第231話 フルシェ遺跡ダンジョン その13
中ボスとの対戦を終えたら ボス部屋の隣室へ移動。この部屋にいる間は ボス部屋との通行が出来ちゃうから 早く出ないと次の準備ができないだろう。
1階へは戻らないから 転移陣は無視して 手前の部屋から階段を上る。
「あ!お父さん、私試してみたいことがあるんだ」
11階に到着し、とりあえず【索敵】をしてから お父さんにやりたい事を告げれば 笑いながらも了承してくれた。
そのまま 今上ってきた階段を下り 先ほどの小部屋へ戻ってきた私たち。
「おぉ~!もう壁が戻ってるよ」
「おぉ、確かに。部屋から居なくなった事でそうなるんか、次の階に移動したことでそうなるんか 分からんが面白いなぁ」
転移陣も消えており、ボス部屋に再挑戦ができるように 10階フロアに繋がる扉だけがある。
既にケーテさん達がボス部屋に入っているのかは不明だけど、音は全く聞こえない。
どうやら防音は抜群のようだ。
満足したところで もう一度11階へ。
洞窟が続くんだけど、ここからは上層階ということもあり 魔獣の種類が変わる、というか増える。
今までのもいるけど それにプラスして オーク、シカーマンティス、フローロックリザード、ウルフが出てくるようになる。
通路も複雑化しており セフティーゾーンとなる小部屋も 2つある。
「とりあえず どっちかの部屋で待っておるか。ここに居ってもしょうがないしな」
「そうだね、索敵で私たちの場所も分かるし それで良いかも」
ということで ケーテさん達がボス戦の疲れを癒せるように 料理を作って待っていることにしたよ。
1日早く動いているらしいパーティーのお陰で、この階も魔獣は少なめ。
多分 歩く通路の魔獣を狩っているだけで、フロアの魔獣を一掃してはいないから、周囲に散らばっていた魔獣が また 全体に満遍なくうろついているって感じだね。
耳が良くて足が速いウルフは、多分先行していた冒険者たちに気付いて駆け寄り 倒されているのだろう。1匹も残っていない。今居るのは 耳が良くないシカーマンティスと、足が遅いオークとリザードぐらいだ。
リザードはランス系の魔法で、オークは鞭で、マンティスは短剣でそれぞれ仕留めながら 個室へ向かう。
「お父さん、ケーテさん達は 何体ずつと戦ってるだろうね」
「まあ ヴィオの時より多いっちゅうことはないじゃろうなぁ」
それなら大丈夫かな。まあ 何かあっても 金ランクが二人もいるから余裕だと思うけどね。
そんな話をしながら軽食とスープを作っている。まだお昼ご飯にも早い時間だからね。
昼食の仕込みとして から揚げ用の肉の味付け、野菜の皮むきなどをしていれば 索敵範囲に ヒトの反応が一つ二つと増えていく。終わったようだね。
しばらく待てば 想像通り ケーテさん達が到着した。
「ケーテさん、ガルスさん、お疲れさまでした」
「疲れた~、ヴィオったら あんなゴブリン軍団とどれだけ早く戦ったの?私たちそんなに長く待ったとは思わなかったのに……」
「ケーテ、ボス部屋は 入る人の人数に合わせてるから ヴィオちゃん達は二人の計算だったんだと思うよ。俺たちは 父さんたちもいるから4人だっただろ?」
グッタリ疲れ果てた感じの兄妹には お食事とスープをすすめ ゆっくり食べてもらいましょう。
で、テーアさんに ボス部屋に入れるようになるまでの時間を聞いてみた。
「そうね、ヴィオたちが入って15分もなかったんじゃないかしら」
「という事は 準備時間に5分弱っちゅうことじゃな。思ったより準備時間が早かったな」
私は戦闘に集中してたから 時間は計ってなかったけど、お父さんが計ってくれてたからね。10分もかかっているとは思わなかったけど、ナイトに時間がかかっちゃったんだろうね。
「ええっ!?そんなに早かったの? そんなに数が少なかったの?」
パンを急いで飲み込んだケーテさんが驚いているけど、少なくはなかったと思うよ。
「ん-、ナイトが5体、メイジが3体、ハイが10体だったよ」
「「「「え?」」」」
その答えに驚いたのは ケーテさん一家の皆さん。
聞けば ケーテさん達が対戦したのは ナイト3体、メイジ2体、ハイゴブ6体、ゴブリン4体だったというので 私たちの方はミスだったんだろうと納得。
というかゴブリンはうちにはいなかったけど 流石に私たちの時から減らし過ぎだと思って調整したのかな?
「なんで ヴィオたちにそんな多かったのかしら……」
「多分10階に来た人たちが一緒に来るだろうって準備してたんじゃないかな。
なのに入ってきたのは二人で、かといって 既にスタンバってるところから隠れる訳にもいかないし。って事だったんだと思う」
真っ暗な時間がもう少し長ければ ハケることもできただろうけど 生憎私とお父さんは夜目も利くし 動いていたら気付いたと思う。
「準備……、確かに言われてから入ったら そう見えたけど、くくっ、まあ ボス部屋の階層に一緒に来た奴らが別々に入るって事はまずないからな。ゴブリンたちも焦っただろうな」
タディさんは演出に納得してくれたみたいだね。
ケーテさん達は そこまで楽しむ余裕はなかったみたいだけどね。
「ちなみに ヴィオちゃんはどんな風に戦ったのか聞いても良い? あ、冒険者の秘密であれば言わなくていいから」
遠慮がちにガルスさんに聞かれるけど、今回一緒にいる時に見せている事と一緒だから隠すことはない。入ってからの討伐方法を伝えたら、魔力操作をもっと訓練して スムーズに使えるようにしたいと気合を入れ直していた。
二人もメイジとナイトを分断してから討伐を開始したのは一緒。
だけど ゴブリンとハイゴブリンと戦っているうちに 壁の維持をするための意識が疎かになっていて、ナイトとメイジが出てきちゃったらしい。
「突然来ると思ってなかった魔法攻撃が来たことで焦っちゃって、ゴブリンナイトからの攻撃に対応するのが遅れちゃったの」
どうやら多少の怪我も負ったようで、既に回復薬で治療済みとのこと。
その後は盾役をケーテさんが行い、討伐をガルスさんがやることにしたらしいけど、最初のスタンバイ状態とは違い、既に敵もバラけて動いているから 水の壁を複数出さなければいけなくなり かなり維持が大変だったらしい。
「最初の立ち位置は 纏まってるから あの状態でしっかり強力な壁を作ることが出来れば もう少し時間はかからなかったんだけど、まだまだ訓練が必要だわ」
バラけられると面倒だよね。
ナイトを最後にやっつけた時も、風の中に入ってる2体を其々分断しただけで、ある程度まとまってたからこそやりやすかった。
私も今後気をつけようと 二人の反省を聞いて思う所存。
「アルク、ヴィオは何で銀ランクに上げないんだ? この実力、銀の初級は越えてるだろう?」
「ヴィオはまだ洗礼式も終えてない年齢なんでな。
ただでさえ 可愛くて目立つのに、余計な視線は増やしたくない。じゃから来年 洗礼を終えたところで銀ランク試験を受けさせるつもりなんじゃ。
それでも早いんじゃが、金ランクになるまでは儂が一緒に居ればええと思ってな」
サブマスも一緒に冒険するかもしれないし、そうなれば魔法は使い放題使っても、きっとサブマスが目隠しになってくれるはず。
テーアさんも ギルマスたちと相談しての予定だと言ったら納得してくれた。
銀ランクでやっていけると思ってもらえるのは非常に嬉しいです。




