第232話 フルシェ遺跡ダンジョン その14
「ヴィオの鞭みたいに 魔法武器を持たせた方が良いかしら」
腹休めの休憩中、テーアさんがお父さんに相談している。
魔法武器とは特定の魔法が使えるように魔石がセットされているような属性武器とは違い、魔力を通しやすくする武器の総称で、私の鞭は 魔物素材で作られており、本体はベルトとして使っている部分だけ。それより先には 私の魔力をグリップにある魔石に通すことで 流した属性に即した魔力が鞭の形で現れているのだ。
慣れたら属性武器より 自由度が高く使い勝手は良いと思うけど、慣れるまでは安定しないし そもそも発動できない人もいるらしいから 良し悪しだと思う。
「どうじゃろうな、サブの武器として持っていれば 便利じゃが 作るとなると高額じゃし、ケーテ程若い子が持っておったら 狙われやすいじゃろうな。
ガルスもガタイは良いが まだまだ若いのは顔を見れば分かる。お前さん達と一緒に行動しておるうちはええが、ソロになった時は武器を狙う輩が来るじゃろうな」
「そうよね……。悩ましいわ」
「お父さん、お兄ちゃんたちの武器は魔法武器じゃなかったよね?」
「そうなのか? トンガ達はどんな風に対応してたんだ? お前たちノハシムにも行ってたんだろ?」
「そうじゃな、硬すぎる相手には魔法を使うようになったな。ノハシムのゴーレムで散々練習しとったぞ」
無双し過ぎてヒャッハー!って感じだったよね。
今 三人で潜っている筈の上級ダンジョンでは どんな感じになってるのか覗き見してみたい。
「ゴーレムに魔法? あれって魔法耐性があったわよね。もしかしてヴィオの鞭みたいな感じ?」
テーアさん達は 剣でズバンといくらしいけど、お兄ちゃんたちの剣だと刃こぼれするって言ってたもんね。土魔法よりも4人の得意属性は水なので、【ウォータージェット】の魔法をお伝えすることにしました。
水をタラタラとか、ダバーっとするんじゃなくて、ビャーってすればいけるよ。
という説明では分からなかったようなので、実演することになりました。
「お水をこうして流しても攻撃力はないけど、出口を細くしたら……ね?土に穴が開くでしょう。
これをもっともっと細くして 後ろからの圧も強くすれば。
【ウォータージェット】
ね? 水だけど 岩でも切れるようになるんだよ」
やってることは さっきの説明と同じなんだけど、実演したらわかったらしい。これを最初からうまく伝えることができるサブマスって凄いよね。
お父さんに土魔法で土嚢を作ってもらい ウォーターでホースから出す水を再現。段々先端を細くすることで 土嚢が崩れていくのを見て 水の強さに気付いたらしい。
土魔法で大きめの石というか岩を作ってもらい、ジェットで真っ二つに切れたのを見て 練習する魔法のひとつが加わったようです。頑張ってください。
「さて、この階も 先行者がいたから魔獣が少ないわ。
今夜の拠点は12階で良いでしょう。魔獣ランクが上がっているから もしかしたら先行者に追いつくかもしれないけど、それもダンジョンの経験になるわ」
二人の体力気力も回復したところで 今後の方針を再度確認。
先行者に追いつくのは時間の問題だろうという事になった。もし同じセフティーゾーンで休憩することになれば、テーアさん達がお料理をするから大丈夫だと言われたよ。
保存食になるか テントの中でサンドイッチになるかと思ったんだけど、それは本人たちも嫌だったらしく 「温かいスープは外せない」のだそうです。
ということで、残りの魔獣を一掃しながら 上階を目指す。
ケーテさんの槍では 一度でオークを斬ることは出来ないけど、肉の厚みが薄い足首を攻撃し バランスを崩したところで 目か口腔内を狙うようにしている。
ガルスさんは流石の一言。オークの厚みをものともせず 斬りつけてます。
「ガルスさんのパワーがあれば ゴーレムも斬れそうじゃない?」
「いや、あれくらいの力じゃ無理だな。オークは脂肪が厚いから 軽い剣じゃ弾かれるが 脂肪層を過ぎればただの肉だ。
だが ゴーレムは中も全部 硬いだろう?あれくらいのパワーだと 核まで届かん」
へぇ、そういうものなのか、中々難しいもんだね。
私の鞭攻撃は しばらく使用禁止令が出たので、オークが出た時は 兄妹のどちらかが、それ以外が出た時は順番に討伐するようにしている。
順番が来た時に 複数匹が出てきたとしても 複数匹に対する訓練という事で 他の人たちは手出し無用という 中々スパルタな感じです。
だけど ケーテさん達も ボス部屋での複数匹からの攻撃に苦戦したことから この訓練には文句を言うことなく頑張ってます。
「あ、罠発見。
んんんん?
テーアさん この印は石が出てくるやつだったよね?この場合は どこから石が出てくるの?」
床の一部に罠があるのを発見。丸い印は石か岩だと聞いたけど、それは壁の罠の時だった。床で石は初めて見たけど どこから出てくるんだろうか。
テーアさんが私の問いかけに 罠の近くに来てくれて、興味深そうに皆も集まってくる。
「あぁ、ヴィオ これは石じゃないの。床にあって この横長の丸印の時は 落とし穴ね」
落とし穴とは中々ショッパイ罠だと思ったんだけど、想像していたのではなかった。
「この階での落とし穴って事は ボス部屋に再挑戦する感じね」
「えっ!?」
「中級ダンジョンくらいじゃ 1~2階分くらいしか落ちないけど、それこそ 上級や特級だと 隠しボス部屋だったり、数階分の落下をすることもあるみたいよ」
「え、それって死なない?」
「そうね、死んだ人の記憶は分からないけど、生還した人たちは死ぬかと思ったって言ってるわ。
高所から落ちた人は 風魔法をクッションにして助かったって言ってたわね」
隠しボスに関しては そこに落ちた冒険者が(生還した人ね) 銀ランクのタグがパーティー人数分落ちているのを拾ったことで判明したらしい。
落とし穴……別の言いかたはないかと思ったけど無いね。
そして この目の前の罠に落ちれば 1階分落下、つまりボス部屋前に落ちることになるようだ。
転移して帰りたい人にはいいかもしれないけど、この距離なら 階段を使うのとあまり変わらないからうま味はないね。
とりあえず どんな感じに落とし穴が出来るのかを見てみたいと言ったら 了承してもらえたので 【ロック】を唱えて罠タイルに落としてみた。
カツンと石が当たった途端 マンホール大の穴が開き 数秒で穴が消えた。
「……まさかの一人用だった。これ、1人だけ落ちたのが回復役の人だと詰むね」
テーアさん達も 罠を試したことはなかったらしく まさか一人だけが落ちる落とし穴だとは思ってなかったと驚いていた。
「以前に聞いた人は その場所全体の床が抜けたって言ってたし、ここは 罠の体験用ダンジョンとも言われるところだからかもしれないわ。
もし落ちたのが回復役だとしても、ここなら直ぐに階段を下りて助けに行けるもの」
そう言われて 確かにココならそれが可能だと思った。
しかもこのダンジョンは上に行くにつれ強度が上がるけど、下におりるダンジョンの方が断トツ多い事を思えば、そのダンジョンでの落とし穴は マジで危険だと思う。
「落ちそうになっても 蔦で直ぐに登れる練習をしとく必要がありそうだね」
「その前に 罠に気付いて 落ちん練習が必要じゃな」
間違いないね、そうします。




