い呪文です。
〈癒しの女神ミゼリコルディアよ 浄化の神 プルガッティオよ 我が魔力に宿りし聖なる力で 彼の者の〔状態異常〕の回復を願います。女神の尊きお力によるご高配を賜りたくお願い申し上げます【リカバー】〉
ハイ出ました、2回目の登場ミゼリコルディア様です。癒しを担当されているようですね。
この状態異常っていうのは〈混乱、衰弱、暗闇、魅了、狂化、睡眠、幻覚〉なんかの異常状態の事らしく、全部まとめて回復~!ってのは無理らしく、一つを選択してお願いしないといけないんだって。
神殿に運ばれてくるのは混乱、暗闇、魅了、幻覚で、神官が行かないと駄目なのが衰弱、狂化、睡眠らしい。睡眠は叩いて起きるレベルなら問題ないけど、懇々と眠り続ける様なのもあるから そういう時は呼ばれるんだって。
狂化は狂暴化、所謂バーサク状態になっていることで、基本的にその状態の人はグルグル巻きにされて 牢屋とかに繋がれている状態で呼ばれるらしい。
これは過去の文献でしか先生も見た事が無いらしく、本当に狂化した人が現れたら是非見てみたいと言ってました。うん、研究者らしいと思います。
もう一つは、ザ!聖魔法‼って感じのあれです。アンテッドに効果的な魔法です。
〈我らが聖なる神ピュアンクスよ 我が魔力に宿りし聖なる力を高め 悪しき魂を清める力をお与えください。女神の尊きお力によるご高配を賜りたくお願い申し上げます【ピュリフィケーション】〉
はい、結構有名な魔法ですよね、絶対噛む自信しかないプリ、ピュリヒ、ピュリュヒ……うがぁぁぁぁ!
もう【浄化】で良いんじゃないでしょうかね。
うん、間違えないで意識するのが大切ですからね、プリヒケーチョンは諦めます。
そして初神、ピュアンクス様、この神様は 聖属性の神様だそうです。
であれば 全部この神様に祈れば良くない?って思ったんですが、それは言わないお約束だそうです。ハイ。
この浄化魔法はアンテッドの昇天攻撃になると同時に、瘴気溜のある場所の浄化もできるそうで、皇国では 定期的に教会に勤める聖女聖人たちが 瘴気浄化の旅に出ているそうですよ。
どうやら瘴気があるところにダンジョンが出来ると信じられているそうですが、リズモーニの山々からは別に瘴気は出てないんですけどね。
魔力溜が出来たらダンジョンが誕生すると言われている リズモーニと、瘴気が溜まると出来ると思われている皇国、どっちが正しいのでしょうかね。
教えてもらった魔法を練習するには アンテッドが沢山出るダンジョンに行くか、混乱とかをさせてくる魔獣に会いに行く必要があるけど、上級以上だろうか。
「まあアンテッド以外は会っとるがなぁ、ヴィオは結界鎧を着とるから効果が無いじゃろ?
ほれ、それこそコボルトの咆哮で ケーテが恐慌状態になりかけとったじゃろう。
あれも状態異常のひとつじゃな」
なんと、ではオークとかの咆哮もその役割が?
「でもお父さんもだけど テーアさん達も結界はしてないよね?何で大丈夫なの?」
「ん~~~~? 気合?」
ハイ、脳筋なお答えを頂きました。良いと思います。
先生たちは「え?」ってなってるけど、冒険者ってこんな人が殆どですからね。
◆◇◆◇◆◇
ということで、聖の日の朝です。
今日はフルシェ遺跡ダンジョンに参りますよ。
ダンジョン踏破が目的ではありません。あくまでも1階にある遺跡というか壁画部分を見に行くのが目的です。
既に何度か乗っている馬車に乗っていくことになってます。
勿論 御者はブン先生、エミリンさんは心配してくれたけど 戦闘能力は無いのでお留守番です。
先生たちの興奮具合によりますが、予定では日帰りですからね。
「さあ、ではいきましょう。スティーブン 門を出て 人が少なくなったら風魔法を使いますからね」
「畏まりました」
誰よりもウキワクしている131歳のドゥーア先生です。
昔は ダンジョンなど興味がなく、唯々魔法を、魔法陣を調べて研究して、新しい魔法を考えるのが楽しかった先生。
100歳を超えて ある程度魔法の事を学び、人に教えるのにも慣れてくると、今度はダンジョンにも興味が出てきた。
だけどその頃には魔法の権威と呼ばれるようになり、おいそれと危ない場所に行くことが許されない立場となった。
行きたいけど行けない。冒険者に依頼するとしても 依頼者が自分とバレた時点でギルドから畏れ多いと断られる。
いっそ変装してもと思ったけど、それで何かあった時に 冒険者の若者たちの将来が絶望的なことになると皆に止められて諦めた。
そんな時に私たちですよ。
そりゃこうなっても仕方がないよね。
「はじめて森に行くときのヴィオみたいで懐かしいなぁ」
な、なんですと!?
私 こんなに浮かれポンチになってました?
人の振り見て我が振り直せ。
いや、既にその振りを見せた後だったね。
門を出る時は ブン先生の顔と 馬車の家紋だけで顔パス状態。貴族の馬車ですからね、私たちが入ってきた南門じゃなくって 西門から出ましたよ。
なので外延部の町の中心を通ることなく、ぐるっと回ってフルシェの街道へ向かうようです。
門を出たらブン先生から「人通りが無くなりました」と合図が来たので ドゥーア先生が風魔法で馬車を持ち上げ 追い風を少し当てたようです。
車輪の音が聞こえなくなり、さっきまで多少揺れていた振動すらなくなったので 馬車が浮いていることが分かります。
「おや、驚きませんね。知ってましたか?」
「はい、サブマスさんから教えてもらって 私たちも人がいないときは お父さんに【ウインド】をかけて走ってるので」
「アルク殿に?」
ノハシムに行くときには馬車にも使ったし 結構良く使ってる魔法だね。
先生は人にという事がよく分からなかったみたいだけど、普段やっている方法を告げれば 確かにそれなら速く走れそうだと笑ってる。
「ああ、そういえば ダンジョンで使える索敵も 属性じゃないものでやっているんだったかな?」
「そうですね、無属性だと思います。水生成魔法の最初に魔力を散布するでしょう?
あれをもっと薄く、広く、空間全部を満たす気持ちで散布すれば 洞窟系のダンジョンだと そのフロア全部がしっかり見えますよ。
森ダンジョンとかは魔力切れになっちゃうので 足首までの高さでマッピングだけして 後は自分の周囲だけの索敵と組み合わせてやってます」
「ほぅ、あの魔力散布を基に考えたのか。それなら私もできそうだ。
ふむ……こう、いや、これは出すぎか。……これくらいかな。
ああ、ここでは狭すぎてちょっと分からないな。ダンジョンで試してみるしかないか」
急に眼を閉じて集中し始めたと思ったら 索敵の練習をはじめました。
本当に自由です。
狭すぎるので イマイチ実感がなかったそうですが、私でも自宅で練習しようとは思いませんでしたよ?先生 良い大人なんだから ちょっと自重してくださいね。




