第226話 フルシェ遺跡ダンジョン その8
裏返しの盾を全員がスムーズに作れるようになったのは 4階にいる魔獣を全て倒したころでした。
一番遅かったのは ガルスさんで、ケーテさんは 学び舎のカルタで魔力操作をしていたのが功を奏したようで 比較的早く使えるようになってました。
とても悔しそうなガルスさんだったけど、直ぐに挽回できるようになると思うから頑張って!
後はパニックルームを残すだけなんだけど、普段魔法を使わないケーテさん一家が ずっと魔法を使い続けたので ちょっと休憩をゆっくりしてから パニックルームに挑戦することになったよ。
パニックルームではない小部屋で スープを作っています。
まだ10時前くらいなので 行動食だけでも良いんだけど、魔力が減ってるときは 仮眠をするか しっかり食べた方が回復は速いからね。
4人ともパニックルームが気になっているようで、多分仮眠なんてできなさそうなので 軽食を作ってます。
「本当に手際が良いわよね」
私がスープ、お父さんが 大きな鉄板の中心でベーコンを焼きながら 離れたところで スクランブルエッグ、反対側で ピタパンを焼いている。
パンを持ち歩くより嵩張らないし、半分にしてから具材を詰め込めば ケバブじゃないけど そんな感じで食べれるので重宝しているのだ。
シカーバットの殲滅を終えた時点で 私とお父さんはこの部屋で軽食準備を始めてたので 丁度良い感じだ。
「さあ 召し上がれ」
「ふわぁ~、良い匂いだわ、ヴィオ ありがとう、いただきます」
「うん、魔法の使い過ぎでお腹ペコペコなところにこの匂いは強烈だね。ありがとう、ヴィオちゃん、アルクさん、いただきます」
空腹は最高のスパイスだしね。
たーんとおあがり。
私は然程魔力を使ってないので スープだけいただきます。
ケーテさんは未成年だけど、食べる量は結構多くて ピタパンサンドも2個食べた。
ガルスさんは 大人と同じだけ、3個とスープを2杯。軽食ってなんでしたっけ?と思う量を食べていました。
その後 腹休めをしてから 改めてパニックルームへ。
ここも ケーテさん達で挑戦したいという事だったのでお任せです。
風の盾を張るのはテーアさん、ケーテさんとガルスさんでは まだ魔力操作が甘い事、魔力がそこまで多くはないので もしかしたら破られるかもしれないからという事だった。
「ヴィオ、扉はノブを回すだけで開いたのよね?」
テーアさんに聞かれたので肯定すれば 扉ギリギリで 風の盾が展開された。
あれでは 扉が開かないのでは?と思ったけど 様子を見ることにしよう。
タディさんは少し離れたところに立ち、もし漏れ出てきたゴブリンが居た時に備えている。
メインの攻撃主は ケーテさんと ガルスさんの二人だ。
テーアさんも 盾を張る役だけ、そして盾が完成したら おもむろにテーアさんがノブに手を伸ばした。
カチャリ
ドアノブが回ったと思えば ギギっと扉が薄っすら開き、風の盾でそれ以上は開かない。
そうだよね。
と思った次の瞬間、扉がシュルシュルと上から溶けるように消えてしまい、中からゴブリンが押し出されるように出て来ようとする。
「お父さん、ドア消えたね」
「途中で消えておったが 開かん場合もああして消えるんじゃな。あれじゃったら 確かに鞭を使わんでも 手で開けられるな」
確かに。
テーアさん、宝箱は槍でこじ開けるって言ってたけど、扉は手で開けたもんね。
中々ワイルドですよ。
そしてゴブリンたちは 風の盾に押し付けられている前方の者たちは 血まみれになりながら、それでも後ろから押し出されて引くに引けない状態。
まさに群衆雪崩状態である。
二人も一瞬 呆気にとられていたけど 直ぐに気を取り直し、剣と槍で攻撃を始めた。
「あぁ、扉の幅しか敵に攻撃が出来ないのは やりにくそうね。
これならもう少し前に出てこれる幅を持たせた方が 広範囲で攻撃が出来そうね」
それを見ながら テーアさんと タディさんが 改良点を話し合っている。
確かに 私なら 殲滅魔法を使っちゃうこともできるけど、近接武器での攻撃をする人が複数人いるなら、少し広めの方が良いかもね。
お兄ちゃんたちと潜る時に 色々試してみよう。
1時間弱ほどで 全てのゴブリンを殲滅し終えた二人は 相当疲れたようで その場に座り込んでしまった。
「安全だって分かってても あの量のゴブリンと対峙するのは 精神的にきつかった……」
「斬っても 斬ってもまだまだ出てくるって言う恐怖感が 普通の戦闘以上に辛かったわ……」
……そうなの?
チラリとお父さんに視線をやれば 顎をポリポリしています。
うん、そんな事を考えたことが無かったって感じだよね。
私がパニックになったあの時も、多足のウゴウゴが気持ち悪すぎただけで 魔獣の多さとか 魔獣自体の強さへの恐怖心はなかったなぁ。
絶対に盾を破られることはないって思ってたのもあるけど、残量が分かっているってのが大きいのかもね。
迷路でも いつまで続くの? ってなれば焦るし 疲れるけど、先が分かってれば そうでもないもんね。
私がダンジョンで 怖い思いをしてない理由は 【索敵】ができている、これに尽きることが分かったね。うん、魔力操作 超大事!
二人の気力が戻ったところで 5階に上がる。
魔獣はここまでと同じ、というか 10階の中ボスまでは 魔獣のランクが上がるだけで出る種類は4種類のままだ。この辺りが 中級ダンジョンに設定された理由らしい。
「ん? 魔獣の数が随分少ない……?」
階を重ねれば 魔獣は強くなるし、通路は複雑化するし、数も多くなる。
ボス部屋を越える、もしくは 敵のランクや種類が変化するときに 階層が狭くなったりすることはあるけど、同種の魔獣で数が減るという事はないはずなんだけど、明らかに4階までの半分くらいしかいない。
「ああ、多分 他の冒険者が居たんじゃろう。ほれ、一部屋分の魔獣が居らん。多分こっちの部屋で野営しておったんじゃないか?
このダンジョンを選ぶやつらで 10階層まで行けん奴は居らんはずじゃから、戻ってくる冒険者と会うことはないはずじゃ。上層階は それなりに危険レベルが上がるから 途中で止める奴もおるが、その場合でも10階層から転移陣で帰るじゃろうしな」
あぁ、そういうことか。
先に入っているパーティーがいると聞いてた割に 全然会わないのは何故だろうと思ってたけど、まだ追いついてないだけだったんだね。
「だとしたら 今日の探索はここまでにしておいた方が あなた達の訓練には良さそうね。どれくらい前に半分が倒されたのかにもよるけど、明日リポップするなら 練習台にもなってもらえそうだもの」
「まあ そうじゃな、そしたら ヴィオ、儂らは 小部屋で野営の準備でもしておこうかの。ガルスたちは 魔力切れまで練習させるつもりなんじゃろ?
索敵の練習をするなら 水生成魔法を習得させた方が早いからな、それも考慮しておいてくれ」
「おぉ、アルク 助かる。
ヴィオも 折角一緒に入ったダンジョンなのに 教えてもらってばっかりで悪いな」
「ううん、罠の事 沢山教えてもらってるもん、ケーテさん、ガルスさん 練習頑張ってね。美味しいご飯作って待ってるね」
「ヴィオ、ありがとう」
「ヴィオちゃん、ありがとう、頑張ってくるよ」
ケーテさんたちに手を振って 私とお父さんは 多分冒険者が使ったであろう小部屋の方を目指す。
もう一部屋は 魔獣もいるし、多分索敵の練習をすると思うんだよね。
多少のエンカウントはあったものの ほどなくして小部屋へ到着。
折角だから 鉄板用の石テーブルもしっかり作って 美味しいご飯を食べてもらおう。
お昼ご飯を食べたら 午後は魔法の練習をするだろうし、多分今夜はここで野営をすることになるだろうしね。




