第246話お屋敷での日々 その1
夕食をドゥーア先生と一緒に頂いた後、早速回復魔法の練習をすることになった。
まず初めはドゥーア先生に、先生は肩の痛みと時々頭痛があるというので、それは完全に肩こりではないかと思った次第。
ホットリフレでいけるんじゃないかとも思ったけど、回復魔法の練習だからね。
頭痛は肩こりが原因だろうから 治すというか 血流を良くするのは肩だけで良いだろう。
「じゃあ先生はこの椅子に座ってもらっていいですか?」
「ああ、もちろんだとも。ヴィオ嬢の回復魔法は 既存とは随分違うと聞いているからね、とても楽しみにしていたんだ」
その前情報はサブマスですね?
多分私のは皆が使っている回復魔法とは違うと自覚してはいる。でも 聖属性魔法を使うだけで 色々治る方がよく分からなくてイメージが湧かないのだから仕方がない。
一応 私の回復魔法の時も 流す魔力は聖属性だからね、全く違うという事はないと思いますよ。多分ね。
先生にはオットマンのような 小さな椅子に座ってもらい、私はその後ろに用意してもらった足台に立つ。
お部屋にいるのはスティーブンさんをはじめとした 数人の使用人の皆様です。
明日以降に受けてもらう予定の人たちなので きっと心配で見に来たのだと思います。
私はドゥーア先生の両肩に手を乗せて 声をかける。
「じゃあ やりますね。ドゥーア先生の肩の痛みと頭痛が改善されます様に【ヒール】」
肩回り、首回りの筋肉の緊張が緩和され 血流が良くなることを想像しながら 聖属性魔法を流す。ヒールというトリガーを唱えることで スウっと先生の身体に魔力が流れるのが分かる。
手を置いている肩がほんの少し温かくなった気がするけど血流が良くなったからかな?
「おぉ!これは!」
「先生どのような感じですか?」
「ふむ、ヴィオ嬢が手を置いている辺りから ジンワリと温まるような感じが広がってな、肩の痛みというよりは 全身の怠さすら改善されたような気がするぞ」
おぉぉぉ!と周辺が騒めく。
全身の怠さが無くなったというのは 血流が良くなった事と、周辺の筋緊張が緩和されたからだろうね。
「先生 成功?」
「ああ、ふむ、そうだね……。
ヴィオ嬢の回復魔法はこれで良いのではないかな。
実際に思った以上の効果を頂いている訳だし、ちなみにどんな風に考えて回復してくれたか聞いても?」
手放しでの成功ではないらしい。
うん、サブマスにも同じような事を言われたから やっぱり あの神様の名前から短縮していく回復魔法が正しいのだろう。
先生に聞かれたので 私が治そうと思った方法を伝えると スティーブンさんも 先生もびっくりした後 笑い出した。
「ははっ、そうか。まさか肩の痛みが 筋肉が凝り固まってしまったことによるものだったとは。
確かに同じ姿勢で何時間も作業をした後は 余計に傷みが酷くなることがあったが、あれが筋肉の固まりによっての事だったのであれば納得だな」
「ええ、風呂で温まった後に改善するのも 緊張がほぐれ 血流が良くなった事で回復していたということですね。納得しました、それを魔法で行うとは なんとも面白いですね」
普通の【ヒール】では身体が温かくなるとかはないらしい。痛いときは その痛みがスーっと引いていくような感じがあるみたいだけど、筋肉痛とか 肩の痛みなんかはあまり効果が無いことの方が多かったらしい。
サブマスは 私の症状を聞いた上で筋肉痛が原因だと分かっていたから効果があったのかもしれない。
『肩が痛い』というだけだと ぶつけたのか、何か悪いものがあるのか、原因がはっきりしないから 効果が出なかったのかもしれないね。
今回はたまたま症状を聞いて 肩こりだと思ってやったけど、別の理由があったとしたら効果はなかっただろうしね。
ということで、明日以降に対応させてもらう 外傷以外の被験者の皆さんには 病院の問診票に近い質問票に答えてもらうことにしたよ。
それで効果が出るようなら 他の人の回復魔法でも同じように効果が出るかを確認してみるとの事。
ドゥーア先生の肩こり治療が終わったら また明日と挨拶をしてお部屋に戻る。
とりあえず荷ほどきをしないとだからね。
「お父さん、隣のお部屋にね 凄くいっぱいお洋服を作ってくれてたの」
「おお そうみたいじゃな。儂もさっき教えてもらってな。貴族の屋敷と聞いて緊張しておったが 先生のお人柄か 皆がヴィオに優しくて安心じゃ。
訓練の時は装備の方がええじゃろうが、それ以外はヴィオも可愛らしい洋服を着せてもらえばええ。
中々お洒落を楽しませてやることが出来ておらんかったしな」
お父さんも可愛い格好をさせるのが好きだもんね。
けど 冒険者として活動するのに フリフリは邪魔だし、未だ悪者ホイホイの私がそんなラッピングをしてしまったら 余計にホイホイしちゃうからね。
お屋敷の中は先生の関係者しかいないし、学園に行くときは 先生とお父さん、ブン先生が一緒だから 絡まれることはないだろう。
訓練用の短パン装備だけクローゼットの取りやすい場所に置いて、それ以外は一旦収納。
ハズレと呼ばれていた調味料を2つずつ取り出して籠に入れる。
「お父さん食材はどうしよう。作らせてもらう分は こっちの食材を出しても失礼じゃないかな」
「あ~、そうじゃな。貴族の屋敷じゃし 足りんという事はないじゃろうが どの野菜が合うのかを伝えるっちゅうことにして 少しずつ持ち出しをしようか。
ゴマはハズレじゃから 町の店に取り扱いはないはずじゃ」
そういえばそうだった。ごま油もハズレだったけど ゴマ自体が種扱いだったもんね。
一先ず全ての野菜を1種ずつ 籠に取り分けておき、人気が無くて街で取り扱いが無いハズレ扱いのものは多めに別の籠に入れておく。
お肉も豊作ダンジョンで狩りまくったから 沢山あるし、無くなっても街で補充は出来る。
王都での時間が終われば サマニア村に戻ることになっているし、そうしたらまた新鮮なお肉を狩りに行けばいい。
それぞれ調理する為の食材を分けたら 私のマジックバックに再度収納。
籠に分けておけば取り出しやすいからね。
お父さんの調味料も同じように振り分けて 荷物の整理が終わったころ 客室がノックされた。
「お嬢様、入浴のお支度をお手伝いに参りました」
え?
思わずお父さんと顔を合わせてしまう。5歳で拾われてからお風呂は一人で入っておりますが?
「えっと、お風呂は一人で入れますよ?」
「まぁ、お嬢様、わたくし達は お嬢様を 旦那様の娘と思ってお世話をするように申し付けられております。お召し物は お嬢様がお気遣いなさるだろうという事で 一流針子店での仕立てではございませんが、是非それ以外はお世話させてくださいませ」
ドゥーア先生の娘って、確かに先生は独身主義だと本人が認めてたからこの家にご令嬢が誕生することはないのだろうけど、エルフだし、そのうち……。
いや そうなったとしても今居る使用人さんが現役の時にはお世話できないって事か。
じゃなくって、エミリンさんはそうだけど それ以外の人たちだって貴族令嬢だったり それに準ずる人たちでしょ?
たかが平民の私が そんな人たちにお世話されるとか 申し訳なさ過ぎるんですが!?
お父さんは いつの間にか部屋にいたオットマールさんと 他のメイドさんからも説得されており 「ここでしか出来ん貴重な経験じゃと思えばええ」とか言ってるし。
それを聞いて嬉々として エミリンさんに手を引かれれば 断る理由もない。
「勿論 おやすみの際は お父様とご一緒で構いませんからね。お父様が仰っていたように 貴族のご令嬢体験だと思って どうぞお楽しみくださいませ。
うふふ、まあ本当に美しい髪色ですね。これを隠さなければいけなかったとは 残念でなりませんね。
ですが お父様とお揃いの髪色も とっても可愛らしかったですわ」
私用に用意されていた客室では また数人のメイドさんが待機しており、あれよあれよという間に服を脱がされ 浴槽にポチャンとされていました。
バスタブのヘリに頭を乗せて、髪飾りを外した瞬間は 浴室内にいた人たちから感嘆の声が上がったけど 特にツッコまれることはなかった。
既に眼鏡も外しているので ピンク髪に菫色の瞳を 久しぶりに知らない人の前で晒している。
身体を洗われるのは 一度は断ったものの ご令嬢体験と言われたら断り切れず、恥ずかしい思いをしつつ 丁寧に洗われるのは思いのほか気持ちよかった。
まだ幼女だから我慢できたけど、これを大人になってもされるって 貴族のご婦人って鋼のハートを持っているのだなとちょっと感心してしまいましたよ。
お風呂が終われば ラノベで読んだことのあるマッサージタイムだった。
マッサージは好きで 良く通っていた記憶があるし、韓国や南の島に行った時は それこそ素っ裸での施術も体験していたので 恥ずかしくはあるものの 大丈夫だった。
とはいえ 6歳児の全身をオイルマッサージするって 必要ですか?
「スベスベですね、冒険者というお仕事は 相当大変だと思っていましたし 色々なところがカチカチになっていると思ったのに、貴族のご令嬢よりもスベスベかもしれないわ」
「ええ、平民の方は 然程入浴をされる習慣が無いと聞いておりましたが お嬢様は どこもかしこも ツルリと磨き上げられてますね。日焼けすらしていらっしゃらないのは ダンジョンという場所のせいなのかしら」
マッサージをしながら 口々に言い合う皆様。
それは私への質問なのか、それともお互いの感想なのか悩みどころ。
ダンジョンにいる間だって 毎日クリーン浴はしているし、それこそ角質とか垢とか汚れを取り除くことを考えてクリーンをかけているから 汚れが詰まることもないのだと思う。
日焼けをしないのは ダンジョンだからというのも確かだけど、全身結界鎧を纏っているから 紫外線の攻撃も防いでいるからだと思います。
化粧水も一番スタンダードなモノは使ってるし、これ1本で何歳まで耐えられるかと思っているけど、まあそのうちそれも自作できるようになればいいかなと思ってる。
優しい花の香りがするマッサージオイルでしっかり磨いて頂いたおかげで、ツルピカ女児の完成ですよ。
パジャマというか ネグリジェのような寝衣まで用意してくれていました。
「侯爵令嬢もかくや という美しさですわ」
「ええ、お色味もあってお人形のようで愛らしいですわ」
ありがとうございます。
髪を乾かし、化粧水と美容液?トロッとした液体を仕上げに塗られて完成の様です。メイドさんたちはこのままお風呂場のお片付けがあるようで、エミリンさんと一緒にお父さんの待つ客室に戻りました。
マッサージ中にちょっとウトウトしてしまったけど、ダンジョン中でもないからね、ちゃんと魔力操作の訓練をしてから寝たい。
エミリンさん達におやすみなさいの挨拶をして 寝室へ。
明日は8時から座学だって。朝食は7時だというからかなりゆっくりだね。
早起きしたら何しようかな、水魔法の行使中に寝てしまっても バシャンすることが無くなったので ベッドの上で水人形を2体作って 戦わせる練習。
まだ全く違う動きをさせることは難しく、左右反転した同じ行動しかさせれない。小さいお父さん二人が組手をしているところを眺めていたら いつの間にか眠りに落ちていた。




