第16話 マジックバッグ
お部屋に戻って引き出しから袋を取り出す(お父さんが)
テーブルに戻って 再び子供椅子に。
この袋、昭和レトロな肩掛け鞄みたいな感じの作りで、ペロンと蓋がかぶっているだけの作りだ。
蓋の右隅に菫の花の刺繍が刺してあるだけの、本当にシンプルな鞄である。
これがマジックバッグとはやはり信じられないんですけど?
「あぁ、この刺繍の所、中に魔石が縫い込んである。ヴィオ ここに魔力を流してごらん。」
触ってみると 確かに少し膨らみがあり、何かがあるのが分かる。
そこに魔力を流し込む……。
「お父さん、いつまで流すもの?」
「ん?そんなにか? 基本的には反発がある。これ以上流れない。というのが分かるまでじゃが……。」
体感時間2~3分 魔力を流したところで、自分の手から魔力が押し出せなくなった。これがいっぱいという事だろう。
お父さんは大分驚いていたし、魔力切れを心配してくれているけど、だるい感じも 頭痛も めまいも無いから、想像しているより流してないのかも。
魔力を外に出したのは、昨日のギルドカードが初めてだったと思うし、慣れてないから時間がかかっただけだと思うという事になった。
お父さんに言われて相変わらずペラペラに見える鞄の蓋を開けてみたら、白い布切れだったはずの鞄は四次元ポケットになっていた。
「えぇぇぇ!?」
「儂には白い何も入っておらん布鞄のままじゃ。ヴィオには黒い空みたいに見えとるか?」
お父さんの質問に高速で頷く。
手を入れて中身を出したいと思えば 何が入っているのか 分かるようになると言われたので、不思議空間に手を突っ込んで中身を見てみたいと考えた。
すると頭の中に 鞄の中身らしい物がずらりと並んだ。
ゲームとかではステータスウィンドウとかに 絵とか文字が浮かんで 整理とか出来ていたけど、それとは違う。
記憶映像を思い出している。って言うのに近いかな。
物が沢山あり過ぎて 全然それが何なのか分からないけど、母と一緒に採集した覚えのある薬草と、母が作っていた薬瓶が見えた。
「取り出したい物を想像して鞄から手を出せば 取り出せるぞ。」
そう言われたので、薬瓶を掴もうと思ったら、四次元ポケットの中に突っ込んだ手に ほんの少しの重量を感じた。
そのまま取り出せば、見覚えのある薬瓶。
「お母さんの作った薬だ……。」
他の薬を見たことが無いから、もしかしたら違うのかもしれない。どこかで買ったものかもしれないけど、多分 母の作った薬だと思う。
「薬を入れた時期にもよるが その色、まさか時間停止まであるのか……?」
なにやらお父さんは驚いているけど、マジックバッグって基本的には時間停止じゃないのかな?
「ヴィオ、鞄の中に 両親に繋がるようなものが入ってはおらんか?
見る時に 目的の物。例えば武器を取り出したい。と思えばバッグの中の武器が、素材を取り出したいと思えば素材が思い浮かぶはずじゃ。
この場合は……母親と父親に関するなにか。でええかのぅ。」
おぉ、ピックアップもできるんですね。
あの倉庫の中から目的の物を見つけるのは無理だと思ったけど、それならいけそう。
(母さんか父親のことが分かるもの見つけたい)
想像しながら四次元空間に手を突っ込めば不思議な杖と、箱と、小さなタグ。
お父さんに見せてもらったのと同じ、冒険者タグもあった。
箱は≪封印中:お守りのネックレスが鍵≫となっている。
お守りのネックレスというのは この鞄に入っていないようだし、心当たりがあるものだと あのネックレスだけど、既にアホ娘によって奪われた後だ。
この箱を開けることは出来ないのかもしれない。
不思議な杖は……うん、見なかったことにしておこうかな?
これがどこかの街で買ったものじゃなければ、母がどんな人だったのかを考える必要が出てくる。
これは今考察すべき内容ではない。
という事で、冒険者タグを取り出してみる。
お父さんと一緒の銀色の小さなタグには、3つの穴が開いている。
「銀の上級か……。いや、回復魔法が得意だった事を思えば 実力は金ランクでもおかしくなかったんじゃろう。」
聞けば金ランクになれば 貴族からの指名以来が入るらしい。
銀ランクまでは冒険者が望んで縁を持ってきた指名依頼はあっても、名前や噂を知って貴族が指名することは出来ないようになっている。
昔 貴族が 優秀な冒険者を自分の専属にするために指名依頼で拘束し、討伐に出られる冒険者が足りずに大変なことが起きた。というのが 銀ランク以下への指名禁止理由らしい。
金ランク以上は 国の騎士団も関わるような討伐に参加する機会も多く、依頼者が貴族となることも多い。その為 ランクアップ試験では、貴族との対応を確認する項目もあるらしい。
これに関しては、パーティー内で誰か対応担当者が出来れば良いという、冒険者に優しい内容となっているみたいだけど。
勿論銀ランクの時の様に 自分の専属にするための指名は禁止とされており、依頼内容はギルドでも精査されるようだけど、指名は断れない。
だけど、金ランクの上級まで行けば 冒険者から断ることが出来る。
白金ランクが最上だけど、現存するのは世界に一人しかいないし、エルフのその人は 今隠居しているのか、どこにいるのか分からないらしい。エルフだから死んではいない筈。というのがギルドの談。
実質 冒険者最上ランクとされている金の上級でも世界に4人しかいないそうだ。
サラマンダースターの〈リーダー戦士〉マルヴィンさん〈回復役〉ライヒアルトさん
美麗なる調査隊の〈リーダー騎士〉フランチェスコさん
ソロ冒険者のチャーキ・アシャカさん
中々の厨二臭を醸し出しているフランチェスコさんには是非お会いしてみたい。
金の上級は、国から国賓として招かれるくらいで、貴族も 無茶は言えないって事らしい。
お父さんが銀ランクのままなのは、貴族と関わりたくなかったから。
母も多分そうだったのだろうというのがお父さんの考え。私も昨日の話を思い出すとそうだと思う。
ラノベの読みすぎだとは思うけど、冒険者にとって貴族のイメージってそんなに良い物ではない気がする。
貴族と関わりたくないから、ランクを上げない人は一定数いるだろう。
世の中には金の初級より、銀の上級の方が 凄いのが居そうだよね。