第221話 フルシェ遺跡ダンジョン その3
そして罠のあった通路の入り口に立ち 後ろを振り返る。
「あそこに罠があるんだけど、あれをどうやって起動させるのかって事だよね?
って、どうしたの?」
普段通りに、と言われたので いつもと同じように 見つけ次第 魔獣を殲滅しながら歩いてたのが悪かったのだろうか。
途中から 立ち止まって敵の情報を伝えるのが面倒過ぎたので 通路を曲がる前に 「次の角を曲がれば誰がいる」って伝えたのが 横着過ぎた?
兄妹が固まり 彼女たちの両親は笑っている。お父さんは 満足そうに頷いているけど どういうこと?
「ヴィオの事については セフティーゾーンに行ってから聞きましょうか。
まずは罠解除だけど ここの罠は……、ほら よく見てみなさい、石のここに 印があるのが分かる?」
固まったままの兄妹はそのままに、テーアさんが教えてくれたのは 床に刻まれた印。【索敵】だと真四角のタイル状になっているけど、直接見ると 他の床より ほんの少し素材の色が違うのが分かる。
だけど ちゃんと見てないと見落とすレベル。
ただ、ダンジョンの優しさなのか 通路のど真ん中ではなく 壁に近い場所にあるから 気付かなくても踏まない可能性は十分ある。
その床の素材の一部に 炎のような模様があるのが分かる。本当に小さな模様で 傷のように思うかもしれないけど、ちゃんと見れば 炎の絵だと分かる。
「炎の絵って事は この板を踏むと ファイアボールを当てられたような傷を負うって事ね」
え?それって結構しっかり怪我しない?
私の作るファイアボールは 一撃必殺なんだけど あれを受けたら 場所によっては大怪我では済まない自信しかない。
「ん~、見た方が早いわね。あなた 適当なお肉持ってなかった?」
「ああ、町で買った肉ならあるぞ」
私が顔色悪くしていたからだろう、テーアさんが試してみようと言い出した。
タディさんから受け取った 肉はよく見る大きな葉っぱに包まれた肉だ。
それをそのままタイルの上に投げれば、肉が一瞬オレンジの炎に包まれ 直ぐに消えた。
ん? あれがファイアボール?
てか ファイア?
いや、ファイアにしても弱めのやつ?
「ふふっ、ファイアボールではなかったわね。まあ火属性の魔法が出ると思っておけばいいわ。
大抵の場合は 剣とか槍とかでつついて 魔法を出しちゃうことが多いわね。
ほら、お肉も火が通った訳じゃないでしょ? 特級ダンジョンなんかだと もっと強い火に包まれることもあるけど、このダンジョンではこの程度ね」
見せてもらった肉は 葉っぱの部分ですら焦げておらず、お肉なんてピンクのまんまだった。
軽い火傷のレベルでもなく、驚くって感じの効果しかないのではなかろうか。
「普通の冒険者だと 火が出たことに驚いて 慌てるでしょう? 丁度その時に魔獣と対戦していたりしたら 驚いた人の武器で怪我をするかもしれない。
そういったこともあるから気を付けておくのよ」
あ~、確かに威力のわりに 火の勢いは大きかったよね。
あれです、マジックで炎が出るやつみたい、わぁ!って驚かせるやつ。うん、確かに初見だとびっくりして 抜き身の剣とか持ってたら危険だね。気を付けよう。
その後 2か所分の罠も、水に包まれるとか、下からの風に吹き上げられるという マジックテイストの罠だった。
「さて、大分時間が早いわね。まさか2階層を昼前に攻略しちゃうなんて思ってなかったけど、あなた達ってばいつもこんな感じなの?」
6時前に町を出て 1時間かけてダンジョンに到着
1階の壁画をゆっくり眺めてたのは 多分2時間ほど
然程広くはなかった この2階層なので2時間ほどで攻略したわけだけど、まあ洞窟系だとこんな感じだよね。
「まあ採掘も採集もないダンジョンじゃと 大体これくらいじゃな。
初級で リポップ待ちの時なんかは 1日で2~4階層は平気で潜るぞ」
「「えぇっ!?」」
「そんな感じよね。まあ 一先ずお昼休憩にしましょうか。あ、これも 普段のあなた達の休憩を参考にさせてもらいたいわ」
普段の休憩って 普通の人はどうやってるんだろうか。
お兄ちゃんたちの時と同じで良いのかな?というか、行動食の時間じゃなくて お昼ご飯の時間って事で良いんだよね?
お父さんも頷いているので そのまま先導して 罠の道のつきあたりまで歩く。
皆が到着したところで 広めの空間を確保して 通路の途中に土壁を作る。
「【アースウォール】うん、いいね。
お父さん、匂いが出ないやつの方がいいかな」
「まあそうじゃな、セフティーゾーンじゃったらええが、ここは一応通路じゃからスープ位にしておこう」
「わかった」
ゴブリンとコボルトは肉を焼く匂いに釣られてくる可能性があるからね。
一応通路の魔獣は全部倒したけど、もしかしたら先行している冒険者によって既に倒された魔獣が居て、そのリポップが無いとは限らない。
なのでここはサンドイッチなどの 調理済みのモノを昼食にしよう。
ただし少し冷えてるからスープは作るけどね。
火台はお父さんが作ってくれたので 中鍋を取り出し 水生成魔法でお水を作る。魔力を抜くから 先に水を作っておきたいんだよね。
今日は大人が3人、いや4人、子供が2人だから それなりに食べるだろうし、スープはお兄ちゃんたちがいた時と同じくらいでいいだろう。
大鍋にホーンラビットの肉を入れて軽く炒めてから お野菜をドカドカ入れていく。豊作ダンジョンで貰ったお野菜が まだまだあるからね。
途中でお父さんが味見をしてくれて スパイスを足してくれる。うん、美味しいね。
スープが完成したところでクルリと振り返れば デジャヴ???
シートを敷いて 寛いでいるタディさんと テーアさんは 器の準備も万端で クツクツ笑っているし、兄妹二人は このエリアに来た時の状態のまま 立ったまま固まっています。
石化の呪いでもかけられましたか?
「さて、ガルスとケーテも、自分の器は持っとるか?無ければ用意をするが」
「あっ、いや、持ってます」
「あ、あります、ちょっと待ってください」
慌てて自分たちのバッグからお椀を取り出す二人。テーアさん達も持ってきてくれたので 其々の器にたっぷり盛り付けますよ。
お替りは自分でお願いしますね。
「では「いただきます」」
お父さんといただきますの挨拶をすれば、4人も後からいただきますと言ってから スープに口をつけました。そういえば クルトさんも最初は言ってなかったよね。
“いただきます” は 家でゆっくり食べる時には言うけど、ダンジョンでは そんな気分にならなかったからだという事だったけど、一緒に行動するようになって 普通に言うようになってたね。
家より豪華、とは 豊作ダンジョンでの夕食時の台詞だ。
「美味しい……」
「ダンジョンの中で 温かいスープを飲むことになるなんて思ってなかった」
「〔大樹の祠〕のメシウマは当時から話題だったが、ヴィオもその技を受け継いだんだな」
「本当にね、私の鞄も時間遅延があるけど、食材を持ち運ぼうなんてあまり考えたことが無かったわ」
ケーテさんは一言呟いてから 真剣にご飯を食べてます。
タディさんは お父さん世代だから お父さんのパーティーの話も知ってるんだね。その人たちに認められるのは嬉しさ倍増だね。
そしてテーアさん、意外と豪快な性格なんですね。食材あった方が楽しいし テンションが下がらないですよ?
次はお風呂も持ち歩くつもりでいます。
多分常識ではなさそうなので 言わんけど。




