第209話 船での出会い
受付を終えて 斜面になっている橋を渡れば 船の上だ。
船は揺れて大変だぞ。なんて話を聞いたことがあったけど、ここが川だからか 船が大きいからなのか、今時点ではあまり揺れを感じない。
とりあえず このままここに立っていては 後から乗ってくる人たちの邪魔になるだろうから 船内を見学しに行くことにしたよ。
橋から下りたこの場所は 建物の二階くらいの高さがあるけど、船としては何階部分なんだろうね。
一先ずグルリと回ってみることにしたんだけど 広い。
私とお父さんが歩いているのはベランダのような場所で、大人三人が横並びになってぎりぎり歩けるくらいの幅しかない。それが 船の外周をグルリとめぐっていて、進行方向正面だけ ガラス(ではないかもしれないけど)のような透明な壁になっている事で 中が見えた。
船内には 沢山のベンチが並んでいて、ゆっくり座って旅をすることができるみたいだ。
既に正面の席には お客さんが座っていたので、私たちと目が合って 手を振られてしまった。
温泉で有名な あの場所に向かう ロマンスな電車も、最前列は常に予約がいっぱいだというから、どこの世界でも共通なんだなと思った次第。
1周グルリと回った後、船内に入れば 中央部分に 螺旋階段があった。
とりあえず下に向かってみれば 船員さんらしき人が立っていた。
「船に初めて乗ったので 船内の見学をしていました」
迷子かと聞かれたので 目的を伝えれば 非常に嬉しそうな顔で 船の説明をしてくれた。船員さんが立っていた場所の後ろ、扉の中は 船の操舵室があるらしい。船長さんが舵をクルクルしているんだろう。
ここが1階で、私たちが乗りこんだところが2階になるのだという。
客席と螺旋階段があったところが 一般客が乗り込むエリアとなっており、後方半分は 馬車置き場になっているんだって。
どうりで 船の外周のわりに 客席スペースが狭いと思った。
グーダンで採集出来た素材をできるだけそのまま配送できるように 馬車ごと乗せられるように広くしているんだって。お馬さんたちの負担にならないように 天窓が付けられているんだって。
螺旋階段を3階まで登れば 展望デッキになっているらしく、ベンチもあるから ゆっくり川の流れを見ながら過ごすこともできるとお勧めされた。
「ただし、護衛の冒険者たちが警戒の為に デッキで待機しているから 少し怖いと思うかもしれないね。彼らは仕事で来てくれているから、一般のお客さんに危害を加えるという事はないから 安心してほしい。
あと、万が一魔魚などが現れた際には 彼らの動きの邪魔にはならないように、できれば 室内に移動するか その場にいるなら 小さくなっていることを推奨するよ」
うんうん、魔魚や 魔鳥が来た時に 一般客にキャーキャーされたら邪魔だもんね。その時に多少檄が飛んだとしても それは仕方がないと思うけど、そういう事も 船員さんが注意してくれるんだね。
「お兄さんありがとう、冒険者さん達のお仕事の邪魔はしないようにするね」
私も同業者の邪魔をする気はないけど、どんな戦い方をするのかは非常に興味があるね。
なにせ 私の周辺は規格外しかおりませんから。
船内説明をしてくれた船員さんに手を振ってお別れし、階段を上る。
お父さんから 2階で過ごすかと聞かれたけど ノンノン、勿論3階で過ごしますよ。
2階に戻ったところで カランカランと 軽快なベルの音が聞こえた。
「まもなく出航いたします。王都直行便、あともう少しで出航いたします。
乗船券をお持ちの方は お急ぎください」
ああ、船の見学をしてたら もうそんな時間なんだね。ガラガラという車輪の音を鳴らした馬車も 私たちの横を素通りしながら 馬車留めのある奥の部屋へ向かっている。
ここにいても邪魔になるので 直ぐに3階へ行かないとだね。
螺旋階段って 普通の階段より ちょっとテンションあがらない? 私だけかな。
お父さん的には 踏板が通常の階段より細いのが 不安定であまり好きではないみたいだけど、いうてこの螺旋階段は大人二人が並んで上がれるくらいの広さはあるんだけどね。
確かに内側(柱の近く)は 大人の一歩を置くには 狭いんだけど、私にはちょうどいい。
「ん? こんな初めから 上に来るやつがいるのは珍しいな」
3階に到着したら 空がよく見えた。
私の頭の上くらいまである手摺はあるものの、格子状だから 外も見えるし非常に良き!
私たちの姿を見て 声をかけてきたのは 軽鎧を着た男性だった。多分この人たちが護衛の冒険者なのだろう。
「おはようございます、お船に乗るのは初めてだから 見学して回ってたの。船のお兄さんから 一番上は展望デッキだよって教えてもらったから来たの。
冒険者のおじ……お兄さん達の邪魔にはならないようにするね」
「お~、こんな小さいのにしっかりしてんな」
「船が初めてだったら 最初から見てたいのは分かるぞ。
ただ、ここにいたら 魔鳥……え~っと、襲ってくる鳥とかがいるかもしれねーけど大丈夫か?」
おじさんと言いそうになったけど、多分お兄ちゃんたちと然程年齢は変わらないのだろう。後ろの方にいたマントのお兄さんも 私たちに気付いてこちらに来た。どうやら4人組のようだね。
二人が弓を担いでいるので 他の二人は魔法担当かな?船だったら 遠距離必須だもんね。
「心配させてすまんな。じゃが 儂も娘も冒険者じゃから 魔獣や魔鳥には慣れておる。お前さん達の邪魔をする気もないが 儂らの事は 別段保護対象に入れんでも大丈夫じゃ」
「えっ、冒険者? 親父さんはそれっぽいけど娘さんも?」
「うん、銅ランク冒険者だよ」
シャランと 首から下げたギルドタグを見せれば ポカンとされました。
「あ~、獣人族は 幼少期から運動能力は優れてるって言うしな。すげえな」
そう言われて クマさん帽をかぶっていた事を思い出した。
そう思ってもらった方が 便利そうなので 肯定はしないけど、否定もしないでおいた。
冒険者のお兄さん達は出発まで暇なようで お喋り相手をしてくれた(私たちが付き合ったともいう)
お兄さん達のパーティーはやはり4人組で、最初に声をかけてくれた軽鎧の人が リーダーのベンガルさん、弓が専門で 近接戦では槍も使うらしい。
サブリーダーは シナさん、私たちを心配してくれたマントの人。シナさんは魔法使いで風が得意属性なのだそう。
ビアさんは弓と補助魔法を得意としており 敵が来た時は壁を作ったりするのもビアさんの役目だそう。
一番若いルシアさんは回復担当の魔法使い。風魔法も得意だから攻撃もできるけど、回復担当者が魔力切れになるのは困るから 攻撃は余程の時じゃないと担当しないらしい。
「余程の時こそ 回復魔法が必要になりそうだけど……」
「ははっ、まあそうなんだよな。けど、そんな余程の時に当たった事はないから 今のところ大丈夫なんだけどな」
思ったことをポロリと口にしてしまった。
リーダーのベンガルさんは ガハハと笑っていたけど、どうやら回復担当者は気に入らなかったらしい。
「ふんっ、冒険者になったばかりの初心者が 知った風に言わないで欲しいね」
「ルシア!」
ボソリとした呟きではあったし、馬車の音、受付さんの鳴らすベルの音、そろそろ受付終了するという声などで多少騒がしくはあったけど、バッチリ聞こえてます。
「ううん、こちらこそ 生意気な事を言いました。ごめんなさい」
ペコリと頭を下げて 謝罪すれば、聞こえていたとは思っていなかったらしい本人を含めた仲間がびっくりしていた。
いやいや、冒険者って言ったし そもそも獣人だと思ってるんでしょ? 獣人族の五感はヒト族のそれより優れているのは常識ですよね?私のは身体強化によるドーピングです。




