第259話 聖属性の不思議
魔導学園の見学の最後は 図書館での読書会でした。
グループワークが出来るように 複数人が入れる個室、試験勉強に集中できるような完全個室も用意されているのが 貴族の学校って感じです。
勿論フリースペースの長テーブルのほか、壁に作りつけられたテーブルもあるので、集中しやすいところで勉強なり読書なりを楽しめるのだろう。
私たちは 禁書を読む為と お父さんたちがいるので大部屋をお借りしました。
歴史書はかなり厚みがあったので、見学の日の午後を含めて3日間 図書館に通いました。
お父さんは護衛役、ドゥーア先生は指導役と 禁書を借りる為に、エミリンさんは保護者役で 私がトイレなどに行くとき一人にならないようについて来てくれてます。
ちなみにブン先生は別行動。
見学の翌日には 例の魔道具屋さんに確認をしに行ってくれたようです。
夕食の時に 魔道具屋さんが逮捕されたと聞いて びっくりしたのは私だけだった事に驚きました。
どうやら あの鑑定眼鏡以外にも 胡散臭い魔道具を取り扱っていたらしく、実際の効果より かなり盛った効果を伝えて販売していたらしい。
あの鑑定眼鏡も 確かに生物に対しての鑑定は出来たけど、自分よりも魔力量がかなり低い相手限定だったとのこと。
そうじゃない相手には弾かれてしまって全く見えないとか意味ないじゃんね。
ブン先生は魚屋さんで売っていた瀕死の魚で何とか鑑定が出来たと言ってました。
翌日はフルシェのギルドからの連絡があり、銀ランクの上級が護衛に就き、1階だけの見学であれば問題ないとの返答があったとの事。
あの日の夕方に 早速ギルド経由で連絡をしていたというから 先生たちの本気度が分かる。
これは ルエメイも一緒に来るかもしれないね。
てなことで、魔導学園に通学(?)したのは3日間、禁書を読み終えれば 他の本は先生が持って帰ってきてくれるし、なにより屋敷でマンツー授業が行われるので 学園に行く必要が無いっていうね。
なんという贅沢!
そして屋敷での魔法陣のお勉強をしようとなったら 例の壁画が気になっちゃう先生たち。
魔法陣の記号の事は私も気になるので、聖の日にフルシェに行くことが決定した。
なので、それまでの二日間は 聖属性魔法を教えてもらうことになったんだ。
「ヴィオ嬢は アスランから聖属性魔法をいくつか教えてもらったと思いますが、何を教えられましたか?」
「えっと、回復と解毒です。すっごい長いやつで教えてもらいました」
「「ぶふっ」」
同室で待機しているブン先生も 笑いをこらえていますが長いと思いませんでしたかあれ。
「そうですね、基本的に聖属性魔法を使える者、いや、適性がある者は教会が保護という名の隔離をしたがります。
わが国では 教会の力は然程強くありませんので 無理やりという事はさせませんが、それでも小さな町などでは教会の力が強い場所もあり、そういったところでは洗礼式以降の囲い込みのようなことは起こります」
水晶ピカーのイベントでバレちゃうんだもんね。
皆洗礼前に冒険者登録しちゃえばいいのにね。んで 聖属性が得意属性の子は教会の洗礼式に行かなきゃいい。
「まあ そういう事もあって 聖属性魔法自体が 教会で秘匿されるように密やかに伝聞されていたという事ですね。
今私たちが知る聖属性魔法の多くは 教会から逃げ出した人や、教会で勉強をしていたけど 留学したことであの国のおかしさを知り 冒険者になって亡命した人によって もたらされた知識が殆どなのです」
あの国=皇国ですね。うんうん、聖属性魔法以外は野蛮とか意味不明過ぎるもんね。
大体聖女の結界で護られてるって、どんだけその人たちに負担掛けてるんだ?って感じじゃない?
きっと辺境は結界の薄いところとかもあって戦々恐々としながら必死で頑張って、中央とかの絶対安全地域にいる奴とかは 暴利をむさぼって ゲヘヘな感じのデブが多そう。
でもそうか、他の魔法に比べてアホみたいに長い呪文で伝わってるのも、亡命聖女たちが習ってきた呪文だからなんだね。そりゃしょうがないね。
「亡命聖女……、間違いではないですね」
「そうです、ですので 大抵の人たちは聖属性魔法を使う時には その長々とした呪文を唱えなければ その効果を得ることが出来なかったのです。
それをほぼ完全無詠唱で行使できるようになるというのが どれだけ凄いことかわかりますか?」
確かに、それが常識だと思ってたんなら 私の【ヒール】は型破りも良いところだよね。
「でも先生、みんなは聖属性ってどんな力だと思って使ってるんですかね。
火属性は 炎、火、普段お料理でも見るから実感しやすいですよね。
水も風も土も木も。周りにあるものだから 感じるし、触れるし、目に見えます。
闇も夜になれば暗くなるから実感はしやすいと思うんです。物陰とかも自分の影だって闇です。
だけど聖って?光じゃない、聖ってどんなものなんでしょうか。
私の回復は 再生が基本にあります。
本人の体力、血流、体組織、そいういったものを活性化させて 早回しで再生させているって感じです。
だから多分死んでいるものを再生させることはできないです」
聖魔法と言えば 蘇り魔法だよね、レイズとかリヴァイブとかそんな感じの魔法がゲームにはあったと思う。
「聖魔法の力の根源……? 学んできた事であれば 神々による聖なるお力とされているが……、確かに漠然とし過ぎているな。
いや、それはまた別で考えよう。
それよりヴィオ嬢、聖属性魔法には、いや それ以外の魔法でも死者を蘇生するような魔法は存在しない。過去にそれをしようとした者は多くいたが、それらはアンテッドを増やすだけの禁術となっている。
そんなつもりが無いことは分かっているが、他でその話はしてはいけないよ」
おぉ、まさかの蘇生魔法は存在しませんでした。
死にたてホヤホヤでもアンテッド化しちゃうのかな。いや、試さんよ?大丈夫、その辺の倫理観はもってるから、大丈夫。
「では逆に、ヴィオ嬢は【ヒール】をするときに どのような魔力を想定して使っているのだろうか。鞭の攻撃を見せてもらったが、あれは意識した属性魔力を流して その形を作っていただろう?
という事は全ての魔法を行使するとき、その属性を想像して流しているのだよね?
であれば 【ヒール】の時はどうだろうか」
ん?不思議な質問だね。
属性を意識しないと魔法はでないよね? だからもちろん聖属性を意識して行ってる。ああ、その聖属性ってのがどれだと思ってるって事かな?
「自分の中の魔力を選択するときに 基本属性は色付きで分かりやすいですよね?」
「「色付き???」」
え?
まさか 最初の時点でその返答が来ると思ってなかったんですが?
という事で、自分の中での魔力の動きなどから図解して説明することになりました。
オノマトペが通じないんだもん、お父さんが居てくれたら理解してくれたはずなのに、頭脳派の人に説明するのは難しすぎます。
「つまりヴィオ嬢は常に 自分の中の魔力を色分けしてみているという事だね?」
「常にではないですが、使おうと思う時はですね。
ボディピークの時に自分の魔力の流れを意識してみた時に、思った以上のスピードで全身を駆け巡っていたのが見えたんです。
その時は持っている全ての魔力が入り混じった色だったんですが、それを分けてみる練習をしたら意識した時に見えるようになったという事です。
鞭を使う時は しっかり属性を意識することがコツなので、とてもいい訓練になってます」
それまでは何となくだったけど、それを意識するようになってから 複数属性を同時に出すことも困難ではなくなった。
何なら指一本ずつに違う属性の魔法を出すこともできるくらいだ。
「それで、各属性を分けた時に 木は黄、火は赤、土は茶、水は青、氷は水色、風は緑、闇は黒、聖は白、と色分けされたわけです。
それ以外に薄いクリーム色があるので 多分これは光属性で、透明っぽいのは無属性なのかなと思ってます。
で、【ヒール】をかける時には この白い魔力を意識して使うようにしているという訳です」
やっと最初の問いに対する答えが返せたよ。
ここまでが長かった。
先生たちが練習したいって、自分の手から魔法を出して、消して、魔力を意識して完全無詠唱で出して、消してを繰り返して練習するから、問いに対する答えを返せたのは夕食後でした。
研究者 やばいっす。




