第194話 グーダン大山ダンジョン その5
小休憩を終えたら4階に下りる。
とはいえ 10階の中ボスがいる階までは ずっと高原が続くので あまり見た目に代わり映えはない。
ただ 敵の種類は増えているし、リポップ時間が過ぎているからか 3階よりは明らかに数も多い。
索敵をしたところ フロアの広さは これまでとさほど変わらず セフティーゾーンも3つだった。
「思った以上に早く到着したから 今日はこのまま散策しつつ 1番目のセフティーゾーンを目指そう。昼食はそこで採って、周辺の採集をおこなう。
午後は 移動できそうなら 2番目のセフティーゾーンまで行って 野営準備と思うけど いいかな」
「明日5階に行くなら 3つ目のセフティーゾーンまで行っていいんじゃねえか?」
珍しく クルトさんからの意見が出たけど どうするのかな?
私はどっちでもいいと思ってるけど、お父さんはどうかな?チラリと見上げれば お父さんから「ヴィオはどう思う?」と逆に聞かれた。
「うーん、明日の移動を考えれば 3つ目のセフティーゾーンの方が移動は楽だと思う。
だけど、魔獣の量を考えたら 多分採集しながら 結構来ると思うんだよね。
そうなれば ちょっと時間がかかるし、魔力も体力も使うことを考えたら 2つ目の方が安全だとは思うかな」
そう答えたら お父さんは満足そうに頭を撫でてくれる。正解だったっポイ?
クルトさんも反対意見はないらしく 魔獣の量を見ながら 対応していこうという事になった。
思ったよりこなければ3つ目迄、来るようなら2つ目迄でいいだろうという臨機応変な動きだね。
1つ目のセフティーゾーンまでは 然程魔獣の数は多くなく、1時間ほどで到着することが出来た。
お兄ちゃんたちは さっきのモグモグタイムをしたにもかかわらず しっかりガッツリ昼食を食べていたけど、皆の胃の中は アイテムボックスのように無限収納なのだろうか。
自分があと10年後に あれだけ食べれるようになっているのが想像つかない。
スッカリ魔力も回復したらしい お兄ちゃんたちの気合も十分で、午後の移動が始まる。
高原だから 足元の蛇の穴は気を付ける必要があるけど、索敵で 感知しているし、マッピングの為の索敵は 担当制になっているものの、自分たちの行動範囲を中心とした 小さな索敵は 全員がしているから 落とし穴に落ちる人はいない。
採集地になる草むらは 小さな小動物……じゃなくて魔獣が潜んでいることも多いけど、それもしっかり見えているので 出てくる前に 魔法でさっくり倒している現在。
「ヴィオ、そろそろ短剣の練習もしておいた方がええんじゃないか?」
「そっか、魔法と鞭だと 危険性は少ないけど そればっかりじゃ駄目だよね」
ついつい楽だから 魔法と鞭を使いがちだけど、それじゃあ訓練にならないからね。お兄ちゃんたちは 魔法を使うのが 訓練だから 積極的に使ってるけどね。
ということで、後半は 短剣だけを使って討伐することにしたよ。
ウルフやゴブリン、シカーマンティスは 草むらに隠れることは出来てないので 目視で直ぐに分かる。
ウルフもなぜかこのダンジョンでは肉が時々ドロップするけど、美味しくないらしいので この三体が落とすドロップアイテムは無視だ。
という事で そっちは お兄ちゃんたちが魔法で討伐し、足元に来る グラススネーク、ホーンラビット、グラスラットは私が短剣で討伐と 分担することになった。
討伐しながら 草むらで採集し、時々落ちる蛇肉と兎肉はお父さんに渡していく。
草を引き抜いてパンプキンヘッドのランタンが作れるくらいデカい南瓜が出てきた時には驚いたけど、ダンジョンだから何でもアリなんだと思えば 気にならなくなった。
だけど、だけどさぁ、ジャガイモみたいに ズルリと出てきたトマトはどうかと思うよ?
鈴なりに 真っ赤なトマトが土の中から出てくるとか、どういうこと?ってなるから。
「ヴィオは 変なところを気にするよな。薬草以外の生えてるとこなんて気にして見た事ないから 全然気にならねぇ」
「僕も 裏の畑で作ってた野菜は覚えているけど、あれもほとんど土の中で成長する野菜だけだったし、あんまり気にならないかな」
スパイス系と 薬草系しか 気にしたことが無いというクルトさんと、裏庭のパテトと マルネギ、ジンセンくらいしか気にしたことが無いというトンガお兄ちゃんは、私がウガーッとなっている理由が分からないらしい。
確かに私もこっちでの畑状況は知らないんですけどね、でも 野菜自体の大きさとかは違っても 結構似た見た目の野菜たちが 一律土の中から出てくるという違和感は拭えないんですよ。
そんな事は言えないけど、時々ウガーと言いながら それを見てお兄ちゃんたちが笑うという採集時間を過ごしていたら 2つ目のセフティーゾーンに到着した。
「3つ目に行くには 少し時間がかかるな。勿論【ウインド】を使えば 余裕じゃが そこまでする必要もあるまい」
「そうだね、じゃあ 今日はここで野営にしちゃおう」
クルトさんたちも セフティーゾーンが見えてきた事で 試してみたい魔法をガンガン使ってたから 腹ペコみたい。
ここでお泊りすることになるから、さっきとは違い テントも準備をするよ。
火おこし組と テント用意組、料理の下拵え組に分かれて作業を行っていく。
言うて 火おこしは【ファイア】の微調整で 簡単になったし、テントは いつもの【アースポール】で吊り下げるだけ。
下拵えに一番時間がかかるのかもしれないね。これも 他のパーティーでは 保存食を食べるというのだから 時間が余って仕方がなさそうだよね。
「いや、こんなテントの作り方する奴 あんまりいねーからな?
俺ら色々旅してきたけど 大概組み立てしてっから 結構時間かかってるぞ」
「たまに 大容量のマジックバック持ちの人が 畳まずそのまま収納出し入れしているってのは見た事があるけど、あの人たちの容量を見てみたいよね。
テントも大きかったし、あれをそのまま入れても気にならないレベルの容量って 便利だよね」
クルトさん曰く、やっぱり 土魔法を使ってのテント準備は普通ではなかったらしい。お兄ちゃんたちは誰が担当になってもやってるから 当たり前なのだと思いかけてました。
トンガお兄ちゃんが見た事のあるという テントそのまま収納。
それは 極端な面倒臭がりな人なのか、それとも かなり大容量だからなのか、私の鞄も大容量だし まだまだ余裕はあるけど、畳まないって事は 嵩張るから それだけ収納を圧迫するもんね。
相当広いか、他のものを入れるのを諦めてるのかだよね。
まあそれだけ印象深いという事は 狙われる可能性も高い訳で、気を付けておかないと駄目だね。
そんな事を話しながら 夕飯を作って 皆で食べる。
今日も新鮮なお肉が沢山ゲットできたから、肉メニューが豊富だ。
普段なら 乾燥野菜だからスープと肉串になっちゃうけど、ここは採れたて新鮮野菜が沢山だから サラダも 野菜炒めもたっぷり作れる。
「美味しい~、ダンジョン産でも お野菜は同じ味なんだね」
「豊作ダンジョンの良いところは 水以外の食料に困らないってことだよな。これであの水生成魔法を覚えたら このダンジョン潜り放題になるんじゃねえか」
「ヴィオ、ダンジョン産の野菜は 魔素が普通より多く含まれているんだよ。辺境北部は 全体的に魔の山から近いから魔素が多めだけど、他国や 例えば王都に近い南部なんかだと 低いんだよね。
その分 食事による魔力の回復量に結構違いが出るって事覚えておいた方がいいね」
クルトさんの感想に 皆が “確かに” って納得してたら、トンガお兄ちゃんから 野菜の美味しさについて指摘された。
まさか魔素量で 美味しさが違うとは。
魔獣に含まれる魔素は 魔獣の強さによって違うけど(他の魔獣を倒して その魔石を食べることで 強化されていくからね)、野菜は土の中の魔素量に左右されるから そこまで濃すぎるという事にはならないらしい。
だけど、山から離れれば離れるほど 危険性が低くなると同時に、魔素量も薄くなるから 野菜に含まれる魔素量も減る。
食事で回復するのは 食材に含まれる魔素を身体に取り込んでいるからって事だったのかな?
であれば やっぱり水生成魔法で 自分の魔力を抜かない状態の水を飲んだら回復が早そうだよね。人には飲ませれないけど、自分だったら問題ないだろうし。
「確かに……。考えたことなかったけど そうかもしれないね。水筒に1本だけ 準備しておこうかな」
「だったら 見張りの最初に水を作っておいて 交代するときに魔力減ってるんだから それを飲んでみたらいいんじゃね?それでどれくらい回復するか見てみよーぜ」
「おぉ、確かに。それなら かなり練習できそうだな。なぁヴィオ、風魔法で 魔力操作の練習になりそうな方法 なんか思いつかねーか?」
すごいざっくりした感じで聞いてくるけど、無茶ぶりっていいません?
とはいっても クルトさんも ルンガお兄ちゃんも、あの【ウインド】を調整できるようになったという事は相当 魔力操作が上手になっているんだけどね。
それでも 見張り中には 手頃な木の板を磨いたり エアカッターで細かく切ったりする練習だけで飽きてきたらしい。
まぁ、基本は地味な作業の繰り返しで 正確に出来るように 魔力の動きを実感するのが目的だもんね。飽きても仕方がないと思う。
「私がよくやってたのは 葉っぱを右手と左手で行き来させるって事だったんだけど……」
ここには 大きな木が無いので その辺りに生えている草で代用する。
右手に乗せた草の真下に空気の玉を作り出し ふんわり浮かせる。
浮いたところに 口でふっと吹くくらいの強さの風を当てて 左手に落ちるように調整する。
今度は左手でも 同じように浮かせて 吹いて 右手に飛ばす。
「ってこんな感じ。地味だけど、浮かせる時の空気、吹くときの強さの調整も必要だから 結構面倒だよ」
そう言って顔をあげれば クルトさんと ルンガお兄ちゃんは 早速草をちぎって 手元に数枚置いて準備をしている。
浮かせる風の玉がまた難しくて 吹き上がり過ぎてどこかへ飛んで行ったり、浮きあげたは良いけど 当てた風が強すぎて クルクル回りながらちぎれたり、私もやった覚えのある事を二人もやっている。
「くそっ、簡単そうに見えたのに 難しいぞ」
「おいっ、何でそんなに飛ぶんだよ!」
飛んでいく草に 呼びかけても 戻ってきませんよ。
うん、今夜はこれをずっとやっていそうです。
 




