第227話 フルシェ遺跡ダンジョン その9
テントの準備をしてから 料理をはじめれば、途中でテーアさんが小部屋に来て テントの準備(というか出しただけ)をして もう一度出ていった。
あぁ、索敵で 私たちがテントを張ったのが分かったんだろうね。
「ガルスさんは 自分でテントを張ってたよね? 疲れ果てて戻ってきてから 頑張って設置するの大変そうだね」
「ははっ、確かにな。まあ じゃが、多分昼めしの後 大人は休憩をせんじゃろうし、二人を寝かせるためなんじゃないかのう」
あぁ、確かにそうかもしれないね。
「お父さん、水生成魔法のお水から 魔力を抜かなかったらってやつ、ケーテさん達には教えるの?」
「あ~、そうじゃなぁ。ヴィオはどう思う?」
「ん~、テーアさんと タディさんだけなら良いとも思うんだけど、ケーテさんが辺境伯の護衛騎士になりたいって目標があるなら 教えない方がいいのかなって思ってる」
ちょっと躊躇いながら話せば お父さんは頷きながら 視線で先を促す。
「騎士って 主を決めたら その人に忠誠を誓うものでしょう?
既に索敵、盾の使い方、魔力操作の練習方法って 結構他に言わない方がいいよって事を伝えてるじゃない?
ケーテさんは 面倒見が良くて 優しい人だから、主に嘘をつくというか、事実を隠し続けるのがしんどいと思うんだよね。だったら最初から知らない方がいいのかなって思ってる。
回復手段は沢山ある方がいいとは思うんだけど、他に代用が無い訳じゃないし」
ちょっと言い訳みたいだけど、回復薬はあるから 魔力水が無くても何とでもなる。それこそ食事をして寝るだけでも回復するんだから。
「うんうん、ええと思うぞ。儂も教えるつもりはなかったからな。
金ランクの両親がおるからな、もしかしたら二人が思いつくかもしれん。それを子供らに教えるのは自由じゃと思う。じゃが、二人とて 教えんかもしれんしな。
既にここまで ヴィオは 謝礼金をもらってええくらいに 大切な情報を教えてやっとるしな。十分じゃと思うぞ」
ワシワシと撫でられる。
お父さんとギルマス、サブマスには 殆ど隠し事はしていない。
しているとすれば お母さんの荷物にあった不思議ステッキの事と、鍵付きの箱があった事。実は冒険者ギルドではなく 各地の薬局みたいなところで 作った薬を転々と売り歩いていた事、私に前世の(推定成人していた)記憶がある事くらいだ。
それ以外の人たちには 言えること、言えない事、言わない事など色々ある。
きっとそれは 私が大人になって 自衛力が付けば言えることになるんだろうけど、現時点では言えない事が多い。
それを罪悪感と思ってしまうのだけど、お父さんは気にするなと言ってくれる。
情報には価値がある、だから売るのも売らないのも こちらが判断して良いのだと言ってくれるのだ。
小麦をコネコネして ピタパンの種を大量生産しているところで ケーテさん一家が戻ってきた。
「おかえりなさい、どうだった?」
「ただいま、いい匂いだわ。
ええ、盾を張るまでの時間は随分早くできるようになったわ。隔離だけが目的なら 水の盾で、パニックルームみたいに ちょっとでも数も減らしておきたいときは 風の盾にすることにしたわ」
おぉ、それは良いと思いますよ。
風の盾も攻撃をって思うとちょっと魔力も多めにいるしね。魔力に自信が無い間は 確実に抜け出てこれないようにするだけで良いと思う。
「でも 慣れない魔法をこれだけ使ってるから かなりフラフラになっちゃうね。ケーテの方がそうでもないってのが お兄ちゃんとして非常に情けなくて悲しい」
ガルスさんは どう見てもパワーファイターだもんね。
うちのお兄ちゃんたちも これまでは魔法を使う事なんてほとんどなかったって言ったし、使わなかったら 魔力も増えないし、魔力操作の訓練をしてなければ 余計に魔力を多く使っちゃうもんね。
「魔力操作が上手になれば 一度に使う魔力量も調整できるようになるし、発動も早くなるよ。
それに 繰り返し魔法を使ってたら 魔力も少しずつ増えるしね。
お兄ちゃんたちも 一緒にダンジョン旅して 随分増えたって言ってたもん。ガルスさんも 訓練頑張ってね」
魔力切れギリギリまでこうして使ってるなら きっと魔力も増えてるはず。
まだまだ成長期のガルスさんだもの、グングン伸びる筈ですよ。
そんな話をしながら 既に調理を済ませたお料理を振舞います。
「うっま、これなんだ? 野菜がこんなに美味いと思う日が来るとは思わなかったぞ」
「ええ、これも、こっちのも 初めて食べる味付けだわ。どんなソースを使ってるの?」
今日は時間があったので、醤油と味噌を使った料理を作りましたよ。あのウツボカズラモドキは有名だから 作っているところを見られると 嫌がられると思っていたので 丁度良かったです。
ケーテさんと ガルスさんは 黙々と静かに、しかし凄いスピードで食事をしているので 美味しいと思ってくれているようですね。
醤油味で下味をつけたから揚げ、クッシャーの煮物、キャベチとビッグピッグの味噌炒め、豚汁風のスープ(勿論肉はビッグピッグ)
から揚げは争奪戦になると思っていたので 大皿ではなく 中皿5枚で其々に用意したけど、ケーテさんですら 小山を平らげる勢いです。凄いね!から揚げ大人気だよ。
「美味いじゃろう? そうじゃろう、そうじゃろう。儂もあの調味料がまさかこんな美味いとは思ってなかったんじゃ」
お父さんが勿体ぶってます。
まあ長年ハズレと言われ続けた素材だもんね。ケーテさん達に馴染みはないかもしれないけど、テーアさん達なら絶対に知っている筈だもんね。
「アルクがそんな風に言うってことは、この調理方法を考えたのはヴィオなのか?」
「というか お母さんが作ってくれてたお料理の味なの」
「あぁ、ヴィオのお母さんも元冒険者だったって事だったものね、で?アルクさん そう言うって事はダンジョンの素材って事でしょう? 何? 秘密かしら?」
タディさんに答えたら テーアさんも お母さんの情報は知ってたみたい。
村の大人たちには私の生い立ちが軽く説明されてるって事だったしね。
「秘密ではないが 驚くと思うぞ。それでも聞きたいか?」
お父さんの言葉に 食事の手を止めて4人が真剣に頷く。
美味しいものの情報って大事だよね。
ここでお父さんに言われて 私のマジックバッグから 味噌と醤油を取り出す。普段使いしているのは 壺に移し替えてるんだけど、それだと分からないだろうから、取り出したのは ウツボカズラモドキそのものだ。
「はぁ!? それハズレの袋じゃねえか」
「ええ、しかも茶色って臭いアレよね? えぇっ!?それがコレ?」
期待通りのリアクションありがとうございます。
お父さんも嬉しそう。ガルスさんも少し驚いてるけど、ケーテさんはイマイチ。これは豊作ダンジョンで残念な思いをした事がある回数の差かもしれないね。
「ああ、から揚げと 煮物には こっちの黒い袋を、肉炒めとスープは こっちの茶色い袋を使っとる。
ヴィオの母ちゃんは 黒をショーユ、茶色をミソと呼んどったらしいから、儂もそう呼ぶようになった。
ちなみに油袋の茶色も 料理に使える美味い油じゃったぞ。それは夕食の時にでも使ってやろう」
あぁ、そう言えばごま油もハズレって言われてたんだったね。
テーアさん達はポカン顔になってるけど、ハッとなってから 其々のお料理をクンクンして 醤油と味噌の香りを確認してた。
あのウツボカズラモドキに入ってるときの臭いは原液だから かなりきついけど、料理にすると美味しいんだもん びっくりだよね。
まあ その後、このダンジョンを出た後は 豊作ダンジョン巡りをする!って予定が決まったのは仕方がないと思います。




