第174話 ノハシム鉱山ダンジョン その5
パニックルームの魔獣を掃討した後、残っていたドロップアイテムの無事なものだけを回収し 室内に入った。
部屋の奥には 宝箱が置いてあり、魔力回復薬が3本と 蜘蛛の糸が10束程入っていた。
お兄ちゃんたちは 回復薬を私にくれようとしたけれど、使った事が無いので お兄ちゃんたちに使ってほしいと渡した。
かわりに 蜘蛛の糸は全部くれるというので、これはリリウムさんへのお土産に持って帰ることにした。
「いや~、ほんとに便利すぎたね。これは中の魔獣のレベルにもよるけど、開けた途端の 危険性がぐっと減るよ。ヴィオ ありがとうね」
パニックルームで野営準備をしていたら、トンガお兄ちゃんから ギューしてワシワシされました。
お兄ちゃんたちの生存率が上がるなら 覚えてもらえてよかったですよ。
風の盾を張るのは クルトさんか ルンガお兄ちゃんになるので、二人は 魔力をあげられるように 野営見張り中にも 魔力操作の練習を頑張っているらしい。
確実に使える魔力量が増えているのが 実感できるらしく、練習が楽しくなってきたんだって。
野営準備が整ったところで 採掘に行くことにしたんだけど、例の冒険者パーティーが 居なくなるのを待つために 魔獣討伐をし過ぎたらしく 採掘の音に釣られてくる魔獣が居なかった。
カンカン コンコン ガラガラ
「魔獣 来ないねぇ」
「いやいや、来ない方がいいだろうが」
「そうなんだけどね……」
カンカン コンコン ガラガラ
ただ壁を掘るだけって 飽きてきちゃうじゃない?
というか、適当な場所を こうやって掘ってるんだけど 当たりがある場所を掘るなら 索敵でその辺りの場所って分かんないのかな。
「お父さん、この鉱石のある場所って 土魔法の索敵で分かんないのかな?」
シーン……
何気なく 隣で掘ってるお父さんに問いかければ その場が静まり返ってしまった。
ふと見れば お兄ちゃんたちもツルハシを置いて ガーンという顔になっている。もしかして 気付いてなかった感じかな?
「思ったこともなかったが 確かにそうじゃな、やってみよう」
お父さんがそう言って 洞窟の壁に手をついて 魔力を流していく。
フッと口角が上がったのを見れば 多分分かったという事だろう。
「ここと ここじゃな」
指さした場所にツルハシを入れれば 鉱石が転がり出てきた。
「奥の方にあるのは 多少深く掘る必要はあるけど、浅い位置のは すぐ分かるね。クルト、ルンガ、ココとココ 掘って」
土魔法が得意属性の トンガお兄ちゃんが ここは担当することに下らしく、上の階でゲットしておいた 石灰石で 採掘場所に丸印を次々書いていく。
それを見て お父さんも同じように丸印を付けてくれるので 私がその部分を掘っていくという 完全分担作業になった。
そんな超効率的な方法をとったもんだから 30分もすれば 用意しておいた採集袋が3つ満杯になってしまった。
「鉄鉱石ばっかり持って帰っても仕方ないから これくらいにしておこう。これ、深層階でも使えたら 凄い稼げちゃうんじゃない?」
「まあ 方法を聞かれるじゃろうがな」
「属性魔法の索敵は そんなに珍しくはないんでしょう? だったら それは教えてあげてもいいんじゃない?」
サブマスは 使い勝手がそう良くはないから 使う人は少ないけど、属性の索敵は 一般的だと言っていた。エルフの風魔法での索敵、海人族の水魔法での索敵は 人族が使うソレよりも精度が高いというけれど、多分 私が使っている無属性の索敵と同じくらいの精度で彼らは使えるのだろう。
お父さんも 確かにそうじゃなと納得をした事で、鉱石の多さに質問があった場合は 土属性の索敵方法を使った採掘については教えようという事になった。
採掘を終え 住民が居なくなったパニックルームに戻り、夕食をゆっくり頂き 仮眠(私は熟睡)をする。昨日までとは違い 魔獣との戦いもあり、採掘もしっかり行い、とっても冒険をしたという感じで充実の一日だった。
◆◇◆◇◆◇
ダンジョン3日目です、おはようございます。
昨日は 私が寝ている時間帯に 一組の冒険者パーティーが 6階に戻ってきたらしく、もう一つの個室で野営をしていたみたい。
斥候が居るパーティーだと パニックルームの見分けがつくらしいので、下りる時点で こちらがパニックルームと分かっていたら 近づかなくて当然と 見張り番をしていた トンガお兄ちゃんが教えてくれた。
そっちの冒険者パーティーが活動を開始する前に 私たちは7階に下りたので 会うことはなかったけど、こうしてダンジョン内で結構他のパーティーと会うことがあるんだね。
「昨日喋った冒険者パーティーは 多分 初心者パーティーか、経験が浅いんだと思う。
知り合いと再会したならまだしも、基本的に 馴れ合いはしないのが暗黙の了解だからね。
勿論ギルドで会った時に 挨拶をしたり 一緒にご飯を食べることはあるけど、ダンジョン内では 襲い掛かってくる奴らもいるからね。
ソロで活動している人は 特に魔獣より 冒険者モドキに襲われる危険があると思った方がいい。
だから 父さんも ヴィオと二人で人のいるダンジョンを選ばなかったんだよ」
良い道具や 武器を持っている冒険者を 襲う人たちは 一定数は居るらしい。
特にダンジョンは 証拠が消えるから 襲い放題と言えばそうかもしれないね。マジで魔獣より怖い。
昨日私を 抱きしめようとした冒険者なんかは お父さんに切り捨てられてもおかしくなかったらしい。此方からすれば 一番弱い仲間を連れ去る もしくは人質にして 何か悪いことをされそうになった。という自己防衛の理由も成立してしまうから。
そういう判断が出来なかった時点で 彼らが初心者だという判断だったらしい。
「小柄な女が 多分リーダーだな。言葉少なだったけど 他に注意してただろ?」
ああ、ローブで口元まで隠してたから 性別不明っぽい人がいたね。『他のパーティーに口出し厳禁』って言ってたし、その後に 上階に戻る決定もしてたもんね。
でも 一番年下に見えたのに リーダーとは。
いや、小柄なだけで年齢が上って事もあるか。他の二人の手綱を頑張って握ってほしいところではあるね。
そんな会話を交わしつつ、7階を歩いている現在。
思ってたより魔獣の数が少ないので お兄ちゃんたちも武器を仕舞い、時々現れる相手には 魔法で対応している。練習と訓練を兼ねているんだってさ。
「48時間リポップじゃからな、儂らより先行しておる冒険者、昨日戻ってきた冒険者2組が ある程度討伐しておるから 少ないんじゃろう」
そうか、中級ダンジョンのわりに 魔獣の数が少ないと思ってたけど、他の冒険者が倒している分 リポップしてなかったって事だったんだね。
という事は、全部が揃ってたとしたら 相当魔獣の数が多いってことか……。
常に人が入っているこの鉱山ダンジョンは、ボス部屋まで行けば 転移で1階まで戻って来れるらしいけど、そこまでいかない人たちは 階段を上ってくるしかない。
となれば 最低限の魔獣とのエンカウントがあるってことだ。
その上で 採掘作業をしていれば その音に引き寄せられて 魔獣が集まり 討伐してもらえるから、深層に行きたい人も 結構安全に行動が出来るって事なのだろう。