第182話 ノハシム鉱山ダンジョン その13
ギルドに提出した予定表では 3週間かけてボス部屋を目指す予定でしたが、11日目でボス部屋に到着してしまいました。
おはようございます 『戦闘狂の家族が揃えばそうなっても仕方ない』そう思っているヴィオです。
深層階は 2泊3日で採掘も楽しんだのに、なぜこんなに早く到着したのだろうか。
う~ん、予定は未定って言うしね。
ボス部屋は 相変わらずの いかにもな佇まいで 15階には 階段を下りたところの広いフロアと 大きな扉しかありません。
事前情報では ロックゴーレム1体と ゴーレム2体が待っているらしいので、まずは ゴーレム2体を ルンガお兄ちゃんと クルトさんの 【エアカッター】でやってもらうことにしました。
「ロックゴーレムは 魔法の耐性があるんだよね? 他のゴーレムたちよりもって事かな」
「そうじゃな、土魔法を使ってくるし、土魔法は効果が無いと思った方がええ……が、あの砂の鞭は効果がありそうな気がするなぁ」
なんでちょっと残念そうなのか分かりませんが、効果があるなら良いのではないでしょうか。
とりあえず トンガお兄ちゃんは 【サンドカッター】を開幕一番でロックゴーレムに使う予定。
私は 極小ボールの火、水、土、風の4つをぶち当てるつもりです。
「よっし、じゃあ 準備は良い?」
「おう」
「武器を持たずにボス部屋に入る日が来るとは思わなかったなぁ……」
クルトさんはツッコミ過ぎて疲れていますか?
何故か このダンジョンいや、この旅が始まってからは ツッコミ担当になってるからね。うんうん、ボケ担当が ツッコミ担当に変わると 慣れなくて大変だよね。
「別に俺 ボケ担当じゃなかったけど……」
「でも ヤラカシ担当ではあったよな」
「緊張感がないのぅ……」
本当ですよ、ボス部屋ですよ?皆さん しっかりしてください。
緊張感ゼロのまま、皆で扉に手を当てれば、毎度のように ギギ ギギ ギギギッギと 建付けの悪い扉音を鳴らしながら ゆっくり扉が開いていく。
「ふぅ……」
「っし!」
真っ暗な中 少しずつ明かりが灯り始めれば いつものように 三体のゴーレムが並んでいるのが 薄暗い中見えてくる。
後方にいる 一回り大きく ゴツゴツしているのが ロックゴーレムだろう。
「【ファイアボール】【ウィンドボール】【ウォーターボール】【アースボール】」
「「はっ!?」」
自分の手の中に4つのボールを作り出す
普段はエアショットだけど、ボール系で 揃えたかったので ウィンドボールにしてみたよ。
4つの手のひら大あるボールは 目の前で ギュルギュル回転しながら どんどん圧縮されて小さくなっていく。
完全に部屋が明るくなった時、ゴーレムたちが動き出そうと声?音を出した
『ンガゴゴゴッゴゴ』
「発射!」
「「えっ!?」」
開幕の声を聞く前にいつもは倒していたけれど、今日はお兄ちゃんたちもいるからね、様式美というか 一応待ってみたよ。
発射の合図で 目の前にあった4種のボールは 真っすぐゴーレムに飛んでいき、岩の腕が 守るように胸を隠したけれど、全く問題なく腕を通過し そのままどうやら核も貫通したようだ。
ピシ ピシッ ピシシッ ガラガラガラ
「「【エアカッター】」」
ちょっと固まってた ルンガお兄ちゃんと クルトさんも ロックゴーレムの動きが止まったところで 魔法を放った。
上で散々練習していた魔法だからね、余裕でゴーレムを真っ二つにし、3体が立っていたお立ち台に宝箱が現れたことで ボス戦は無事に終了した。
「うんうん、やっぱり極小ボールは 効果的だったね」
「異なる属性の同時展開 4つは初めてだったじゃろう? 上手に出来たな」
お父さんに褒められて 非常にテンションが上がる。
最初は2つから始めたけど、違う属性の魔法を一緒に展開するのは難しかったのだ。特に相反する魔法(水と火とかね)は どっちかが小さくなってしまうことで失敗することを繰り返していたのだ。
なので、左右で違うことが出来るように 〈もしもしカメよ〉の歌に合わせて 右手で三角を、左手で四角を書くという練習から始めたのだ。
それが出来るようになったら 同じ属性魔法で 違う魔法を作る練習をし(右手でボール、左手でアロー)、それが成功するようになってから 異なる属性で同じ種類の魔法を作る練習を重ねたのだ。
「相反するだけの魔法よりも 3つ以上にした方がお互いに 干渉し過ぎなくなって 上手くできるようになったの。並び順は気を付けなきゃだけどね」
水と火を並べると喧嘩になるから 間に風を入れたら 非常に上手くいくようになったのだ。
「そうか 凄いな。サブマスに見せてやらんとな」
「うんっ!」
きっと興奮して喜んでくれると思うんだ。
「僕 リーダーなのに……」
「兄貴 出番なかったな」
「俺も ビックリし過ぎて魔法忘れそうになってたから 仕方ねえって。お前らの妹が規格外すぎんだ」
ふと気が付けば トンガお兄ちゃんが 膝をついて項垂れている。
「あぁ!お兄ちゃん 【サンドカッター】の効果があるか見たいって言ってたのに 先に発射しちゃってごめんね」
明るくなるまで待たなきゃって気持ちだけで 発射しちゃったけど、今は合同パーティーで行動しているんでした。
これが知らない人だったら 喧嘩の案件だよね。
項垂れているお兄ちゃんに近付き 顔を覗き込む。ゴーレムには 余裕で効果があったから 多分ロックゴーレムも問題なく使えたと思うけど、ほんとごめんね?
「ふふっ、ははっ、も~~~~、ほんとにうちの妹は 何なの」
「むぎゃ!ふが ふが むが」
ガバリと起き上がったトンガお兄ちゃんに抱きしめられて 頭頂部にホッペをスリスリされる。
お風呂入ってないから 頭ゴワゴワなのに、くすぐったいし 抱きしめられて 喋れないし、でも お兄ちゃんが怒ってなくてちょっと安心してたりする。
「怒る訳ないでしょ? 自分の情けなさに反省はしてるけど。ってか 魔法ってあんなに準備してられるんだね。開始と同時に 発射してたでしょ?」
ギューに満足したらしいお兄ちゃんに下ろしてもらえたけど ちょっとフラフラしますよ。
「うん、だって誰が待ってるか分かってるのに 律儀に待つ必要ないかなって。
発射自体は 登場演出が終わってからじゃないと攻撃にならないんだと思うけど、待機の状態を維持できるなら安全でしょ?
自分たちの強化系の準備もそうだけど、守る壁も 演出中にかけれるのは実験済みだよ」
「演出……」
「あぁ、言われてみれば 登場演出……ぷはっ、そんなこと思うのヴィオくらいだろ」
「儂もはじめは驚いたんじゃが、言われて一緒に入ったら そうとしか思えんようになったんじゃ」
「だって皆が並んで待ってるって演出じゃない? 通路だったら ウロウロしてんのに ボス部屋だけは 偉いもの順に ちゃんと皆の顔が見えるように並んでるんだよ?
完全に明るくなってから 吠えたり やるぞ!って感じになるでしょ? 命がかかってるから待たないけどさ、登場演出に見えちゃうんだよね」
「ぷ~~~~!あっはははは、ちょっ、やめて、ふふふ、言われたら、ふふっ、そうとしか、見えない」
「確かに今回も ロックが後ろで ゴーレムが前に並んでたな」
「やべぇ、次から そう思って見ちまいそうだ」
そう思って見てあげてください。多分 皆で相談して並んで待ってくれているはずだから。
「冒険者が、来るまで、相談して、な、並んでるっ……」
うん、ボス部屋待ちの時とか 大慌てで準備していると思うんだよね。倒してきた冒険者が次の部屋に行ってから 出てきて、お部屋が ボロボロになったら 片付けて、次の冒険者が入れるように 準備して 並んで どうぞ!って感じ。
もしかしたら 何組かグループ分けして 休憩組とかもあるかもだけど、多分 人気のダンジョンとかは すっごい大変だと思う。
「ひ~、もう、無理っ、やめて……」
「まあ確かに、前の冒険者がボス部屋に入って しばらくは開かないのが当り前だけど、前の冒険者がどれくらいの速さで討伐してんのか 後ろで待ってる俺らには 分かんねーもんな。
転移部屋が無いボス部屋だとさ 戦った奴らが出てくるけど、その後しばらく扉開かねーだろ?
そう考えたら準備してんのかもだよな」
ルンガお兄ちゃんは 私の意見に賛成のようで 確かに、成程と頷いてくれる。
そして笑い転げていたトンガお兄ちゃんは既に笑い過ぎて ヒーヒー言いながらお腹を押さえて蹲っています。もしかしたら 腹筋攣ってます?
「ルンガ、俺 お前を尊敬するわ」
クルトさんはどう思いますか?
あくまでも ボス部屋の演出は ヴィオの想像です




