第26話 初めての採集
昼食が終わって、少しだけお昼寝。
赤ちゃんじゃないんだからと言ったんだけど、お父さんに寝室まで運ばれて 布団の上からトントンされたら寝落ちてた。
2時間ほど眠っていたらしく、起きたらスッキリしていた。
初めての学び舎での経験と、途中で断念したけれど 頑張って歩いたことで、5歳の身体は疲れていたようだ。
「おぉ、よく眠れたか? 採集には行けそうか?」
テーブルの上には採集に使えるように 小さな手袋と小さなナイフ、籐で編まれた籠が用意されていた。
「お父さん、これって……。」
「ここにある薬草は素手でも採集できるがな、今後 村の外でも採集することを考えれば 道具の使い方には慣れといたほうがええ。
ヴィオのマジックバッグはかなり特殊じゃ。マジックバッグは精度が色々あってな。」
お父さん曰く、マジックバッグは容量や性能がピンキリらしい。
見た目も私の持つ肩掛け鞄のようなものもあるけど、ウエストポーチ型やリュックサック型もあるみたい。
希少な魔道具術師により制作されるものもあるらしいけど、それらは使用魔力が多く必要である事と 容量も鞄の倍サイズくらいの物であることが多いのだそう。
容量が多い物は殆どがダンジョン産の物で、ほぼ市井に流れることはなく 取得冒険者が身に着ける。時々オークションで出品されるも、恐ろしい金額になるそうで、大概貴族か大商人と呼ばれる人達が競り落とす事になる。
オークションとか 貴族っぽい響きだよね。
容量の大きさは最大がどれくらいか分からないけど、お父さんが持っていたマジックバッグは この家の部屋一つ分くらいだったようで、息子さんに餞別で渡したらしいので 二つとも手元にはないらしい。
ダンジョン産のマジックバッグには、時折時間停止効果が付いているものがあり、非常に珍しいとされているとのこと。
……私のマジックバッグ、多分この家 一軒分はあるし、回復薬がそのままだったことを思えば 多分時間停止機能も付いてる。
「そういう訳で、ヴィオのマジックバッグの効果が知られると危険じゃ。
それにな、安いマジックバッグじゃと、普通の鞄と同じように きちんと収納せんと ぐちゃぐちゃになる。
じゃから薬草なんかはこうした籠に入れておけば 綺麗なまま納品しても怪しまれん。」
あぁ、そっか。母さんは素材採集の時にポンポン鞄に突っ込んでたけど、安いマジックバッグだと そうしたら潰れちゃうって事だね。
安全な場所に移動してから選別して、5~10本の束に纏めてたから そういうものだと思ってた。
「全部を隠すのは無理がある。じゃが行き過ぎた能力や道具は周囲から狙われる。
じゃから 見せる範囲も調整しながら、ヴィオ自身も 身を護る術を手に出来るように 儂が鍛える。」
そこまで考えてくれているとは思わなかった。
面倒だと手を離さずに、生きる術を教えてくれるお父さんは 私の師匠だね。
師匠って呼んだら お父さんが良いって言われたからやめたけど、心の中ではお父さん師匠と呼ぶことにしたよ。
◆◇◆◇◆◇
「奥まで行ったら川があるから、そこまでは行かんようにな。」
家の裏は木々が覆い茂り、私は森だと思っていた。
広場に面するお店の一角が入るのと同じくらいの小さな森になっているらしいけど、子供の私からすれば 結構大きな森だ。
村を護る木塀に沿って 数本の柱が立っている。
外は見えないけど、村の外にも一定間隔で柱があるらしく、それらは魔獣除けの道具らしい。街道に沿っても立てられているらしく、馬車はその道を通って 各町を行き来するようだ。
勿論大きな魔獣や 魔獣が溢れてしまうスタンピードが起きた時には 機能しないようだけど、昼日中に普通の魔獣は近づかないレベルではあるみたい。
川はその限りではなく、普通の魚だけではなく 魔魚と呼ばれる肉食の魚もいるらしい。
ただし村人は魔魚を普通に釣るし、何ならうちの食卓にもすでに出ていたらしい。
海ではないから 人を引きずり込むような危険すぎる魔獣は居ないようだけど、小さな子供が足を滑らせて落ちたら 危険な可能性は高いと言われた。
わたし 知らなくて川で水浴びしてたし ドンブラコされたてたけど、よく無事にたどり着けたよね。
薬草を見つけては お父さんに確認してもらって採集していく。
初めて使うナイフは 初めのうちは上手く使えなかったけど、慣れたらとても容易に素材を切り取ることが出来、褒めてもらえるようになった。
お父さんの合格をもらえたのは カイフク草が20本、マリキ草も10本採集できた。
初めの数本は ナイフに集中しすぎて、葉っぱの部分を握りしめちゃったせいで 駄目にしてしまった。勿体ない事である。
回復薬の材料になる カイフク草と、魔力回復薬の材料となる マリキ草。
非常にふざけた名前だと思ったけれど、誰でもすぐに覚えられるし 採集に行くのは小さな子供が多い事を思えば、覚えやすいのは良い事だ。
マリョク草ではなく、マリキになったのは 漢字がないこの世界ではフリガナの間違いという訳でもないだろうから、偶然なんだろう。
この2種類は、各回復薬の基本材料だから 10本1セットで50ラリの報酬が貰える。1セット納品で1回分の依頼達成ポイントがもらえるから、5セット納品したら5ポイントがもらえるのだ。
錫ランクから青銅までは50ポイントあれば上がることが出来るらしくて、真面目に依頼を受けていれば1か月くらいで上がれるらしい。
青銅から銅までは 新たに100ポイントを貯める必要があるけれど、これも依頼内容の是非は問われない為 採集やお手伝いだけで頑張る子供たちが多い。
ただし、銅ランクからは討伐以来が入ってくるため、銅ランクになる前に 武器の扱いや魔法の扱い、回復薬などの知識を持っていないと 大怪我では済まない結果になる。
昔は銅ランクになって 知識が少ないまま討伐に出て 帰らぬ年少冒険者が多く、現状を重くみたギルドが領主や国に訴え、リズモーニ王国では国が主体となって 10年くらい前からギルドでの学び舎を設けることになったのだとか。
結果、学び舎を出た冒険者の死亡リスクが減り、ギルド本部が推奨して 各国に支援を求めているみたい。
お隣の共和国も 冒険者が多くいることから、学び舎は設けられているそうだけど、皇国は冒険者を野蛮人と蔑んでいる為 冒険者ギルドはないし、学び舎もない筈だということ。
もう一つの隣国、メネクセス王国は広大な分 大陸における冒険者ギルド総本部があるらしいけど、王国全てのギルドに学び舎があるかは不明だって。
ここプレーサマ辺境伯においては、3か国との境界を守護する地でもあり、武を尊ぶ辺境伯が 冒険者の育成にも力を入れ、学び舎完全無料体制を作り出してくれたんだそう。
今後も会うことはないだろうけど、プレーサマ辺境伯サマには感謝カンゲキ雨嵐で御礼申し上げます。
10本1セットとなるように、細い麻紐で纏める。
お父さんが用意してくれた籠に入れて、学び舎に持っていく用の鞄に入れた。
採集でも結構時間を使ったから、既に夕方が近いらしい。ここから私が歩くのは時間もかかるし 体力も足りないだろう。という事で、お父さんの抱っこでギルドに行くことにした。
マジックバッグに入れておけば 明日学び舎に行くときでも十分新鮮なんだけど、時間停止機能は秘密にしておくことにしたので、ちょっと遅いけど この時間にギルドに納品することにしたんだ。
「明日からは資料室にも寄らんし、もう少し早い時間に始められるじゃろう。」
お昼寝が無かったら。と言ったけど、それは駄目だって言われた。
まぁ、今日は資料室で写本もしてたから 時間が遅くなったし、私が途中までは歩きたいって言ったから余計に遅くなっちゃったんだよね。
ギルドでは ナーラさんという羊獣人のおじさんが受付をしてくれた。
「ひい、ふう、みい、よ……。カイフク草が20枚で2セット分、マリキ草が10枚で1セット分、合計150ラリの報酬と、3ポイントだね。
アルクの娘さんとは聞いておったが、お前さんの娘らしく 初めての依頼達成にして素晴らしい採集技術だね。」
片眼鏡のモノクル?をかけて 慎重に素材を見ながら数えられている間 ドキドキしたけど、お父さんは楽し気に見ているだけだし、私も静かに見つめるだけにしてたんだけど……。
「ナーラさん、その薬草 私が採集したって分かるの?
ズルしてお父さんが採集したかもしれないよ?」
「……ふっ、はっはっは、面白い子だねぇ。自分でズルしたかもしれないというなんて、馬鹿正直というかなんというか。」
「可愛い娘じゃろ?」
「ふっ、そうだねぇ。孫たちが騒いでたのも頷ける。
お嬢ちゃん、人はね 皆自分の魔力を纏っておるんだよ。
たかだか素材採集でも 魔力を流さないような 特殊な手袋でもしてなければ素材に魔力は多少移る。
だから この素材全てに纏わりついておる魔力が同じであれば、同一人物が採集したというのが分かるんだよ。
ギルドカードに登録されている魔力と同じである事を確認しておるからね、不正はできんのだよ。」
マジカ。
ナーラさんのモノクルは魔道具らしく、魔力を鑑定するギルドの道具らしい。
ちょいちょいハイテクを出してくるよね。
査定が終わり、ギルドカードと報酬を手渡された。
青銅の丸い硬貨が1枚と、錫の小さな丸い硬貨が5枚
お買い物の練習はしたことがあるけれど、自分で稼いだ初めてのお金だ。
ギルドカードは何ら変わったところはないけれど、ポイントは何らかの形で蓄積されているのが分かるんだろう。なんたってハイテクなカードだからね。
帰り道に、初の稼ぎでお父さんに何かプレゼントしようと思ったんだけど、将来の為に貯めておきなさいと言われてしまった。
もう少し貯めて、1人でお買い物が出来るようになったら プレゼントを買おう!
新しい目標がまた一つ出来た。