第236話 フルシェ遺跡ダンジョン その18
フルシェダンジョンに潜って12日目、おはようございます。絶好のボス日和です。
まあ 遺跡ダンジョンは洞窟タイプなので 朝晩も天候すら変化はないんですけどね。
昨日はお父さんたち3人が見張り番をしてくれたので、ケーテさん達も 気力、体力、魔力もバッチリ全回復です。
準備万端整えて 6人で20階層へ。
ズモモと威圧感抜群のボス部屋の扉に6人で触れます。
ギギ ギギ ギギギ
いつものようにゆっくり開く扉。ケーテさんは緊張気味だけど 中ボスのお部屋の時ほどではない。
中に入っても真っ暗闇、静かな室内に扉が閉まる音だけが響く。
段々明るくなっていく室内に 待っている敵の姿が鮮明になってくる。
「ね、ちゃんと強いもの順に並んでるでしょう? 皆お行儀良いよね」
「んふっ、ちょっ、緊張感が飛んでいくわ」
「ほんとだね、皆が見えやすいようになってるし 背の高さ順にもなってるのかな」
よしよし、ボス部屋演出説に賛同する人が順調に増えていますよ。
もっとダンジョン様の努力を皆が認めてあげないとね。
待機していた魔獣は こん棒のような武器を手にしたハイオークが2体、大きさ的にハイシカーマンティスが5体、だけど多分1体は目の色がおかしいから変異種の可能性がある。それから フローロックリザードが5体。結構大所帯ですよ。
「ハイオークと 変異種の可能性があるマンティスを隔離するね。ケーテさん5匹分いけそう?」
「ええ、行けるわ」
「俺も4……、いや2体行くから 2体分は阻害お願い」
明るくなりきる前に最終確認。ガルスさんも確実にいける数で2体って事だね。
ケーテさんもアースランスは5本分だから 出来るだけ威力が高くなるように詠唱を始めている。
「わかった、【アイビー】、【エアウォール】【ウォーターウォール】」
明るくなると同時に ハイシカーマンティス2体を蔦魔法で動けなくし、ハイオーク2体は風の壁で包み込む。茶色い目玉のシカーマンティスは 水の壁で包み込み、壁の厚みを増量しておく。
「〈……彼の敵を貫け〉【アースランス】」
私の魔法発動とほぼ同時に詠唱を終えたケーテさんも トリガーを唱えた瞬間、最前列に並んでいたフローロックリザードの腹の下から 中々太い土の槍が生え、トカゲ5匹が串刺しとなった。
「よしっ!」
「ケーテ 気を抜かない!」
思わず声が出たケーテさんに檄を飛ばすのはテーアさん、こんなに上手く魔法が決まったのは初だから 喜んでしまっても仕方がないけど まだ最中だからね。
そうこうしているうちに ガルスさんはハイシカーマンティスを2体仕留めており、アイビーで動けなくなっている2体も 冷静に首を刎ねていく。
ハイオークはドンドンとこん棒で風の壁を殴っているけど、壁は揺れるだけで割れそうにはない。
「ケーテさんとガルスさんに オークは任せていい?」
「了解、変異種は頼むね」
二人がオークに駆け寄るのを見て 私は久しぶりの変異種に向き合う。
前に変異種と会った時は 気付いたら壁を抜けられていた。
あれから訓練を重ね、魔力操作も上手になったお陰で まだ壁は破られていない。土属性のマンティスだったらしく 壁の中で土の槍を作って 水の壁を破ろうとしているけど、壁の外側に魔法を作ることはできないのかな?
まあ 待つ理由もないので 殺るけどね。
しかし 土属性の相手に砂の攻撃は効くのだろうか……。
効くだろうね。ゴーレムにも効果があったし。
ということで サンドウィップで水の壁の中にいる シカーマンティスを安全に切り落とす。
鞭が届く瞬間、危険を察知して 両腕をクロスして防御態勢をとったけど、その腕ごと頭部がスパンと飛びました。
自分で作っておいてなんだけど、砂の鞭 マジで凶悪すぎん?
絶対人に向けて使っちゃダメな武器です。
オークとの戦闘はまだ続いています。
だけど相手は壁から出れないし 安全に攻撃できるから 大丈夫でしょう。
その戦い方は卑怯?
何故危険を敢えて選ぶのか分かりません。
ゲームでも 縛りプレイを楽しむ人や、難易度をあげて楽しむ人もいたけれど、私は安全第一、攻略本もしっかり読んで 全てのクエストを漏れなく回収するタイプの人間です。
なのでオフラインタイプのRPGが好きです。同じゲーム(特に竜の探求シリーズ)は 全クリアした後も セリフすら覚えているくせに何十回も繰り返しできる人です。
あぁ、そんな事を考えているうちに 決着がついたようです。
ドーンと倒れていくオークが キラキラエフェクトで消えていく。
そして残ったのは こん棒と 葉っぱに包まれた肉。
「肉……。お父さん、オークの肉って食べれないんだよね?」
「そうじゃな、ナイト以下は無理じゃな」
ちょっと興味本位で肉の臭いを確認。
結界解除して クンクン。
「おぇぇぇぇ~、クッサ、クッサ~~~~!」
何だろう、古くなった脂というか、おじさんの耳の後ろの臭いというか、満員電車で目の前に立つ べた付いたバーコードの臭いというか、とてもじゃないけど食べたいと思う臭いじゃない。
「え、そんなに臭いの?」
「ええっ、ケーテ 止めておいた方が……」
「将来の為に色々経験しておきたいわ」
ガッツがありますね。ケーテさんの貪欲さは素晴らしいと思います。
そして クンカクンカした後は めっちゃえずいてます。
テーアさんと タディさんは そんな娘を見て爆笑してます。
変異種の魔石と 茶色く輝く鎌を回収してから ボス戦後のご褒美宝箱をオープンです。
「おぉっ!」
「え、これって」
「ご褒美 いっぱいだね」
お父さんたちも少し驚いていたけど、変異種もいたからボーナスなのかな?
かなり沢山のお宝が入ってました。
魔力、体力の回復薬が3本ずつ、鉱石が数種類、そして 場違いな感じで肩掛けのポシェット。
腰に吊り下げる感じのではない、女子がお出かけの時に使う感じの、ワンピースに似合いそうな感じのポシェットだ。
これは 私かケーテさん用だろうけど、私はお母さんの鞄があるからいらないなぁ。
テーアさんが調べてくれた結果、ポシェットはマジックバックだった。まあ ボス戦のお宝に普通の可愛い女児用鞄があっても ダンジョン様にツッコみしかでなくなるけどね。
容量はお部屋1つ分くらい。小さくはないけど 大きくもない。時間停止は無し。
という事で、これはマジックバックを持っていないケーテさんにあげることになりました。
ケーテさんは貴重な魔道具だからと遠慮してたけど、私にはお母さんの形見の鞄があるから大丈夫と告げて、販売した時の予想販売額の2/3のお金をもらうことで決着した。
男性でも使える感じだったら お父さん用に良かったかもだけど、女児用はね。
あの大きさなら 色を変えて 学園に行くときにも使えるんじゃないだろうか。是非活用してほしい。
回復薬は1本ずつ分けて、鉱石はケーテさん達にあげた。私たちはノハシムで掘ってきたのがあるからね。分配も終わったところで 全員揃って ボス部屋の隣に空いた小部屋へ。
キラキラと光に包まれれば 久しぶりの壁画のお部屋に到着だ。
この部屋はそう言えばスライムしかいなかったね。
「まだ2週間なのか、もう2週間なのか、この壁画を眺めてたのはついこないだだと思ったけど、あまりにも濃い日々だったわ」
「この半年、それなりの数のダンジョンを体験させてきたが、今回が一番 経験値は上がったな。
俺たちまで 新しいことを学ぶことになるとは思ってなかった。
アルク、ヴィオ、本当にありがとうな。
次にまた潜る機会があったら 上級ダンジョンだな」
テーアさんがしみじみと、タディさんは楽しそうにそんな事を言ってます。
タディさんが 拳を突き出してくれたので、私もグーにした拳を ゴッチンコしますよ。ふふっ、金ランクと銅ランクでこれが出来るなんて、すごく嬉しいです。




