第205話 グーダン大山ダンジョン その16
「これうめえ!」
「うん、木に生ってるときは ただの臭いだけの実だと思ってたのに、こんなに美味しくなるって凄いね。ヴィオのお母さんって 流石 ソロで銀ランクだった冒険者なだけあるね」
味噌野菜炒めに 味噌汁とまではいかないけど 味噌入りスープ、下味に醤油を使ったから揚げは瞬殺だったし、なにより煮物が醤油のお陰で沢山作れるようになったから 野菜の消費が激しい。
今食べているのは ボアの生姜焼きと クッシャーの煮物だ。
お父さんは 煮物を気に入ったので、毎日必ず一品は色んな野菜で煮物を作っている。
クルトさんも お父さんと一緒に煮物つくりにハマったらしく、毎晩一緒に作っているくらいだ。
油袋も ハズレ袋も、豊作系のダンジョンでは必ず数本ずつはあるらしく、冒険者からは大変不評だったらしい。
「その考えは改めないとな。他の色のやつを見つけた時は 俺が使えないと思っても こうやって使えるかもしれねーから ヴィオの土産として持って帰って来てやるよ」
マジで?
クルトさんの宣言は 嬉しすぎるんですけど。
ただ、お兄ちゃんたちのマジックバッグは時間停止のないタイプだから、賞味期限というものもある。無理はせずに いけそうなら持って帰ってきてほしい。
そんな 非常に美味しく 楽しいダンジョン生活も 28日目を迎え、いよいよ明日で この美味しいダンジョン……じゃなかった 豊作ダンジョンともお別れである。
沢山の食材と出会い、フリーズドライにしたことで お兄ちゃんたちの鞄でも 長期の持ち運びをすることが可能になった。
この後 王都に私とお父さんが行ってる間、お兄ちゃんたちは 此処ノイバウワー侯爵領と 王都の間にある ウィスラー侯爵領地を目指し、そこにある上級ダンジョンに挑戦する予定だ。
風の季節には また お兄ちゃんたちと合流して、今度は中級だけじゃなく 上級ダンジョンにも一緒に入ることになっているので、それまでゆっくり潜れるところまで潜るつもりなのだそうだ。
良いマジックバッグは 上級ダンジョンで見つかりやすいというから 時間停止の容量多めが見つかることを祈っている。
「さて、浴槽も 今日で最後じゃな。これはスライム処理では時間がかかるじゃろうし、他の冒険者が見たら不審に思うから 焚きつけにして最後は燃やすぞ」
18日間も 私たちを癒してくれた 巨大浴槽。
流石に ダンジョンを出てまで持ち歩くのは 収納の圧迫になってしまうので 残念ながら ここでお別れである。
今日までありがとう。
「お父さん、マントの素材で お風呂が作れないか 帰ったらアランさんに相談してみてもいい?」
「マントの素材で?」
不思議そうなお父さんに 図解して説明する。
私のマントは 簡単な防水加工だけだけど、モノによっては 水を持ち運べるように 完全防水になっているマントもあると 防具屋のアランさんから教えてもらった。
その素材で 作ってもらえれば 布だから畳めるし、私たちはテントのようにポールを立てるだけで 支柱が作れるからどこでも設置が出来る。
「ほぉ、ハンモックのような形で 深さがあるんじゃな。これは面白いな」
「え~、それいいね。それだったら僕たちの鞄でも持ち運べるし 作れたら買いたい!」
お父さんサイズで作ったとしても お湯の量を減らせば 私でも入れるだろうし、何なら紐を通す場所を2段階にしてもらえれば 深さを変えれるかもしれない。
一緒に話を聞いていた トンガお兄ちゃんも それなら自分達も使いたいと乗り気である。
うん、帰ったら 早速 アランさんに相談してみよう。
ビックリし過ぎてリスの尻尾がピーンってなるかもしれないけどね。
最後の晩餐ならぬ、最後の朝食を終えれば 浴槽をバラバラにして 【ファイア】で燃やして 証拠隠滅。
さようなら、ダンジョンで癒しを与えてくれてありがとう。グッバイ バスタブ!
涙の別れにはならなかったけど、ここまで疲れを溜めることなくこれたのは 間違いなく湯船でマッタリしたことだと思うから、全員が今後のダンジョンではお風呂が欲しいと考えている筈だ。
ただ、こんなに他人と出会わないダンジョンというのも珍しいらしく、今回のように テント側だけに壁を作ったレベルの露天風呂は危険だろうという事も話し合っている。
まあ まずはハンモック型のお風呂が作れるかどうかだけどね。
じゃなかった、まずは ここのボスを倒して ダンジョンを踏破し、無事に地上に戻る事が大切でした。
「よし、では行くか」
「うん、しばらく調味料には困らないけど、1年に1回くらいは来てもいいね」
「まあな、けど、他のダンジョンでのハズレ素材も気になるから ダンジョン巡りしたいな」
それは楽しそう! お兄ちゃんたちはこの大陸の西半分を巡ったんだもんね。豊作ダンジョン毎に色々あるだろうから そこでハズレと言われたモノには手を出さなかったらしく、あれが何だったのか気になると言っていた。
私は全部が未知だからね、巡る先が楽しみですよ。
全員が忘れ物の確認をし、準備万端整ったところで20階へ下りていく。
うん、ですよね。
いつも通りの 変哲もないボス部屋エリアですよ。
他を拘ってるのに、何故ここはデフォルトのままなのか、いや 逆にダンジョン様の拘りなのかもしれないね。
ギギっと開いた扉の先、薄明るくなってきた先には 情報通りに三つ目熊が最上段で構えていた。
お供は ランダムらしいけど、今回はゴブリン軍団だったようだ。
これがオークとか ビッグベアーの軍団の時は 大ハズレらしいけど、差が激しすぎると思います。
一応どれが来てもいい様に作戦は立てていたので、私は三つ目熊を囲うように 【ウォーターウォール】を発動する。
一応 メイジゴブリンにも 【エアウォール】をしておこう。
「どりゃ~」
「っせい!」
「そこを、どけっ!」
三つ目熊以外の敵は お兄ちゃんたちが蹴散らすと言っていたので 無双状態の三人を後ろで眺めるの巻。
うん、やっぱりこの三人も大概ですね。
大体 前衛しかいない冒険者ってどうなの?
盾が居ないなら 回復職もしくは 魔法使い兼回復担当者がいるらしいんだけど、この三人にはそんな役目を担う人がいない。
それでもスピードが速いから ゴブリンが追い付けないし、ゴブリンナイトレベルの腕力では 三人の籠手に余裕で防がれる。
まあ 身体強化をしているからこそだとは思うけど、それでもおかしいですよ。
長剣で ザックザックと唐竹割をしていく トンガお兄ちゃんと クルトさん。
槍をブ~ンと横薙ぎにして 上半身と下半身をスッパリ切り分けてしまう ルンガお兄ちゃん。
無双です。
「森だと 木が邪魔だったからここまでじゃなかったけど、広い場所だと 凄いねぇ」
「そうじゃな、まあ それでもお互いの場所を分かった上でやっとるから 危なげは無いな」
確かに、私は基本ひとりでダーッと行くから 周囲の事を考えずに鞭を振り回すし、魔法もドーンと使っちゃってるけど、お兄ちゃんたちは 結構激しく戦ってても お互いの剣が邪魔にならないように 立ち位置や動きを考えてるよね。
意外と冷静なんですね。
「ヴィオ、どっちかやる?」
壁で護られている(?)メイジ以外のゴブリンが全滅したところで トンガお兄ちゃんがさわやかな笑顔で振り返りながら聞いてくる。
“殺る” と聞こえるのは間違いでしょうか?
「折角だから三つ目熊やりたいです」
「りょうか~い、二人もそれでいい?」
「おお、危なかったら手伝うぞ」
「んじゃ 俺は右のメイジ行くわ」
三人もそれでOKという事だったので 遠慮なく。さっきから ガッシガッシと水の壁を殴りまくっていた三つ目熊さんですが、どうやら 破れなかったようですね。
三つ目と言っても 目が三つある訳ではなく、額に 目に見える様な魔石が埋まっているのだ。
それが触媒となっているのか、土魔法と 木魔法を使えるらしいけど、どうやらそれも私の水の壁の中ではうまく使えなかったみたい。
壁の近くまで走り寄れば 口を大きく開けて 首をぐるりと回している。
多分咆哮の攻撃をしているんだろうけど、それすら 水の壁で防がれているので 三つ目熊の声は聞こえない。
安全対策の為に壁は解除することなく 鞭に砂の魔力を通して 横薙ぎにする。
ザシュン!!!
襲い掛かろうと 片手をあげた状態で 上げた左腕と首が 砂の鞭で切り落とされた。
血が噴き出すように キラキラとしたエフェクトが出る。
「ははっ、危なげ 全くなかったな」
「おつかれっ」
「こっちもおわりっと」
「約1か月のダンジョン 頑張ったな」
「ふふっ、楽しかったね、おつかれさまでした!」
直ぐ近くで見守ってくれていた ルンガお兄ちゃん、メイジの1体を切り倒して 見守ってくれていた トンガお兄ちゃん、クルトさん、最後にお父さんの順に側に来てくれて 握りこぶしを 出してくれる。
冒険者同士で グータッチする合図だ。
私も 小さな拳を握りしめて 其々の拳に コツンと当てて お疲れの挨拶をすれば、何だか一流の冒険者になった気がした。




