第198話 グーダン大山ダンジョン その9
昨日はお好み焼きを食べ過ぎてたから 今朝は動けないんじゃないの?と思っていた4人は 全くそんなことなく 元気でした、大食漢って凄いですね。
おはようございます、ダンジョン11日目の朝も すがすがしいです。
お兄ちゃんたちの鉄板テーブルを見て 使い勝手が良さそうだと思ったお父さんが、昨日の見張り番中に ノハシムで採掘してきた鉄鉱石を使って 鉄板を作っていました。
鎧とかを作るのは無理だけど 土魔法が得意な人は これくらい簡単にできるのだそうです。お父さんはマジックバックを持っていないので 私のリュックに収納しておきますね。
けど、お兄ちゃんたちと行動していれば この鉄板の出番はなさそうだけど、余程昨日の鉄板焼きが楽しかったんですね。
さて、昨日は9階の5つ目のセフティーゾーンで野営をしましたので、今日の目的地は 10階にある中ボスのお部屋です。
中ボスさんに会うのは ウレアの中級ダンジョン以来ですが、あのダンジョンでは 中ボスの部屋に転移陣はありませんでした。
ここには その転移陣があるらしいので どんな風になっているのかを見るのが楽しみです。
「ここの中ボスは 固定じゃないけど 10階までに出てきた魔獣の上位種しか出ないから 対応に苦慮することはないと思う。
それなりの数は出ると思うけど どう分ける? ヴィオも ここでは魔法で行くでしょ?」
ここまでは 短剣の練習をしてたから 魔法は強化と結界くらいしか使ってなかったからね。流石に 皆で集中攻撃するなら遠距離にしておきます。
「じゃあ 4分割でいいか、左から 僕、クルト、ルンガ、ヴィオの感じで」
「いつもの感じで並んでたら 上段と下段に分かれてると思うけど 縦割りでいいの?」
「あ~、演出……」
「ぶっ、ちょっ 思い出させないで。くっくふっ、ゲホンゲホン
そうだね、その場合は 上段の左側が僕、右側がヴィオ、下段の左がクルト、右がルンガでいいかな?」
「「了解」」
「は~い」
配置も決まったので いざ10階へ。
ここまでの高原エリアとは全く違う、いつものボス部屋ゾーンになった10階層。
かなり前庭というか 階段を下りてから お部屋の扉までの空間が広いのは、きっとボス待ちする人たちの為に 待合室を広く作ってくれたのだろう。気遣い屋さんである。
5人で扉に手を当てて いつもの古めかしい音を立てながら 扉が開く。
真っ暗闇の中 私たち全員が中に入ったところで 扉が閉じる。
そこから徐々に明かりが灯っていくのもいつも通り。
「くっ……、確かに 演出っぽい」
「ほら見てやれよ ちゃんと皆静かに佇んで待ってくれてるぞ」
ほんのり明るくなってくれば 敵のシルエットも見えてくる。だけど相手はまだ動かないし音も立てない。これが演出でないと何故思う?
すでに トンガお兄ちゃんはツボにはまっているらしく 静かに悶えているけど 魔法は打てそうですか?
シルエットからすれば ハイシカーマンティスと マントを着てるのが居るので メイジゴブリンあたりだろう。
ハイシカーに見せかけて 変異種だったら 結構面倒なので 壁から行こうか。幸いマンティスは 上段に3体並んでいるので 2体分確保しても良いかな?
お兄ちゃんの笑いが治まらない時用に 一応左端のやつも 蔦魔法で動けないようにはしておこう。
「【ウォーターウォール】【ウォーターランス】【アイビーウィップ】」
明るくなったところで 魔法を展開。
ほぼ同時に メイジゴブリンが杖を掲げて「ギッギャッギャギャ」とか言ってるから スタートの合図だと思う。
「【エアカッター】、【エアショット】」
「【ファイアボール】【エアショット】」
「は~、【サンドショット】【サンドカッター】」
私の盾が2体のマンティスを包み込んだ直後、ルンガお兄ちゃんと クルトさんの魔法が順番にゴブリン隊に打ち込まれていく。右手と左手で違う魔法を其々打てるほどの余裕があるようで、10体ほどいるゴブリンは 眉間か心臓を打ち抜かれてキラキラ消えていく。
笑いをこらえたトンガお兄ちゃんも 二人に然程遅れることなく マンティスに二つの魔法を打ちこんだ。サンドショットを防ごうと 鎌で自身を守ったけど、鎌を打ち抜かれて長い首を掠った。
だけどその直後に 自由に動く砂のカッターが首を切り落としてしまったので これもキラキラと消えていった。
私の確保していた2体は 普通のハイシカーマンティスだったらしく 壁の中 四方八方から生やした水の槍で討伐完了していました。
「も~、直前に笑い過ぎて 魔法使えないかと思った、笑わすの禁止」
「いや、そういえば そう見えるなって 感想を伝えただけだろ」
「そうそう、でも ほんっと 動きもしないで 皆ジッと待ってたな。あれは待機してたって感じだった」
宝箱が出たことろで トンガお兄ちゃんから 笑わすの禁止宣言が出たけど、誰もそんなつもりはなかったんですよ? でも クルトさんも やっぱり待機しているように見えたってことだよね?
「そうそう、だから早く出てあげないと 次の子達が準備できなくて焦っちゃうからね」
「まあ じゃが 次の冒険者はしばらく来んから 大丈夫じゃないか?」
「ちょっ、父さんまで、も~ お腹痛いんだけど、やめて~~~」
トンガお兄ちゃんは 意外と笑いのツボにはまりやすいようだ。腹を抱えて ヒーヒー言ってるのが 面白過ぎる。涙目になってるけど大丈夫ですか?
ちなみに 宝箱は ランダム魔獣と言っていただけあって、全く魔獣に関係ないものでした。
「これって……」
「人気のタレの詰め合わせだな。この味を再現したくて 作られた屋台の味が 今一般的に食べられてる味だな」
1リットルくらい入る陶器製の壺が5つ、皮の蓋つきなので漏れずに安心?
「でもこれって マジックバックを持ってない人だと 持って帰れなくない?
普通の鞄に入れたらこぼれちゃうよね?」
「まあな、マジックバックを持ってない奴らは 置いていくか、次の野営の時に食べるかするんだろうし、じゃない奴は ここで転移陣に乗って帰れば 鞄で漏れる心配もない。
結構このタレ人気だからな、高く売れるぞ」
豊作ダンジョンらしく 食べ物に関する物が入ってるとは思ってたけど まさか肉焼きのタレとは……。
まあうちのメンバーは全員がよく食べるし、お好み焼きにはちょっと甘いけど お父さんの特製スパイスを混ぜたら 良い感じのソースになるし良いか。
タレの壺を其々鞄に入れたら 部屋を出る。
私たちは11階に行くのが目的だから 入ってきた扉は使わない。
中ボスを倒したことで現れたアーチを潜れば 不思議な形の小部屋だった。多分上から見ればハート形になっている部屋は 入って奥、右側の 丸い部分に転移陣が光っており その奥には扉があった。
手前、左側の丸い部分に 下に続いているであろう階段が見える。
「あの転移陣に乗れば1階に戻れるんだよ」
「11階から戻ってきた時はどうなってるの?」
「その時は転移陣は無くなってるはずで、あっちの扉から出るんだよ。ボス部屋からここに入るのは扉じゃなかったでしょう?」
確かに。壁しかなかった場所に ポッカリ穴が開いたようにアーチ状の穴が出来ただけだった。
という事は、下から戻った時には ここは壁になっているという事だ。
「壁を埋める作業もしてる!?」
「ぶはっ」
「いや、多分自動でなってんじゃね? ボス戦終わった後も 音もしねーでこの状態になってるしな」
クルトさんは冷静です。
転移陣がある場所の扉は 10階のボス前エリアに続いているらしくて、その扉もこちらからしか開けられないらしい。
確かに 10階に下りた時に ボス部屋に入る扉以外の扉なんて 見た覚えがなかったもんね。
「下から来た奴らは 中ボスを一回倒している奴らだからな、戻るのに倒す必要はないってこと。
ただし、転移陣を使いたいなら もう一回中ボスと戦う必要があるけどな」
成程ね、ダンジョンの不思議がまた一つ増えたね。
例えば 11階から戻ってきた人が 扉を潜って 10階のボス前エリアに入ってきた時、ボス前エリアで待機していた人が その扉を潜ることができるのかな?
何となくできない気がするけど 気になるよね。
ダンジョンノートに書いておこう。




