第243話 授業の計画 前半
お部屋に戻れば マジックバックから “ダンジョンの不思議” を纏めたノートを取り出す。
このノートには ダンジョンで起きた色々を書き込んでいて、既に解決しているものもあれば していないものもある。
後は作りたい物、使えるようになりたい魔法、鑑定をしたくて頑張ったけどスケルトンの自分しか見えなかったあれはどうにかならないかなど、魔法の失敗などをまとめたノートも取り出しておく。
「いつの間にか 随分ノートも増えたな。こっちは失敗した魔法と作りたいもんか。
魔法に関してはヴィオの想像力はケタ違いじゃから やりたいようにできておるとおもっとったが……。
浮遊なあ、風魔法を下から当てて浮かび上がるんとは違うっちゅうことじゃな」
興味津々だったお父さんにノートを見せれば 失敗と希望のノートを選ばれた。
なんか子供の夢ノートみたいでちょっと恥ずかしいやつだけど、ここは魔法が使える世界だからね、あるのかないのか、出来るのか 出来ないのかだけでも知れたら嬉しいのだ。
コンコンコン
「失礼いたします。お茶の準備が整いました」
「ああ、ヴィオ嬢 先程はすまなかったね。考え込むと集中しすぎる癖があるが 気にしないでくれて良いからね。さて、まずは休憩か、ご一緒しても?」
家主に許可を出すことになるとは思ってなかったけど どうぞですよ。
エミリンさんが 陶器のポットから トポトポとお皿付きのカップにお茶を注いでくれる。
普段飲むお茶よりも ずっといい香りが立ち上っているけど、これ 高級品だったりしません?
そっと目の前に置かれたカップに 貴族のお作法があるのではないかと緊張してしまう。
お手本にしようと お父さんをチラ見したけど、お父さんも作法は知らんとばかりに首を振っている。
「はははっ、お茶の作法など 私も気にしていない、普通通りに飲んでくれたらいい。
食事も まあ あまりにも下品な食事方法はあれだが、君たちはそうではないことは既に知っているからね、気にせず自宅だと思って寛いでほしい」
自宅だと思うことはできそうにないですが、作法を気にしないで良いというならありがたいです。
高級な食器っぽいし、あまり音を立てない様にだけ気を付けて ゆっくり口を付ける。
ベリー系の少し甘みのある紅茶だろうか、何だか懐かしいような気もするお茶は とても美味しかったです。
「さて、スティーブンから言われたと思うけど、ヴィオ嬢の魔法レベルが思った以上だったからね、先に希望を聞こうと思うのだが。
おや、それは ?
“ダンジョン不思議ノート” と “使いたい魔法、失敗魔法、作りたいもの集” ですか。少し拝見しても?」
お茶菓子を出してくれたところで エミリンさんは退室し、先生の隣にスティーブンさんも座った。
そして私の手元にあるノートに気付いた先生が ノートの表紙を読み上げる。
ちょっと恥ずかしいので 読み上げないで欲しいけど、これから教えてもらう人に隠す理由もないと思い直し 先生にノートを手渡した。
先生は 1冊をスティーブンさんに渡し、ダンジョン不思議ノートからめくり始める。
「ボス部屋に入るまでの時間……、ほうほう、明るくなってから始まるというのが決まっているのですね?
これは上級や特級でもでしょうかね、確認してみたいですね。
部屋の扉の速度ですか……、演出?
まさか、ダンジョンは命のやり取りもあるのに、いや、しかしこちらの並び順のところにも演出?と書いてあるな。そんな風になっているのか?これは気になるな。
中から見える外は 実際にある外ではない? そうなのか?
これも現場検証をしなければ分からなそうではないか?」
スティーブンさんは 黙々と読んでいるんだけど、先生は 一つずつにツッコみを入れながら読んでいます。多分無意識に呟いているので、お父さんも隣で笑ってます。
未だに謎な部分は多いもんね。これはダンジョン研究をしているという先生たちと議論してもらいたいよね。
でも 上級や特級に行ったことのあるお父さん、テーアさん、タディさんですら 演出説に異論がなかったから 多分演出なんだと思いますよ。
お茶もすっかり飲み干したころ、やっと先生の顔が上がった。
まだ20個くらいしか不思議は書いてないけど、自分の中で検証をしていたから随分時間がかかったね。
「ヴィオ嬢、このノート 写しをもらっても良いだろうか?
私はダンジョンに関しては あまり詳しくなくてね、ダンジョンを専門で調べている教諭たちがいるから 是非この不思議を共有したいと思うんだが……」
願ったり叶ったりですよ。是非 偉い先生たちと その先生たちから依頼されるであろう上級冒険者たちで 謎を解明してもらいたいです。
という事で、私の謎に関しては 学園の偉い人達により検証されることになりそうです。
「お嬢様、私はこちらのノートに関する質問ですがよろしいですか?」
「ああ、そちらもまだあったね。スティーブンの意見も聞きたいから 私も一緒に聞かせてもらおう」
「質問はもちろん お聞きします。でも、あの、えっと。
お嬢様って言われるのは慣れてなくって、私平民ですし、出来れば ヴィオと呼び捨てで呼んでもらえると嬉しいです。スティーブン様は先生ですし」
お貴族様に畏まれるのは非常に居た堪れない。
呼び捨てで呼んで欲しいとお願いしたら 客人である事と、あれだけの魔法を使える人だから尊敬に値すると言われ、先生と同じようにヴィオ嬢と呼ばれることになってしまった。
「スティーブンは 学生たちからブン先生と呼ばれていたからね、ヴィオ嬢もそう呼んであげると良いよ。
それで?
スティーブンはヴィオ嬢のノートから何を聞きたかったんだ?」
名前呼びをお願いしたら まさかのあだ名呼びを解禁されました。
まあブン先生は短くて呼びやすいから良いかな。
「ええそうでした。使いたい魔法も 夢があっていいのですが、失敗した魔法のこちらです、鑑定を使おうとして スケルトンだった。とはどういうことでしょうか」
ブン先生の質問に、自分しか読まない筈のノートだったからこそ 知らぬ人が読めば意味不明になる者だった事を知る。恥ずかしい。
私の黒歴史は置いておいて、ひとまず失敗魔法の事を伝えてみた。
「木魔法でのそれらは知っていましたが、まさかそれを人体で実験してみようと思うとは……。流石ヴィオ嬢は考え方が違うね。
それで身体の中が見えたけど アスランが試したら魔獣は死骸にしか使えなかったという事だったんだね?」
「そうですね、多分 生物には魔力抵抗があったんだと思います。サマニア村周辺に普通の動物というのが居ないので、基本的にヒトを見れば攻撃的に襲ってくる相手ですから ゆっくり実験もできなかったんだと思います」
私もダンジョンで試そうとは思ったことが無いし、あの実験はあのまま終了してしまっているのだ。
「ただ、お医者さんが使えるようになったら 病気の発見とかできそうだなって思ったんですけど、ヒトに使った事が無いので 魔獣と同じように反発がある可能性も否定できないかなって思ってます」
私の説明を聞きながら ふんふんと頷き、だんだん目がキラキラしてきているドゥーア先生。なんだか不穏な気配がしておりますよ?
「では 私で実験してみましょう。魔獣とは違って 受け入れようと思ったら他人の魔力を受け入れられるのか、受け入れた後に何らかの副作用があるのか、そしてその魔法が私に発動するのか、ああ、新しい魔法を自分の身に受けることができるなんて、130歳を超えて 新しい体験が出来るなんて 私はなんて幸せ者なのだろうか!」
恍惚とした表情で天を仰いでいますが、それって 間違いなく私が先生に実験をするって事ですよね?
「お父さん……」
「ヴィオ、不安じゃったらやめておいてもええと思うぞ?」
「待ってください! その魔法はヴィオ嬢しかできないのですよ。まずは受けてみないと分からないではないですか」
お父さんが 止めても良いと言ってくれたけど、待ったをかけてくるドゥーア先生。
ああ、あの時のサブマスと同じ顔してる。
ギルマスのように ブン先生が止めてくれないかと 助けを求めようとしたら、ブン先生もキラキラしてました。
ああダメだ、この人 先生の助手だったんだ。同類じゃねえか。
という事で、まずはサブマスに見せたように 私自身が自分にスキャン魔法をかけるところを見てもらい、魔力視をしてもらうことに。
その後に 木魔法で 木を見てもらい、ご自身に魔法をかけてもらうようにお願いする。
私が先生にかけるとしたら その後だ。
どんな感じで魔力が動くのかを確認してもらってからじゃないと怖すぎる。




