〈閑話〉メネクセス王国 21
銀ランク上級〔土竜の盾〕リーダー テリュー視点
偵察の結果、ヴィオの姿はなかった。
洗礼式で娘が聖属性持ちだってわかった上、眩しくて目が開けられないレベルで水晶玉が光ったって言うから 相当魔力が高いんだろう。
そのおかげでパーティーは大盛り上がり、どいつもこいつも浮かれてるもんだから 気配隠蔽の魔法をかけなくても大丈夫だったんじゃないかと思うくらいだった。
宿に戻ってから 少し気になった情報を二人に見せる。
「なにこれ、ネックレス?」
「洗礼受けた娘が身に着けてたんだけどな、見覚えがあると思ってメモしてきたんだ。ちょっと記憶が確かじゃねえし 二人に確認してもらおうと思ってな」
メモ紙には 雫型のネックレスの絵が描いてある。
アイリスたちのパーティー名の由来でもある菫の花、何度もフィルから語られてよく覚えている。
『俺さ、アイリスに出会うまでは この眼の色が憎くてしょうがなかったんだ。えぐり取ってやりたいって何度も思ったんだ。
けどさ、自分が一番好きな花の色と同じで 見てたら安心するって言われたら 悪くないなっておもえるんだから アイリスって凄いよな』
それは惚気か?と何回言っただろうな。
あいつが国王になったメネクセス王国の国花も菫の花だ。あいつが あの宰相野郎と消える時 お守りとして渡されたんだと アイリスが大事にしてたネックレス。
それに酷似した物を あの娘が着けていたのを見てまさかと思ったんだが……。
「テリュー、これ アイリスのだよ。ねえ 石の色は何色だった?ペンダントトップの裏に魔石が嵌ってるはずなの」
「色って、裏側だろ?流石に見えてねえよ。
って、やっぱりアイリスのお守りだったか」
アイリスから奪ったのか?
本来ならアイリスからヴィオに渡すべきものだろうに。
「アイリス、あのお守りは 離れ離れになったフィルと引き合わせてくれるための魔道具だって言ってた。
フィルと再会した時に 直ぐ分かるように、フィルがもし 期限より探しに来た時も 近くに来たらネックレスが反応するから気付けるって。
だけど 自分が持ってたらいつも気にしちゃうし、だったら知らないヴィオに別のお守りを付与して身につけさせておいた方が 良いだろうって……」
そっか、反応がないのが当り前だけど、気にし続けるのもしんどいわな。ヴィオならそんなこと知らねえし、もし反応があった時は10歳過ぎてるから 流石にアイリスだってフィルの事を告げてるだろうしな。
「私が居た時はまだ完成してなくて、構想だけ聞いてたの。
けどあれが完成してたら あのネックレスは凄いお守りになってるはず。あの子が洗礼式で聖属性に反応があったのも そのせいだと思う」
俺には魔道具の作り方なんてよく分からねえけど、もしそれが本当ならアイリスの奴 すげえもん作ったなとしか言えねえ。
自分の魔力を注ぎ続けた分 魔石に魔力を溜め続けるって……。
しかもアイリスはヴィオを護る為に聖属性の魔力だけに特化した状態にしたいと真っ白な魔石を用意していたらしい。
魔獣は元々 瘴気溜まりから生まれると言われている。だから魔石は属性色以外は黒に近い紫色のような色をしていることが多い。
白や透明は聖獣と呼ばれるような相手の魔石だと伝説にあるが まさかアイリスが聖獣に手を出したのか?
「魔石に魔力を溜めれば作れるんだって。
知られたら馬車馬のように働かされる未来しかないから 言わないようにねって言われたけど、あの白い魔石は アイリスがずっと聖魔力を溜め続けたからできたものだと思う」
「は?」「え?」
思わず俺とシエナで声が重なる。
魔力を溜めれば魔石が出来る?
属性魔石を自分で作れるってのか? 幻の魔石も作れる? そんなのマジで超秘匿案件じゃねえか。
「いや、ちょっと待って、魔石って使い捨てじゃない。魔力を使い切った魔石は砂みたいに崩れてなくなるでしょ? 普通の魔石は魔力に満ちてるんだから その石に魔力を入れようなんて思わないわよ」
「うん、私もそう思ってたんだけどね、実際に見せてもらったし 私も作れるようになってるの」
「は?」「へ?」
ポカンと固まる俺たちの目の前で ネリアが小さな赤い石を取り出した。火属性の強い魔石だな。
その石を魔道具の杖につけてある魔石の上に乗せた。
「見ててね」
杖にある魔石も赤い石で 火属性が得意ではないネリアが 火属性の魔法を使いたいときに使用している杖だ。魔法使いの杖は 使用するときに使用者が魔力を注ぐことで魔法が行使される。
コンロの魔術具なんかは 赤い魔石を入れて燃料として使うから 魔石の魔力が切れたら入れえる必要がある。
杖の魔石は使用者の魔力を使ってるからいつまでも壊れないと思ってたけど そういう事ではなかったようだ。
ネリアが小さな魔石に指先を添えながら じっと見つめている。
魔力視をして確認すれば ネリアの中の魔力が動き 指先に集中しているのが見える。
そしてその指先から出た魔力が小さな魔石に当たり、小さな魔石の中にある魔力が 杖の魔石に移動している。
「押し出されてんのか……?」
コクリと頷くだけのネリア、かなり集中しているようだ。
そして指先にある小さな魔石は 段々その色を変化させていく。
火の赤から 水の青へ。
完全に青い魔石に変わったところで 汗をかきながらネリアは椅子に凭れ掛った。
「この大きさでも大変なの。私アイリスに教えてもらってから 毎日家で練習してたの。
だけどまだこれくらいで大変なの。
だけどアイリスはあのペンダントと同じくらいの大きさで聖属性魔力を込めてたんだよ。凄いよね!」
何からツッコんでいいのか分かんねえけど、アイリスもネリアもすげえ。
「これ、水の魔石になったてことか?」
「うん、魔力操作が上手くないとできないけど、練習すれば出来るようになるよ。
まあ アイリスみたいに 聖魔法を込められないなら そのままの魔石で良いじゃないって話なんだけどね。
これを見せて何が言いたいかって言うと、例の娘が持ってるペンダントの魔石の色が変わってるとしたら、それはお守りの魔力を使ったからって事。
本人の力とかじゃなく、アイリスの力が漏れ出たってこと。だから 魔石の色が白くなくなったらもうあの子に聖魔法は使えなくなるだろうって事」
魔力切れってわけじゃねえけど 相当疲れた様子だったネリアは オトマン人形にほおずりしながら なんてことないようにそんな事を言った。
「それって 今回の洗礼式で光ったのは アイリスのお守りのお陰ってこと?」
コクリ
「てことは あれだけちやほやされてるのも幻ってことか?」
コクリ
頷くネリアに同情するような表情はない。むしろちょっと楽しんでる?
「アイリスを殺して ヴィオに渡すこともなく 自分のモノのようにお守りを持っている罰だよ。
あいつら家族はもう数年で勝手に自滅するから良いとして、後はヴィオがどこにいるかだよね。孤児院にはそれらしい子はいなかったし……」
思わずシエナと顔を見合わせてしまったが、まあそうだよな。
「でも 聖属性持ちって 訓練があるんでしょう? 今日はその話で町は持ち切りだったわ。
直ぐに気付かれるんじゃないの?」
「普通は 聖属性持ちが分かった時点で教会に通うようになるわ。そこで洗脳されるのよ、教会に所属する利点とか」
いや、そこは教育じゃねえのかよ。洗脳って……マジでこの国終わってんな。
「私が通ってた教会は ここと同じ辺境でしょ? 中央の腐ったジジイどもに反発したせいで飛ばされた左遷組ってこと。
だから中央に行くことの危険性と 今の教会の腐敗具合を散々刷り込まれたわ。
お陰で教会に対してなんの負い目も持たずに済んでるけどね。
あの司祭がまともだったかは分からないけど、お陰で 留学のシステムを聞けたし、そのまま逃亡する為に聖魔法の練習も真面目にすることが出来たから 感謝してるかな」
その司祭とやらの目的は何だったんだろうな。
聖属性持ちを逃がしてやりたかったのか、ただの中央への不満をぶつけたかったのか、中央に行った後に復讐してほしかったのか。
「あ゛~~~~~!むしゃくしゃする! 思いっきり魔獣ガシガシ狩りてえ!」
「うっさい」
「モフが足りない。フワフワが足りない……」
全員がストレス溜まってんだよな。
ヴィオ、お前何処にいるんだよ。
 




