第164話 プレーサマ辺境伯領都 その5
2日目の今日は トンガお兄ちゃん と クルトさんが別行動で、お父さんと ルンガお兄ちゃんと3人で商業区にお買い物へ出かけた。
勿論 お食事時間には 中央広場に集まって 全員で屋台飯を楽しむのだけど、その後は また 自由行動ってことみたい。
「ルンガお兄ちゃんは 昨日の 自由時間はどこに行ってたの?」
「馴染みの店に顔出してたくらいだな。
兄貴とクルトは 長剣使ってるから 同じ店で手入れすることが多いんだけど 俺は槍がメインだからな。別の店に行くことが多いんだ。
よく行く街に 馴染みの店を作っとけば 俺の癖とかも覚えてもらえるしな、武器を作ってくれた店に行くのが一番だけど、そうそう村に帰ることもできないだろ?
大抵冒険者は そうやって 武器、防具、雑貨、魔道具屋は 馴染を作っていくんだ」
だから昨日の自由時間は そういうお店に顔を出して 挨拶をしに行ってたんだって。
買い物をしなくても そうやって交流を持っておけば 次にお世話になる時に 忘れられてない事が多いらしい。
「へぇ~~~~、馴染みのお店とか 格好良いね」
「冒険者に情報が大切なんは ギルドで学んで知っとるじゃろう? 馴染の店での会話から その街の情報を知ることもできる。町や村の人たちとの会話でも 色々な情報を得ることは出来るからな。
そうやって常に情報を集めることは 自分の身を護る事にもつながるんじゃ」
お父さんの言葉に 納得しかなかった。
今の私は ダンジョンの村に行って、ダンジョンの情報を集めるって事はしている。だけど、それ以外には そんな事を考えて行動していなかった。
初級ダンジョンの村の人たちは 到着した翌日には 「ダンジョン頑張ってね」「無理しちゃだめよ」「もう何階までいったのね」「ちゃんと休むのよ」などなど、いたわりの声を沢山かけてくれた。
私が小さいから 構ってくれてると思ってたけど、宿の女将さん達以外の 八百屋のおじさんや お肉屋のおばさんが ダンジョンに行くことを知っていた事を不思議に思うべきだったよね。
きっと新しい客人が来たことで、門番から不審者ではない事、父親とダンジョンに入る事、銅ランクの冒険者だから大丈夫という事などが通達されていたんだろうね。
お父さんも サマニア村にいる時よりも 村の人たちとお喋りを良くしてたけど、あれは 情報収集の意味もあったのかもしれないね。
かぁ~!そんな事に気付けなかったとは、ラノベで知識をいっぱい集めてたはずなのに ダメダメじゃないか。
むむっ、これからは耳をダンボにして しっかり情報収集頑張らないとだね。
「まあ程々にな。情報の全てが正しいとは限らん。領都のように大きな街では特に 噓の情報を流して 混乱させようとする者もおる。
何が正しいのか それを判断するためにも 普段から 情報を集めておくとええぞ」
「うん、分かった!」
「あ~、親父がそんな感じで教えるから ヴィオがこんな感じになるんだな……」
ふんす!と気合を入れてたら ルンガお兄ちゃんがボソっと何かを呟いている。小さすぎて聞こえなかったけど、フッと笑った後に 頭をワシワシ撫でられたので 大した内容ではなかったのかな?
「共和国には トイレの魔道具もあったぞ。リズモーニは 子供の頃に生活魔法を習うのが当り前だけどな、他の国では 学び舎に行くまで覚えない奴らが多いし、学び舎も 全員が行くわけじゃねえからな」
お店で用途不明の魔道具を眺めていたら ルンガお兄ちゃんが色々説明してくれた。
色んな魔道具屋に寄り道したけど、回復薬はどこのお店でも取り扱っていて、武器、防具が多くあったのは工業区域のお店だった。
こっちの商業区域は 便利道具が多い気がする。冒険者が使うというより 家とかで使うような物が多い。
洗濯機的な魔道具があったのは驚いたけど、貴族は【クリーン】で綺麗にするより 手洗いでする家の方が多いらしい。
香りをつけたり ノリをつけたり 天日干しでふんわり仕上げたりと、理由があるんだね。
だけど トイレの魔道具とは……。
クリーンで充分なのに 勿体ないと思ってしまうね。
お父さんも 随分長く リズモーニから離れてないから 他国の魔道具事情は流石に知らなかったらしい。
そう言えば 学び舎完全無料は リズモーニでも このプレーサマ辺境伯領地だけだと聞いたね。他は 魔導学園に入るほどの値段はかからなくても それなりに諸費用がかかると聞いたので、お金に余裕がない家では 学びの必要性を親が感じなければ 通うことは出来ないかもしれないね。
「ここが 平民エリアで買える一番大きな魔道具屋だな。
ってか なんで鑑定眼鏡なんかほしいんだ?」
ルンガお兄ちゃんが連れてきてくれたのは かなり大きなお店で、大通り沿いにある 高級店って感じの店構えだった。
私たち 普段着だけど、このまま入っても良いのかなって 思っちゃうくらい 大きなお店だ。
目的のアイテムを伝えたら、あるとしたらこの店か 貴族街にある店だろうということ。流石に貴族街の店は お兄ちゃんたちも連れて行けないと言われたので 此処に無ければ 王都まで我慢だ。
「だって 持ってたら便利じゃない? 採集した物が分かるし」
「そんなもんか?」
ルンガお兄ちゃんはそう言ったけど 本当は違う。
鑑定眼鏡を使って 鑑定がどうやって行われるのか、どうやって見えるのかを確認したい。
それに慣れたら 自分で鑑定の魔法を使えるようになりたいのだ。鑑定の理屈というか どんな風に見えているのかが分からないから 上手くできないままである。
前に自分を鑑定したあれは スキャンであって 鑑定とは違ったからね。
サブマスが 魔獣相手に試してくれたけど、討伐後の魔獣には スキャンが出来たけど 生きてる魔獣には 出来なかったと言われた。
多分相手が こちらの魔力を受け入れないからだと思う。
多めに魔力を流したら 攻撃だと感知され 魔獣に襲われたから 討伐したって言ってたしね。
「「いらっしゃいませ」」
ドキドキしながら 大きなお店の扉を潜る。
扉を入れば 両サイドに ガードマンのような屈強な男が二人、ムキマッチョさんの挨拶で迎えられました。
店内は 外観のとおり かなり広く、商品は たくさん積み上がっている訳ではないけど、展示が無い訳でもない。
そうだな、デパートの化粧品売り場みたいな感じかもしれない。各ブースに 店員らしき人がいて、客の応対をしているから 困った時にも直ぐ聞けそうだね。
工業区の魔道具屋さんは それこそ床の籠に 山積みに入った道具なんかもあったけど、ここにそんな売り物はない。
全てが 私の頭くらいの高さの棚に並んでいて、眺めて歩くには ちょっと見えづらい。
背伸びしながら ちょこちょこ歩いてたら ルンガお兄ちゃんが ひょいと抱きかかえてくれたお陰で 目線が上がり とても見やすくなった。
「お兄ちゃんありがとう」
「おう」
そっけない言いかただけど お兄ちゃんたちが優しいのは知ってるからね。
ギュッと首に抱き着いて 見やすくなった魔道具を見て歩く。
「なにをお探しでしょうか」
「妹の為に 色んな魔道具を見せてやりたいと思ってるんだ。ギルドで使ってる鑑定眼鏡の取り扱いがあれば 購入も考えているのだが あるか?」
「左様でございますか、鑑定眼鏡の取り扱いはございます。3階になりますね。
ここ1階には 消耗品を、2階には 武器、防具を、3階に 鑑定眼鏡のほか、マジックバック、生活に便利な魔道具を、4階に装飾品を取り扱っております。
お嬢さんの身を護るのであれば 指輪や ネックレスなどの装飾品もおすすめですよ」
「そうか それは興味があるな、見てみることにする。ありがとう」
「いえいえ、どうぞごゆっくりご覧くださいませ」
店員さんが 滑らかに説明をしてくれたけど 4階建てのお店とは凄いね。チラリと お父さんと お兄ちゃんの胸元を確認してたから、多分冒険者なのだと分かったんだろうね。
お兄ちゃんのポシェットも チラ見してたから、マジックバックの事も教えてくれたのかな?中々観察眼が凄いのかもね。
ということで、3人で 3階を目指して階段を上がる。
2階は “ザ・冒険者” って感じの人たちが多くて、武器と防具を見ながら 説明を聞いたりしている。
私たちは 自分の武器があるから 特にこの階に用事はない。
3階も人が多いけど、明らかに冒険者ではないという見た目の人も多い。
マジックバックは 便利だから 冒険者じゃなくても欲しいよね。だけど ルンガお兄ちゃんは マジックバックの売り場に興味が無いらしく 素通りである。
店員さんに声をかけて 鑑定眼鏡の確認をしてくれた。
見せてもらった鑑定眼鏡は ギルドで使っているのと同じ片眼鏡の物で 価格は100ナイル、銀板1枚である(日本円にすると10万円だよ!高いっ)
「た、高い……」
流石に銀板1枚もする高価な魔道具を 使えるようになるか分からない鑑定魔法の為に買いたいとか言えない。
「ヴィオ 村に戻ってからの報酬でも十分足りるじゃろう? なんなら儂も使ってみたいから 買うか?」
「ダメ!それは駄目。私が欲しいって言ってた魔道具だから 買うなら私のお小遣いで買う。
でも、折角貯めたお金だから 今後の事も考えて 本当に使えるか考えるの」
お父さんが甘い言葉をかけてくれるけど、こんな高価なものをおねだりで買わせるなんて とんだ悪役令嬢みたいじゃないか。ダメダメ。
そんな私のグラグラしている気持ちは ルンガお兄ちゃんの一言で 簡単に傾いてしまった。
「でも ヴィオ、どうせ悩んで 後々買うなら 鉱山ダンジョンの鉱石も確認できるし、豊作ダンジョンも 見るべきものは沢山あるぞ?」
「店員さん コレください」
「えっ、あ、はい。鑑定眼鏡でございますね。100ナイルとなりますが お支払いは現金でしょうか、ギルドカードでしょうか」
「あ~、4階のものも確認したいんじゃが、纏めての支払いは可能か?」
「勿論でございます。では 先に4階へご案内いたしましょう」
ちょっと驚いた店員さんだったけど、流石はプロですね。
お父さんの確認に 即座に4階へ案内をしてくれることになったよ。お客さん1組に 店員1組とまではいかないけど、ひとりでフラフラしているような客には 「どうしましたか?」と確認に行ってるから こちらを気にしている客はいない。
サービスとしても行き届いているけど、なにより盗難防止になってるよね。
4階は 全てのアイテムが ガラスケースに収納されていた。宝石屋さんとか時計屋さんとかって こんな感じだった記憶がある。
「魔虫の硬化羽を使っておるんか、金がかかっとるな……」
お父さんがボソッと呟いたけど、何ですかそれ?
「ネッカーティンっつう 魔虫だな。羽が二枚あってな、内側の羽が加工すれば あのケースに使われているみたいに硬い板になんだよ。だから ダンジョン以外で見つけた時は 争奪戦になるな」
お兄ちゃん曰く 使い勝手が良いから 高値で素材が売れるらしいです。
そんな素材が この階にあるすべての棚に施されてるんだから このお店を経営している人って凄いお金持ちだね。
この階は他の階より半分くらいの広さしかないけど、その分 個室が用意されているらしくって、気になった商品は 個室に持ってきてもらってゆっくり見ることができるんだって。
お父さんは ショーケースを眺めながら 店員さんに どんな効果があるのかを確認している。もしかして買う気ですか?
超真剣なお父さんは 店員さんにお任せして、二人で見て回って良いと言ってもらえたので 反対側からゆっくり見て回る。勿論お兄ちゃんの抱っこのままですがなにか?
「冒険者は 自分の武器の取り扱いがあるから 邪魔にならない装飾品を選ぶやつらが多い。剣を持つやつらは指輪より 腕輪を選ぶし、魔法使いは指輪が多い。
攻撃に上昇効果を得る様な装飾品は手に付けることが多いし、防御系は ネックレスが多いな」
魔道具を中心に 効果が展開されるから 攻撃サポートの指輪や 腕輪は 利き手に付けることが多いし、守りは 心臓を中心に体幹から全身へって事で ネックレスか ベルトのバックルになるんだって。
「へえ~、そっかぁ。お兄ちゃんたちは 何か付けてるの?」
装飾品には 〈守りのネックレス 水の魔石:ブルーウッドラース〉とか書いてあるんだけど、それを見ながら お兄ちゃんが 簡単な説明をしてくれるから 面白く見ていられる。
詳しいわりに お兄ちゃんたちは指輪とかつけてないと思うんだよね。
「俺はこれだな」
スルリと胸元から取り出したのは ギルドタグ、とその鎖に チャームが一つ。
緑の石ってことは 風の属性が強い魔石だね。
「素早さが上昇するような効果があるな。ボス部屋なんかに入る前には 他の装飾品を使うこともあるけど、あんまり ジャラジャラ つけんの嫌いなんだよ」
アクセサリーつけ慣れない人はそうだろうね。私も髪留めだから気にならないけど、指輪とか腕輪は気になっちゃうだろうなぁ。
色変えの髪飾りも数点あったけど、今使ってるのを気に入ってるから 特に変更するつもりはないかな。
非常に悩んだ結果 守りの効果があるネックレスを選んだらしいお父さん、それを見せてもらう為に個室に案内されたよ。
お花の形にデザインされたチャームは とっても可愛くて、お父さんからのプレゼントだって。
鑑定眼鏡は 私のギルドタグから引き落としをお願いしたら 店員さんがびっくりしてたけど、声を上げることなく 「畏まりました、では こちらのチェーンに 守りのチャームも お付けしましょうか」と冷静に返してくれた。流石プロです。
銀行のキャッシュカード的な役割も果たしてくれる ギルドタグ、銀板4枚分以上の預金があるから 支払いは問題なくでき、帰ってきたネックレスには タグの隣に 可愛いお花のチャームが揺れていた。
お父さん ありがとう。
遂に鑑定眼鏡を購入しました!