〈閑話〉メネクセス王国 19
銀ランク上級〔土竜の盾〕リーダー テリュー視点
「テリューさん、テリューさん宛にお手紙が届いていますよ。送り主の名前はありませんが 送信元は王都のギルドですね」
アイリスとヴィオが消えて3年目の風の季節も終わる頃、ギルドに行ったら受付から手紙を渡された。
アイリスからの手紙だと思ったが 王都からと言われて違うと分かる。
もしかしたらフィルか?
いや、王様がギルドなんか行ける筈がないか。だけど魔法封された手紙だから万が一って事もあるかもだな。
「テリュー、早く!」
「会議室借りるね」
「あっ、はい。2番をどうぞ」
「ありがと、あと悪いけど ギルマス呼んでくれる?」
俺の思案など気にすることもなく 直ぐに開けろとせっつくメンバー。サッサと会議室をおさえ ギルマスまで呼んでる始末。
まあ、これがもしフィルのやつからの手紙だとしたら 俺たちだけで判断できねーかもしれないしな。
1つの机を囲むように 其々椅子を引っ張ってきて 車座になって手紙を見つめる。
「よし、開けるぞ」
緊張の面持ちで手紙の封を切った時、ノックの音と共にギルマスが入ってきた。
「おう、王都からの手紙だってな。俺も聞かせてもらうぞ」
改めて封筒から手紙を取り出し その内容を読めば 差出人はやはりフィルだった。
懐かしむなんて気持ちになれないような あまりの内容に 俺たちはしばらく動けなくなった。
「まさか、アイリスが……?」
「なんだよその色ボケ子爵ってやつは、アイリスが愛人疑いだって? 自分より弱い奴なんて男としても見れないやつが?ありえねーだろ」
「それよりも ヴィオは? ヴィオまだ5歳だよ?
フィルだけじゃなくて、アイリスまでいなくなるなんて、そんな、そんなのあんまりだよ」
アイリスの押し掛け弟子のようになっていたネリアは 特に俺たちの中では 二人と一緒にいる時間が長かったからな、ヴィオの事も可愛がってたから特に心配なんだろうな。俺もヴィオの事が心配だ。
「ギルマス、俺たちは行くぞ」
「おお、俺からも頼む。あの時 フィルをけしかけたのは俺だ。国なんて関係ないって、嫁と産まれたばっかの子供を大事にしろって言ってやらなかったせいで……。
せめてヴィオだけでも無事でいて欲しい。何かあったら 直ぐに連絡してくれ。俺で手伝えることならなんでも手伝うから」
あの時のことを後悔し続けているのは俺だけじゃない、あの男を追い返しておけば、フィルを会わせなければ。ギルマスは言わなかったけど ずっと後悔してたんだろう。
フィルに〖経費は出来高払いでよろしく〗と書き残して 魔法封なんかの手続きはギルマスに頼んだ。
手紙が来た翌日、俺たちはヘイジョーの町を出発したんだ。
◆◇◆◇◆◇
「皇国に入ったら 冒険者ギルドがなくなるの。あの国では 聖魔法以外は野蛮な魔法って言われてるくらいだから」
「聞いてはいたけど そんな国があるって事が驚きだよな。魔獣が出ないんだっけ?」
「うん、対外的には 聖女のお陰って言ってるけど、実際は魔獣除け結界の魔道具に聖属性の魔力を注いでるの。辺境の教会は結界能力が落ちたら 魔の森から魔獣が来ちゃうから必死だと思う。
中央なんかは パフォーマンスだね、聖女たちを集めて 月に一度 大っぴらに見せびらかしてる。
『こうして この国は聖女によって護られてるんだ』ってね」
メネクセス王国と皇国を繋ぐ国境の町 ネンシーに着いたところで ネリアから 皇国の事を詳しく聞いた。ネリアは今回の目的地、アスヒモス子爵領の隣にある ジェザク子爵領地ってとこに実家がある 男爵家の4女だ。
貴族令嬢だと思ってなかったから はじめてそれを聞いた時はびっくりしたけどな。
リズモーニ王国の魔導学園に留学が決まった時に 学園で力をつけて 冒険者登録をしたら そのまま逃げようと決めていたらしい。
「パフォーマンスの時に姿を見せるのは 貴族の聖女が殆どね。あいつらは普段仕事を碌にしないで 金持ち相手に癒しの魔法を使うくらい。
皇都の聖堂にある結界魔道具に魔力を注いでいるのは 平民上りの聖女や聖人、後はニーセルブとか他国から攫ってきた聖属性持ちね。
辺境にいる司祭たちなんて 中央から左遷された人たちだし、あの国は根っこから腐ってんのよ。
何でこんな国を選んだんだろう、せめてリズモーニだったら アイリスの聖魔法は重宝されただろうし、冒険者としての活動だってできた筈なのに」
普段大人しいネリアが ここまで激昂することは殆どないけど、実家から逃げ出したいと思った理由を俺たちは知っているから 仕方がないとも思う。
「ネリア、だからこそだと思うよ。
フィルの手紙にあったでしょ? 宰相とやらが依頼してアイリスを追った時 冒険者の記録が一切なかったから難航したって。
敢えてギルドの証明書は使わなかったんだよ。そこから足取りを掴まれたくなかったから、だから冒険者ギルドが無い皇国にしたんじゃないかな。
皇国でも回復薬と薬系なら売れるじゃない?だから選んだんじゃないかな。ヴィオが洗礼するくらいに成長したら リズモーニに移動したかもしれないけど、それまでは安全圏でって思ったんじゃないかな」
アンの言葉に 成程と納得した。
ネリアも同じだったみたいだな。
「さて、じゃあ 明日から皇国に入る。アスヒモス子爵領に入ったら聞き込みだな。
オトマンは このままこの町で待機、アスヒモス子爵領までの中間地点の町で其々伝令役としてアン、レスの順で残ってくれ」
冒険者ギルドがあれば 手紙を送れるが それが無いから 風の伝令魔法を使うしかない。2つ分の町の距離は飛ばせても、流石に目的地からは遠すぎる。
オトマンは黒豹の獣人で ネリアから皇国入りを禁止されている。あの国は人族至上主義だから オトマンが見つかれば どういう扱いを受けるか分からないからだと。
オトマンとしては 嫁のネリアが心配なんだろうが 今回の道案内にネリアは必須だからな。オトマンには 俺たちの情報を ギルマスに伝えてもらう役割を頼んだ。
ネンシーの町でオトマンと別れ、俺たち5人で皇国へ入国した。
国境門では訝しげな顔をされたものの、共和国が目的地だと告げたことで納得された。どう見ても冒険者の風貌の俺たちだから 下手に巡礼の為になんて言わない方がいいと言われたのだ。
国境門から6日目の町で アンを、更に1週間歩いた町でレスを伝令役として残していく。
俺たちがアスヒモス子爵領地に入ったのは 国境を越えて3週間、年越しまでもう少し というそんな寒い日だった。
子爵令嬢の洗礼式は 年越し後です
 




