第167話 護衛依頼(付き添い)の完了
結局 野営地に 他の商人や 冒険者が来ることはなく、早朝 日が昇る前に私たちは動き出した。
例の魔法は できるだけ 目撃者が少ない方が良いだろうという サッサさんの発言を受けてのことである。
昨夜 そう決めた時点で スープの仕込みと サンドイッチは沢山作っておいたので、皆で食事を終えたら 出発だ。ハーネスをつけられた馬達は 早速 荷車を引いて歩き始める。
ガラガラ ガラガラ
「じゃあ ヴィオ 頼んだぞ」
「うん、任せて」
追い風は 危険だから 荷車を浮かせるように。
……ついでに 重量軽減もしとく?
木の葉を移動させる魔法の時に 何気なくはじめた (多分)重力魔法は 普段使うことはないんだけど 今回の荷車には効果的ではなかろうか。
いや、まだ確立できている訳じゃないし、他人の大切な商売道具に実験するわけにはいかないから 大人しくしておこう。
「【ウインド】」
荷車全体を ふんわり持ち上げるような気持で 風魔法を展開すれば ガラガラと 聞こえていた車輪の音が消えた。
「お? これ 今浮いてんのか? あんま此処にいると分かんねぇな」
「うん、浮いてるね。だけどほんの少しだけだから 遠くから見る人には気付かれないと思うよ。
ヴィオ 流石だね!」
持ち上げ過ぎれば 荷物も傾くし、御者台に座ってる私たちも転げ落ちそうだから 水平に持ち上がるようにしているのが良かったようだ。
馬達は 急に重さを感じなくなったことに驚いているようで チラチラと サッサさんに視線を寄こしている。
「おお、お前たちも分かるんだな。今な 魔法で 荷車を軽くしてくれたんだ。お前たちの負担が減るようにってな。じゃあ ちっと 早く走ってみるか」
二頭の馬たちに優しく語り掛けるサッサさん、馬も ブヒヒン ブルルン と鼻息で応えたように見えるけど、会話出来ているのでしょうか。
うん、でも 理解しているようで 馬たちの走る速度が速くなった。
最初は 常歩で トコトコ と。
その状態でも サッサさんが荷台に座っていることを確認した 二頭は 更に速度を上げた。
次は 速歩、トコトッ トコトッ トコトッ という感じで 既に自転車くらいの速さになっている。
お兄ちゃんたちも 少し 早歩きという感じで 付いてくる。なんだか楽し気だ。
そんな状態でも サッサさんが 「もう少しいけるか?」と馬に確認したことで 更に速度が上がった。
これは もう 走ってるよね?
パカラッ パカラッ パカラッ って 気持ちよさそうに走ってる。
ハーネスをつけているし、二頭で並んでいるから そこまで早く走っている訳じゃないけど、既に原付バイクくらいの速さにはなっている気がする。
「おお、馬に魔法をかけとるわけじゃないからか、荷車が 跳ね上がるっちゅうこともないな。安定して 滑るように走っとるぞ」
「うんうん、いいね。僕たちも この感じなら そこまで大変じゃないし、これなら 昼食は ゆっくり休めそうじゃない?」
馬車に並走しながら 喋っているお父さんたち。
原付バイクと 並走しながら お喋りできるって どういう体力?
ルンガお兄ちゃん と クルトさんは 黙ってるけど、別にしんどいとかそういうのじゃなく、単に喋ることが無いだけのようで、涼しい顔して 走ってます。
「私 お父さんたちの家族なのに 体力なさ過ぎるかもしれない……」
「いやいや、ヴィオ お前まだ 6歳だろ? 体力のかわりに こんだけ魔力があるんだから それだけでも 十分サマニア村の住民だぞ?」
ん? サッサさんの表現に 何か不穏な響きを感じたんだけど どういうこと?
「あははっ、辺境北部は 他の村に比べて かなり特殊な環境でしょう?
そんな環境で 小さな頃から 当り前に 過ごしていると、他所の国に出た時に びっくりすることが多いんだよ。町の普通のおじさんが金ランク冒険者って 普通はないとか、薬草があんなに村の中に自生しているなんてありえないとかね。
勿論 戦いの実力もだね。あの村で 自衛力が少ないとされている ギルド職員だって、あの森のウルフくらいは狩れるしね。
他の町や国で 不思議がられたら『プレーサマ辺境伯領地の北西部が出身地』って言えば 大概納得してもらえるよ」
なにその ヤベエ秘境扱いは。確かに 村の外に出たことで 色々サマニア村の常識外れは 理解したけども。
でも 確かに 羊三姉妹だって 武器を持って戦っているのは見た事ないけど、土魔法で 土嚢を作るのは上手くなってたし、水溜りも上手に作ってたよね。
「あぶないわぁ~」なんて言ってたけども、実際に戦いの場に赴けば やることできそうだよね。
昔の物語というか 絵本でも、子供を護る為に 狼のお腹をハサミでチョキチョキ切り裂いて 岩を詰め込んで 井戸に落とすなんて 結構残虐な事もできる種族だもんね。
あれ? あれをしたのは羊じゃなくて 山羊だったかな?
どっちにしろ 普段は温厚なタイプの人を怒らすとヤバイって事だね。
流石に駈歩で このまま走らせるのは 止めておこうと サッサさんが指示したことで、二頭は 速歩よりちょっと速い くらいの速度で落ち着いた。
時速15~20km/hくらいだから 頑張る母ちゃんが漕ぐママチャリくらいの速さかもしれないね。
そんな速さで走るもんだから 10時頃の時点で 今夜宿泊する予定だった野営地に到着してしまった。
「まじか、これは 夕方には 余裕で帰れるな」
「じゃあ ちょっと しっかりお昼ごはん食べよっか。お馬さん達も いっぱい走って ちょっと疲れちゃったよね」
サッサさんは驚きながらも 早く帰れることは嬉しいらしく、馬たちのハーネスを外し、水を飲ませ、干し草を与え、ブラッシングをしながら労っている。
馬たちも 時々 サッサさんに顔を摺り寄せているから お互いに相思相愛なんだろうね。
私たちは 昼食の準備だ。お父さんと私でスープの準備を、クルトさんが メインのおかずを、お兄ちゃんたち二人が パンを軽く炙って 籠に積み上げていく。うん、ゆっくり休憩時間がとれるもんね。いっぱい食べれるもんね。
ここから町までは 普通に護衛つきの馬車として走れば6時間ほど。
勿論 他の人たちの気配を察知した時点で魔法は終了することになるし 町の近くになっても終了だけど、今の感じだと 余程町の近くまで行かないと ヒトと会うことはなさそうだという事だった。
その予感は正しく、1時間ほどの昼食休憩の後 3時間ほど 馬車を走らせれば 目的地 ノハシムの町に到着した。
「いやぁ、1日以上早く到着とは 恐れ入った。ヴィオに依頼料を払えないのが残念だが その分 兄貴たちの報酬に上乗せしとくから、色々買ってもらえ。
ダンジョンに入るんだろ? だったら 鉱石をたっぷり採掘して来てくれ。その鉱石が町を潤すことになるからな」
4の鐘が鳴る前に 帰れたことで サッサさんは非常に喜んでくれた。
ここのダンジョンは 各階で鉱石が採れるようで 階が深くなれば なるほど、希少な鉱石に変化するんだって。ガハハと笑って 馬たちと一緒にサッサさんは自分の商会に帰って行った。
私たちは5人で冒険者ギルドに向かう。
依頼は 領都で受けたけど、完了の報酬は こっちの町で受ける。これはギルドがある町同士だからできることで、そうじゃないところへの護衛とかの場合は 往復して 拠点に戻ってから報酬受け取りなんてこともあるらしい。
依頼書には サッサさんから 報酬増額の書き込みがあったらしく、通常の報酬よりも多かったと お兄ちゃんが驚いていた。
『タイムイズマネー』
商人だったら きっと大切にしているだろうから、1日も予定が前倒しにできたからこその増額は 私にとっても 非常に嬉しいものだった。
この魔法が使える相手は 限られるけどね。
尻が痛すぎる&暇すぎるので 早く到着する為の方法をお伝えしましたw