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ヒロインは始まる前に退場していました  作者: サクラ マチコ
第一章 幼少期編 

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第251話 お屋敷での日々 その6


ドゥーア先生も揃っての夕食は、お父さんが作ったハズレ素材を使った料理の数々だった。


「不思議な香りだね」


「旦那様 確かに嗅ぎ覚えのない匂いで最初は落ち着かないかもしれませんが、是非一口食べてください。この素材は是非取り扱うべきです。

今日はこの料理を食べて頂きたかったので 大皿料理となってしまいしたが、これでもまだ一部レシピだというのです。

豊作ダンジョンと呼ばれるところであれば 大抵のところでこの素材はあるそうですよ。是非!」


昨日の夕食は コース料理のように 前菜から順に出て来たんだけど、今夜は茶色いおかずたちが大皿に乗せられてテーブル上に鎮座しております。

ドゥーア先生へ 興奮気味に説明しているのは料理長、料理長も初めて調味料を嗅いだ時に「は?」となったらしく、調理後の美味しさとのギャップを感じたから 必死で言い募ってます。


「料理長、大丈夫、大丈夫だ。変わった香りだと思うが 美味しそうだと思っているから落ち着きなさい」


給仕の為の使用人の皆さんも 珍しい料理長さんの姿に ポカン顔。

ドゥーア先生が宥めて どれを選ぼうかと少し悩んでいる。

各大皿にはトングが用意されてますよ。


「先生、こっちのお皿はお味噌、ここのはお醤油、こっちのがごま油を使ってるので 同じ調味料でも違う味わいなのを楽しんでください」


お味噌料理は キャベチとボア肉の味噌炒め、パテト()スピニッシュ(ほうれん草)のお味噌汁、お魚の味噌煮の三品

お醤油料理は 定番のから揚げ、グリーンペッパー(ピーマン)のお浸し、肉じゃがの三品

ちなみにお父さんがスパイスとしても使っているグリーンペッパーは、そのままだとシシトウ。あまり辛さは強くないので、辛味が欲しい時はレッドペッパー(赤唐辛子)を使うことになる。

そしてシシトウが更に育って大きくなると ピーマンになる。呼び名は同じグリーンペッパーなんだけど、辛味が無くなり少し甘くなる。


ルエメイの時には シシトウタイプしかなかったけど、グーダンでは 土の中から出てくるグリーンペッパーに成長したものが出てきた事で 成長によって味が変わる野菜としてピーマンの存在を知った。


ごま油料理は ナムル各種。ジンセン(人参)、スピニッシュ、炒めたキノコ、ウレイプ(白菜)、干したワイラッド(大根)

切り干し大根が食べたくて ワイラッドを無心で千切りして トンガお兄ちゃんに心配されたのも良い思い出。天日干しではなく【ドライ】で速攻カラッカラですよ。


「ほぉ、同じ調味料で これだけの種類が作れるとは 随分使い勝手が良さそうだね。

ではまずは一口ずつ頂こうか」


先生が決めたことで 執事のオットマールさんが 一口分ずつ お皿に取り分けていく。

スープだけはスープカップに入れられているけど、それ以外のおかずは綺麗に3種のお皿に取り分けられた。

私たちは自分たちで取り分けますよ。


「では いただこうか……。

むっ!?

これは……‼モグモグモグ」


カッ!と目を見開いたと思えば その後は全てを静かにお召し上がりになっております。

そして 空になった皿を見て オットマールさんに お替りを要求、料理長は 静かに飛び跳ねております。

エミリンさんをはじめとした皆さんも 先生の反応に興味津々のようだけど、お夕飯はこの後ゆっくり楽しんでもらいたいね。


私も味噌煮とナムル、お浸しを選んでモグモグ。うん、ダンジョンにいるとどうしても肉ばっかりになるから お魚が嬉しい。

荷物に魚は入ってないから お屋敷のお魚を使わせてもらったんだね。魔魚なのかな、調理されちゃっていると顔もないし わかんないね。



◆◇◆◇◆◇



「……オ、ヴィオ? あぁ、こりゃ駄目だな」


先生に新メニューを楽しんでもらっていれば 一番興奮して感想を聞きたがるであろうヴィオが随分静かじゃった。ふと見れば 魚をフォークに刺したまんま こっくりこっくりと船をこぎ始めておる。


「魔力切れでしょうか?」


「いや、午前にあれだけ動いて、昼から新しい勉強をしておったから疲れただけじゃと思う。昼寝もしておらんかったしな」


「お昼寝……、すっかり忘れておりました。

そうですね、まだヴィオ嬢は6歳でいらっしゃいました。

では 明日からは昼食後に回復の練習にして、それからお昼寝、起きてから魔法陣の勉強にしましょう。あまりにも普通に実践してくださるから 忘れてしまっておりました。申し訳ありません」


ヴィオの教師役をしてくれておるスティーブンさんが 申し訳なさそうに謝罪してくるが、多分止めてもヴィオは大丈夫と言っておったじゃろうなぁ。

魔道具が作れると 王都に来る前から楽しみにしておったから。

薬草を調べる時もそうじゃったが、ヴィオは一つの事に集中すると 驚くほどに周囲の音が全く聞こえなくなったように集中する。今日もそうじゃったんじゃろう。



「いやいや、ヴィオも楽しかったんじゃろう。訓練でも何でも やる時には集中してやり切る娘じゃらからな」


「今日の報告はスティーブンから確認しておくので ヴィオ嬢は寝かせてあげましょう。エミリン」


「はい、アルク様 ドレスからのお着替えが終わりましたら お部屋へお連れ致しますわ」


ドゥーア先生がメイド長に声をかければ 直ぐにヴィオを預かると手を伸ばされる。

自分で連れて行こうと思ったが、確かにこのドレスを脱がせるのは難しそうだと思い直す。まあここの屋敷の人たちがヴィオに好印象を抱いているのはよく分かっている。

特にこのエミリンさんは 非常にヴィオを可愛がってくれているし 任せて大丈夫だろう。


「そうか……、頼む、ありがとう」


幸せそうに笑みを浮かべたまま眠る娘をひと撫でして メイド長にヴィオを渡す。

明日からはしっかり昼寝をさせてやろう。


ヴィオが部屋を出た後は 新しいレシピの感想をもらい、スティーブンさんから ヴィオの一日が報告されて驚かれ、先生自身も回復魔法が多少使えるから 明日は見本を見せようと言って 家令から「まだ学園があるからそんな時間はない」と注意され、回復魔法のお手本は 学園が終わってからにしようという事になった。


今日回復をする予定だった使用人たちも 不機嫌になることもなく 明日を楽しみにしていると言ってくれる。ここの貴族しか知らずに 大人になってしまえば 苦労するかもしれんな。

ヴィオの将来を考えれば、スティーブンさんが言うように ドゥーア先生の養女にしてもらった方が幸せかもしれん。

じゃが 儂自身が既にヴィオと離れがたいと思っとる。

ヴィオが貴族社会に入りたいとは思っていないと言ってくれとるのをええことに、大陸のダンジョンを全制覇したいと、ドラゴンに会いに行きたいと言うておるのを理由に 鍛えとる。


「アルク殿、ヴィオ嬢を養子にしたいというのは本心です。

ですが、彼女の類い稀なる才能は、旅をして 足りないものを補う為に考え付いた物でしょう?

貴族社会に閉じ込めてしまえば きっと彼女の才能は消えてしまう。

私はそんな勿体ないことはしたくないのです。


幸い私はエルフで長寿ですから、ヴィオ嬢が旅をして 満足して もう旅はいいかな、落ち着きたいな。と思った時には是非お迎えしましょう。

ですから、今はヴィオ嬢との時間を楽しんでください。

ご両親を知らずに生きてきた彼女が 今ああして子供らしく過ごせているのは、アルク殿 あなたが愛情を惜しみなく与えているからでしょう。

私はあなた達への協力は惜しみません。困った時に力になりましょう、ですがそれを重荷だと思わないで欲しいのです。

水生成魔法、新しい回復魔法、そしてボディピーク、これらを私に教えてくれたことのお返しだと お代だと思っておいてください」


ありがたいことじゃ、少し考えすぎておったかもしれんな。

儂はヴィオがやりたい事を実現できるように手助けをするだけでええ。先生には魔法を、儂は戦う力と生きる知識を、死んだ母親も同じように思ってヴィオに色んな知識を与えたんじゃろう。

あの子が生きる未来が 明るいものであるように、儂にできるのはそれくらいじゃな。

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