第207話 新しい町へ
グーダンの街で過ごす事 3日。
屋台飯でも良かったんだけど、ダンジョンで沢山採集してきた素材が駄目になるのも嫌だから お宿で調理して食事をしてました。
野営道具は揃っているから どこでも調理ができるのは有難いね。
木の日にお兄ちゃんたちの武器も手元に戻り、いよいよこの町ともお別れとなる。
「さて、この後だけど 父さんたちは 予定通り王都を目指すって事でいいの?
かなり時間に余裕が出来たから 小さいダンジョンならいけそうだけど」
「いや、お前たちは ゲルシィの森を目指すんじゃろう?
あそこは確か30階層あるダンジョンじゃし、下層階は罠もそれなりにある。今回ほど簡単には攻略できんじゃろう。時間と気持ちに余裕をもって潜った方がええ」
お兄ちゃんたちが目指しているダンジョンは、お隣ウィスラー侯爵領の中央くらいにある ゲルシィの森と呼ばれる上級ダンジョンだ。
3種類の混合ダンジョンという少し珍しい形のダンジョンらしく、10階までは洞窟、20階までが高原、最後は森になっているらしい。
んで 上級だけあって 洞窟部分は罠もある 結構大変なダンジョンらしい。
ただ、大変なだけあって ボス部屋での宝箱アイテムに 貴重な魔道具が出ることも多いらしく、ラスボスのアイテムは 6割くらいの確率でマジックバッグなんだって。
これは絶対に踏破しないと駄目だよね。
「ギルド会議で サブマスと ギルマスが 王都に来るのは決定しとるからな。会議が終わったら ギルドの馬車で一旦儂らは村に帰るつもりじゃ」
アランさんに ハンモック型のお風呂も作ってもらわないとだしね。
馬車移動は1週間くらいというので、その間に道中で サブマス達と 魔法の訓練をする予定なのだ。
「風の季節に 合流って事でいいんだよね?」
「そのつもりじゃ、もし1回目でマジックバッグが出んかったら 合流してから再度挑戦してもええと思っとるぞ」
「二回も潜れば ランクが高い鞄も手に入りそうだな」
おぉ!という事は もしかしたら 上級ダンジョンに入れるかもしれないってことだね。それは楽しみだ。
夏の間の連絡は王都のギルドへ、夏の後半は 村に帰っているから 連絡するならサマニア村へという事で相談は終わり。
ここからはお兄ちゃんたちと久しぶりに別行動だ。
これまでだって お父さんと二人で過ごしてきたし、実質お兄ちゃんたちと一緒にいたのは2か月ちょっとだ。
同じくらいの期間離れるだけなのに 凄く寂しいのは ダンジョンでの濃い時間がそうさせるのだろうか。
「ヴィオ、またすぐに会えるから」
「ん、忘れないでね……」
トンガお兄ちゃんからは 忘れる筈がないと おでこにチューされました。
「次に会う時は 俺たち銀の上級になってるからな」
「そっか、まだ中級だったね。早く私も銀ランクになりたい」
もうちょっと追いつかないで欲しいと ルンガお兄ちゃんに ワシワシ撫でられ おでこにチューされました。
「あっちの森も ハズレ袋あるかもしれねーから マジックバッグが出た時用に 拾っとくな」
「うん、今回なかったハズレのが沢山あることを期待しとくね」
珍しくクルトさんからも ギューしてもらいました。流石におでこチューはなかったけど、かわりに 私からホッペにチューしときました。
「え~!クルトだけズルくない?」
「ヴィオ、俺は?俺にもしてくれていいんだぞ?」
ホッペにチューしたことで お兄ちゃんたち二人がクルトさんに詰め寄ってますが、何かごめん。
膝立ちになって 期待してくれているので お兄ちゃんたちにも ホッペチューをしておきましょう。
町を出たところで お兄ちゃんたちはこのまま真っすぐに南下、私たちは川を目指して 南東に向かうのでお別れです。
私たちが見えなくなるまで 手を振ってくれてました。
「ヴィオ、泣かんで偉かったな」
「ん、でも、寂しいよぉ」
姿が見えなくなったところで お父さんが抱っこしてくれました。頑張ってたけど やっぱり涙が出ちゃいます。
甘やかされるのに慣れ過ぎてきたのかなぁ。
しばらく お父さんに抱っこされたままだったけど、だんだん恥ずかしくなってきたので 下りてゆっくり歩きますよ。
「お父さん、次に行くのは川の町なんだよね?」
「そうじゃ、元々 ノイバウワー侯爵領で一番栄えてた町でな、王都と、その先の海まで続く川で 運送が出来るようにしておったんじゃ。
今はグーダンの方が盛り上がっとるが、グーダンで採れた素材も 川船で 各地に運ばれとるから やっぱり栄えとるんじゃ」
そう、私たちが目指しているのは 川船のあるルパインという町。ダンジョンはないけど 栄えている町だという。
その川船で王都まで 行く予定なのだ。勿論王都と言っても 王様達が住んでいる町は 川からそれなりに距離があるらしいので “王都の端っこ” にある船着き場まで行くんだけどね。
「川って 魔魚もいるし トラウトもいるのに大丈夫なの?」
「川船の底に 魔獣除けの魔道具が搭載されとるから 大丈夫じゃな。それでも それなりに出てくることはあるから 冒険者が護衛として雇われることは多いな。
トラウトに関しては ルパインぐらいまでは ノーマルしか出んからなぁ。レッド以上は プレーサマの領地を越えたあたりからしか出んし、ゴールドは サマニア村周辺にしかおらんから大丈夫じゃ」
あぁ、そっか。だから風の季節は サマニア村に人が集まるんだね。
うちの村からも川船を出せたら 便利だろうけど、山脈が近く 魔素が濃い プレーサマでは魔魚の種類も豊富で、危険レベルの高い魔魚が多いから 魔道具があれど船は無理だと 川の整備は諦められたらしい。
ってか、そんな川をドンブラコしてきた私って、良く生きてたな。
なんだろう、知らない間に 結界鎧みたいなのを発動してたんかな。これも転生チート的なやつ?
お父さんとの二人旅は 3泊4日で 目的地に到着した。
時々森に入ったりして 寄り道をしたけど、基本は街道を通って歩いたので ゆっくりだった。
グーダンから ルパインまでは 話に聞いていたように グーダンで採れた素材を持ち運ぶ馬車も多く走っていたため、【ウインド】での高速ダッシュ移動もできなかった。
4日目の昼に到着したルパインの町は 確かに ダンジョンが無いけど非常に栄えた町だった。
町の片側が川だから、門は3つ。
北(正面から見て左側)にあるのが貴族門、中央にあるのが 商人たちの為の馬車門、人が歩いて入る普通の門は 南側(正面から見て右側)だった。
貴族門は 何か白くて ピカピカしてた。
馬車門は 馬車が余裕で2台すれ違えるように かなり横幅が広かった。
南の門は こじんまりとしていた。
それでも 利用者が多いので 門に立つ兵士さんはそれなりの人数が居たけどね。
「身分証明書の提示と目的を」
「王都まで移動する為に 乗船目的じゃ」
面倒があると嫌なので 大人しくお父さんの抱っこで 静かにやり取りを眺めています。
お父さんのギルドカードを見て 私を見て ニコっと笑ってくれた。
「撫でても?」
強面だと思った兵士さんは 子供好きだったようです。お父さんが私を見るので 頷いて見せれば おじさんが嬉しそうに 優しく頭を撫でてくれました。
「船は揺れるが 怖くはないからな。王都までなら遅いのでも1泊で着く。怖ければ 室内にいれば安全だからな」
どうやら私の身分証明は不要だったようで、町に入る為の2ナイルだけ支払って 終了だった。
おじさんは 子供好きの良い人だった。




